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05 自分の立ち位置を

屋上に来てみたらなにやら騒がしい。

拡げられたお菓子にジュース、三脚のカメラ。

まぁ、無理を言ってここにる訳だし、邪魔にならないように待っていよう。そのうち説明してもらえるだろう。


「まだ時間があるみたいだから余興でもどうかな」


テーブルの配置が終わったみたいだけど、何待ちなのかを先に教えて欲しい。


「種も仕掛けもない、ただのシャッフルマジックだよ」


タクマの手元には小道具らしきものはないけど、トランプとかコインとかの手品だろうか。


「まずは、足元を見てもらえるかな」


履き慣れた靴に屋上のコンクリ?


「今から立っている場所を入れ換えるよ」


何をする気だろう。固いコンクリに意識を集中し、動かされまいと警戒するが、タクマは背を向けて空を見ていた。


「神話の時代、太陽が地球の周りを回っていた頃、地球が平らだったのを知っているかい?

船を作り、海を渡り、世界に果てなど無く、球体の様だと気づいたのが紀元前3世紀。正確に地球を観測したのが18世紀。


君が立っている地球は、本当に丸いのかな?」


振り向いたタクマは真っ直ぐ俺を見ていた。

何を言っているのだろう。それを疑う人は現代にはいないだろう。


「18世紀に何があったと思う?戦争。革命。宗教。

君は、地球の姿を見たことがあるかな?」


勿論だ。

地球の画像なんて探せばいくらでもある。


「写真で?動画で?映画で?」


それ以外に、何があるだろう。


「教科書で習ったから地球は丸い?」


そんなわけない。何故だろう、落ち着かない。

地球が、丸くないはずがないのに。

記憶を手繰り、地球が丸い証拠をかき集める。


「昔話をしよう。

紀元前beforeChrist。紀元後Annodomini(主の年に)。この世界共通暦はキリストの誕生から始まったものだ。

四隅を氷の大陸に囲まれた平らな大地。聖書にはそう記されていた。

15世紀に、とある団体にとって不都合なことが起こる。大航海時代。コロンブスやバスコ・ダ・ガマ。漠然と無限の海を夢想するのはいいが世界を暴かれるのは困る。彼らは一計を案じて船を出した。暴かれる前に、都合のいい情報を出してごまかしてしまおうと。それが、マゼランの地球一周だよ。

彼等にとって不都合な事は、丸や平らのことじゃない。聖書に記された世界の果てに隠されたものを発見される事だ。マゼランがどんなコースを通ったか、知ってるだろう?


君の眼にはどう見えているのかな」


見せられたのは、地球儀を平面図にするためのメルカトル図法を赤道ではなく北極で連ねたものだった。北極を中心に大陸が円を描き、大陸の外周をマゼランが航行している。“四隅を囲む南極”に触れることなく。


「彼等は地球が球体だと。世界に果てが無いと信じさせる事に成功した。

騙されているのは君だけじゃない。

その後、日本にも来ただろう?宣教師が。そして、西暦が普及した。これが何を意味するか、分かるかい?

世界規模で、隠蔽が行われた。世界の果てを隠すために。

検索してごらん?どの国にも属さず、にもかかわらず全ての国が上空を飛行することを禁じている大陸を」


たいした時間もかからず検索結果が表示された。

南極大陸。

着陸場所がないというもっともらしい理由が、『世界規模で禁止』という言葉で霞む。他に理由が、上空を飛行させたくない理由があるのでは、と。


じゃり…と、コンクリを踏みしめる。

固いはずのコンクリが揺らいだ気がする。


「現代では隠蔽も一苦労だ。聖書の解釈の相違から対立が起こり、SNS上で情報が飛び交った。こんな風に…」


”これが証拠だ”

写真にはそう書かれた紙を持つ男性が写っていた。重装備の登山者。澄んだ空、眼下に広がる雲海、湾曲した大地。見慣れた地球の姿がそこにはあった。これこそ証拠に、


「これが証拠にはならないよ。

地球が君の思っている物であるのなら、大地を曲面に見る為には地上35000フィートは欲しい。が、エベレストでも地上29000フィート。

フェイクニュースだよ。これは魚眼レンズで湾曲するように撮られたものだ。

これは地球が球体である証拠にはならない。それどころか、捏造してまで隠蔽をしようとした証拠になった」


スマホを持つ掌から、何かがぼろぼろと崩れていく。自分の中に、証拠と言える物がなかった。朧気な記憶が浮かぶ。修学旅行、飛行機に乗ったけど、あれはどのくらいの高度だろう?窓から見た景色は、、


「飛行機なら、35000フィート以上だろうけど、地表を曲面に見ることは出来なかっただろう?」


覚えてる。いや、覚えていない。

湾曲した大地を見ていない。自分が信じるに足る物を何も、何も持っていない。

脚が、震える。


「地表を曲面に見る為には広い視野が必要。残念だけど、地球が丸かったとしても客室の小さな窓では無理だよ。


君は丸い地球を“見た”ことがあるかい?」


苦しい、立つのが辛い。今まで疑ったこともなかった。何故、どうして。皆がそう言ったから、そう書いてあったから。写真、動画、教科書、映画。フェイクニュース。地面が揺れる。


きっと、今、平らな地球が揺れてる。


「頃合いだね。ショータイムだ」


タクマは空を見上げ、他の面々も、何かを待っていた。

自分は正直、それどころではない。世界規模の隠蔽。氷の大陸に隠された何か。二十世紀以上活動している謎の組織。キャパオーバーもいいとこだ。呑気に月なんか見ていられる気分じゃない。月なんか、…………。


…。


月が…、欠ける。


満月が、ゆっくりと、…欠けてく。


月食。

月が半分ほど欠けて、不細工なカーブを描いた三日月になった。


知ってる。あれは、


地球の影。


「丸い地球へお帰り」


もう、足は震えていなかった。

夜空に浮かぶ、あの欠けた月だけが、自分の信じられる確かなものだった。


「丸より平らの方が立ちやすいと思うんだけどなぁ」


タクマが不思議そうにしてる。種も仕掛けもなく、足元の地球を平らに入れ換えられて、戻された。

地球規模で詐欺られた。


「さぁ、並んで」


月食がピークをむかえた。

赤銅色の満月をバックに記念写真を撮るらしい。コア、タクマ、クグイの順に並んだので、バランスを考えたらクグイの隣だろうなと端に並ぶ。


「これで結構はしゃいでるんだよ、タクマは」


目線をカメラに向けてクグイが話しかけた。


「俺は目がアレだろ。コアはタクマの話を聞くにはガキ過ぎる。時間があったら付き合ってやってくれ」



この月食パーティーが俺の歓迎会だったと知ったのは写真が現像された後だった。



アースフラットで検索するとほぼまんまな元ネタが見つかると思います。湾曲した地平線は飛行機のパイロットとか気球とかでも見れる?とりあえず、私は丸い地球を“見た”事がないので、実は平らな可能性あるな〜、なんて。

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