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07 その未来が


【22日 はれ りんちゃんとあそぶ】


散乱した画用紙の一枚を手に取ると、女の子と蝶々の絵の下に一行の説明書き。今日は外で遊んでたらしい。

空白の目立つ日記部分をもう少し埋めないと宿題にならないだろう。先生に怒られるぞと、コアに声をかける。

お絵かきに夢中で空返事のコアを横目に散らかった部屋を片付ける。そろそろコアのお迎えが来るからと、クグイに言われて呼びに来たらこの有り様。片付け、明日でいいかな?


「たくまのにっきのまねしたの」


どうやら参考資料があるらしい。

コアがぱらぱらと捲っているノートが“タクマの日記”だろうか。ざわざわ(笑)と幻聴がした気がする。

コアも見てるわけだし、いいよね?


どれどれと読んでみると最後のページには、


【22日 夕 落雷 停電………】


箇条書きで日付と単語が並んでいた。日記には見えないけど、もしかしたらと思い、ページを捲る。


【10日 ■■■■ 昼 屋上 少年 × ■■■■】


空が光り、遠くでゴロゴロと鳴った。

日付はあってる。その後の文字化けのアルファベットは良くわからない。けど、屋上の少年は俺の事だろう。

雲行きがあやしくなり、風で窓が揺れる。

また、空が光った。

日付は飛び飛びで毎日書かれてはいなかった。日記というより備忘録的な?


【11日 夕 教室 構造式 ○ ■■■■】

【15日 昼 デパート 時計の電池交換 ○ ■■■■】


空が光り、同時に轟音が鳴り響いた。


「アユム、まっくら」


部屋の電気が消えて、咄嗟に服を引っ張られた。目が慣れるまで動けそうもない。ぽつぽつとした雨音で窓の外を見ると、周りの建物の灯りも消えていた。

次第に激しくなる雨音に混じって廊下から声が聞こえた。


「大丈夫か?」


クグイが灯りを持って来てくれた。


「明かりがつくまでは大人しくしてろ」


ランタンの灯りで照らされたノートを見て、ふと思った。停電?

クグイに、このノートは何なのか聞いてみた。


「なんて書かれているんだ?」


タクマのノートに、“今日、雷が落ちて停電する”って書いてある事を問い詰める。


「それで?」


それで…?

察しが悪いなぁ。このノートは予言書で、これを使ってループと戦ったり、運命を探す手懸かりにしてるんだろ。

クグイの眉間にシワが寄る。

どうやら、当たりを引いたらしい。言い逃れはできないぞ、今日こそ知ってる事を洗いざらい話してもら、


「日記だろ?」


んあ?


「過去の出来事が書いてあるなら、日記だろ」


そんな訳ない。天気が崩れるずっと前から、このノートはコアの所にあったし、今日の日付も書いてある。

けれど、証拠にするにはその先の“まだ起こってない事”がなければ信じてもらえない。やっと、ループについて何か教えてもらえると思ったのに。


「クグイ、そろそろ行くよ」


どこかに出掛けるらしく、タクマがクグイを呼びに来た。逃がすものか。背中を追いかけながら、俺も行く旨を伝える。


「ごめんね。車、4人乗りだから」


クグイとタクマと、運転手?

あとひとりは?


「向こうで乗せるから」


とりつく島も無く、気をつけて帰れよと扉が閉められた。

外はどしゃ降り、雷も近い、電気は消えたまま。さて、どうやって帰ろうか。


「アユム、お迎え来た。一緒に帰ろ?乗せてくれるって」


ラッキー。

何度か見かけたことのあるお手伝いさんに送ってもらえる事になった。


「さ、乗って乗って。凄い雨ねぇ。お家、どこだっけ?コアちゃん、雷怖くないの?」


車内はとても賑やかだったので世間話を装って少し詮索した。この人が、ループや運命の部外者な事は知ってるけど、予言書の消化不良を少しでも解消したかった。

(あれこれ聞こうとしたら凄く可哀想な子に見られた。これが中二病かしら?みたいな)

まずはあの二人の事とか聞いてみよう。なんか親しげだったし。


「そうねぇ、クグイ様とはもう10年以上になるわね。タクマ君はこっちに来る前だから5年位かしら」


…っ!

リアル“様”呼びに吹き出しそうになるのを必死で抑えたのだけど、ミラー越しにバレていたようだ。


「内緒ね。クグイ様って呼ばれるの嫌がるのよね。そう呼ばれても仕方ないと思わない?クグイ様に隠し事なんか出来ないし、私達よりも多くを見透していらっしゃるんだもの。クグイ様のお話は為になるでしょう?」


返答に困る(とりあえず頷いといた)。

この、好感度激高の人物は俺の知っているクグイだろうか?

クグイ、滅多にしゃべんないんだけど。

俺、嫌われてる?


「左の灯りのついてる家であってる?」


車が玄関先に止まると、母親が気づいて出てきた。俺を心配して、なんて事はない。御礼と挨拶。こういうところは抜け目ないなと感心する。『アユム、またね~』と手を振るコアを見送って家に入った。


「良く撮れてるわねぇ」


母親の手には、先日の月食の写真があった。さっきもらったらしい。『こういうイベント、よくあるの?』と、多分、遅くなったり泊まったりする可能性を聞いているのだど思うけど。その時俺は、空返事をしながら他の事を考えていた。

『忘れ物したから取りに行く』と、無理のある理由で外へ出た。





雷は遠いし、雨も弱まってた。

行く場所の当ては無い癖に、何故か行かなきゃと足が動く。

月食。イベント。日記。

あの日記には、なかった。月食の日付けが。

あれが日記じゃないなら。

何が、書かれているのか。


ループ。


手懸かりなんかじゃない。

たぶん、ループそのものだ。

今日、誰かがループしてて、タクマが迎えに行った。

俺の時みたいに。


『知らなくても、立っていられるだろう?』と、いつかのタクマの言葉が木霊する。


手の届くところに知りたいことがあるんだ。

知らなきゃいけない。立ち止まったら、立っていられない。そんな気が、した。

だから、蚊帳の外に出されたことに、イラついていた。それと、あの二人を出し抜いてやりたい。そんな下心があったんだと思う。


町に灯りが戻っても、車一台を歩きで探せる筈もないのに、信じて疑わなかった。見つかるまで終わる筈無いと、何故か。


そう、何故か俺は……。

二人を見付けるまで終われないループにいる様な、そんな気がしていた。



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