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06 起きて見た夢が

脱線してる?いえいえ。せっせと伏線埋め中です。

“力”が欲しい。


今日の課題を取り組みながら、唐突にそう思った。所謂、思い出し笑いとか、そんな感じの。

(暇なので勉強中)


「どうした?」


右手をわきわきしていると、不審に思ったクグイに声を掛けられた。

どうした、ってまぁ、なんというか。


今日、学校で……

『デリカシー無さすぎ。言わなくても分かるだろって思うなら言わなきゃ分かんない事くらい、言わなくても分かってよね』

『テレパシー使えるとか勘違いしてる奴、多すぎるのよ。現実見たら?この無能力者がっっっ』

って………。


なんか、髪切ったのを俺が気づかなくて、それくらい誤差みたいなもんだと思ったし、『言わなくてよくね?』って言ったらなんかすっげ怒られて…。


無能力者って、なんか“ぐさっ”と刺さるんだけど、気のせい?

ぐぬぬぬぬ…。

異世界行って無双して見返してやりたい。

『デリカシーの方は改善しないのかな?』というタクマの声は聞かなかった事にする。


「一般庶民も時の権力者も、望むものは同じだね」


時の権力者?何処から出てきたんだよ。

いやそれより、“望むもの”?


「知りたい?」


もちろん。異世界、能力大歓迎。

俗に言う“続きはよ”状態だ。


「只で、とは言わないよね?」


ソファーに場所を変えるとクグイがテーブルセットを用意していた。有料、もしくはまた仕事でもさせられるんだろうか。


「万有引力、アイザック・ニュートンについてどこまで知ってるかな?」


確か、リンゴが落ちるのを見て引力を発見した、だっけ。


「違うけど、そんな風に認識されてるね。実際には、“物質は大きな質量を持つほど大きな引力を持つ”それと、“距離が離れるほどその影響は小さくなる”ということなんだけど。


ニュートンは思ったんだ。リンゴが地球に引っ張られて落ちたのなら、何故月は地球に落ちて来ないだろう?って。


月は地球に引かれているが、公転による前進が引力と釣り合っている為に落ちて来ないと結論付けた。


ニュートンは、リンゴが落ちるのも、月が落ちて来ないのも、さらには惑星や彗星の運行にいたるまで。宇宙の全てを万有引力で説明出来ることを発見した」


凄い話、ではあるけれども。

宇宙の均衡に異世界がどう繋がるんだ?


「19世紀、天王星の発見を発端に異常事態が起こる。実際の観測軌道と計算した軌道が大きくずれたんだ。それまで“万有引力の法則”は絶対的な心理だったからね。学者達は慌てた。万有引力は間違っていたのかと、議論が重ねられた。


そして、天才が現れる。天文学者ユルバン•ルヴェリエ。


万有引力に間違いはない。天王星の軌道に干渉する質量があるはずだ、と。


海王星はこうして発見された。万有引力の法則が完璧なものだと証明された訳だが、実はまだ一つ小さな問題が残っていた。水星の軌道にも、僅かに計算とずれが発生していた。ルヴェリエはその問題にも取り組んだ。


結論は同じ。水星軌道に干渉する質量があるはずだと。世界中の天文学者が観測を始めた。発見前からその星に“バルカン”と名前まで付けられた。しかし、太陽に近いこともあり、発見は困難だった。


20世紀になって観測技術が向上しても、バルカンは発見できなかった。


そしてまた、天才が現れる。物理学者アルバート・アインシュタイン。


万有引力の法則から200年。アインシュタインの新しい重力理論が完成する。“一般相対性理論”。質量を持つ物体は、重力で周りの時空を歪める。歪んだ時空にある物体はその歪みの影響を受けて、引っ張られたように動く」


ちょっと何を言ってるのか分かんない。


「だよね。


“時空”は時間と空間の事だけど、まず時間から。重力の強い場所では時間の進みが遅くなる。無重力の宇宙と比べると、地上の時計は遅れて進む。次に、空間。重力の強い場所では、どんな物でも長さが縮むんだ。空間そのものが縮んでいると言ってもいい。


バルカンは存在しなかった。


太陽の強い重力で時空が歪み、水星の軌道に誤差が生まれた、ということだよ。


アインシュタインは一般相対性理論を使って水星の軌道を計算する事に成功した。


めでたし、めでたし。8(パチ)8888888…」


タクマが満足そうに手を叩いてる。俺も拍手するべきだろうかと悩んでいると、


「………で、終わらなかった。見つけてしまっただろう?“扉”を」


“扉”!?。

俺の食い付きにタクマが笑う。


「時空の歪み、だよ。


宇宙開発が始まったのがこの時代なんだ。もともと空想化学小説はあったけれど、宇宙開発にはお金が掛かるからね。人が宇宙に行くことはなかった。


世界恐慌で頓挫し、第二次世界大戦で開発は軍事利用が主だった訳だけど、その後“冷戦”が訪れる。


知ってるよね?ソ連とアメリカが宇宙開発競争を始めた。有人飛行ではソ連が大きくリードし、対抗したアメリカは月面着陸を果たした。湯水のように予算がつぎ込まれた。


冷戦は、異常なまでの恐怖心から始まったと言われている。第二次世界大戦で2600万人以上の犠牲を出したからね。有人宇宙飛行。自国を守る為に。戦争以外の手段で……」


追い詰められた人が起死回生を企む時、いったいどれほどの賭けをするだろうか。


「予算に見合うだけのリターン」


タクマの視線に体を固くする。次に続く言葉に好奇心と不安が渦巻くのを感じる。


「点と点が線で結ばれた時、君はどんな夢を見た?」


ごくり、と喉が鳴る。

時空の歪み、危険な有人宇宙飛行、採算度外視の開発競争。

全ては状況証拠に過ぎない。

けど、短時間で並べられたこの情報だけで俺はすでに幻視してしまっている。

扉がある可能性を。

戦争、多大な犠牲。その後の彼らは何を考えただろうか。打開策を求めた彼らの目に、それが希望に見えたとしたら。

その時代の権力者が、時空の歪みに夢を抱いたとしたら。



もし、そうだとしたなら……!


……いくらお支払いすればいいですか?と隣のクグイに助けを求める。


「タクマがはしゃいでるって言ったろ?話聞いて百面相してりゃ、十分だ」


ほっ。

一般庶民が聞いちゃいけない話だったらどうしようかと心配した。

で、その時空の歪みは何処に繋がってんだよ?


「さぁ?気になるなら行ってみるといい。お土産話、期待してるよ」


軽っ。


「知らないのか?」


「うん。知らない」


『珍しいな』とクグイが呟くけど、相変わらずサングラスで表情は読めない。



「夢のある話、でしょ?」



宇宙開発が時空の歪み目当てという部分以外、だいたい文献から引っ張ってきました。

水星探索船“みお”が旅立った時に書いたお話。

水星の磁場、ヤバいと聞きまして。


“予算に見合うだけのリターン”って

ハンター◯2の新大陸みたいでしょ?

クローン技術も飛行機も原子力もスマートフォンも

実現する前に誰かが夢を見たはずだ、というお話です。

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