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02 その他大勢の

「よろしく、アユム」


…ん?

誰かの名を呼んだタクマの手は、俺に握手を求める様に手を向けている。意味が分からずクグイを見ると、


「よろしくな。アユム」


違うし。一文字もあってない。ふざけているのか、それとも誰かと間違われているのか。ともかく、俺はアユムじゃない。


「違わないから。大丈夫」


何が大丈夫か分からないが、二人は俺の抗議を取り合うことなく話を進めた。何かの専門書と募集要項の紙がテーブルに置かれている。“どうぞ”と椅子を薦められて面接みたいだ。


「手伝うんだろ?」


まるで新世紀な指令室みたいに机に肘をついて顔の前で手を組むタクマと傍らに立つ長身の男クグイ。窓際のせいで後光がまぶしい。椅子の背凭れを引きながら書類を盗み見ると、



■■■■■■■■■■■

■バイト募集    ■

■学生限定     ■

■ドワーフ見習い  ■

■パズル好きな人  ■

■■■■■■■■■■■




……なんだこれ。







翌朝、俺はドワーフ見習いになっていた。


運命を探す手伝いとドワーフにどんな関係があるのだろう?まぁ、いいか。

専門書にはURLが貼ってあり、ガイドに従ってツールをダウンロードした。

専門書によると、“ドワーフにも色々いて得意分野があります。最初は石のドワーフに弟子入りしましょう”ってあるけど、見た目が全部同じでどれが石のドワーフか分からず総当たりすることになった。

ドワーフというからてっきり金槌で鉄鉱石を叩くのだろうかと思ったら“人間じゃないんだし、道具なんて要らないし作らないよ”とか。

洞窟とかに住んでるかと思ったら流動質のマントルの中を泳いでて“今はプレート移動が流行り”とか。

なんか、イメージと違う。


見習いは岩塩(NaCl)からって相場が決まっているらしく、岩石の試練を卒業すると鉱石のドワーフ、そして宝石のドワーフに進める仕組みだ。途中、鉱石の天敵の酸素(O2)に邪魔されたり、ガス溜まりに嵌まってベンゼン(C6H6)を分解したりして、時間はかかったけど面白かった。



※メタメモーーーーーーーーーーー

“ゲームアプリだろ”というオチはないので説明薄めです。専門書は攻略本。バトルがパズルのRPGです。酸化還元とか二重結合、偏屈なプラスチックのドワーフ等、割愛。

ーーーーーーーーーーーーーーーー



タクマからの依頼は24時間以内にダイヤモンドを持ち帰ること。専門書で確認した限りでは9割方の工程は終わっていて、もうダイヤは作れている。

が、まだダイヤは持ち帰れていない。

ダイヤを作るためには高温(約1600℃)と高圧(約10万気圧)が必要で、その条件を満たした地表から160㎞の地中に住む宝石のドワーフの元へ弟子入りしている。昨晩、出来上がったダイヤモンドを地上へ持ち帰ったら見事な黒鉛になっていた。地上との圧力差に負けて消し炭にされたらしい。熟練度が足りてないのだろう。


購買のパンを片手に再チャレンジしてみるものの、折角組み上げた炭素の構造式は潰れて黒鉛になってしまった。昼休みの残りを熟練度上げに割り振るとして間に合うだろうか?

何気なく専門書をパラパラと捲ると間に合いそうな気がしてきた。

“熟練度が足りないと感じたら依頼を受注しましょう”


午後、授業を聞きながら机の下でせっせと熟練度を積み上げる。

依頼『なんでもいいから酒持ってこい』

メタン系炭化水素の納品依頼。メタン(CH4)からトリアコンタン(C30H62)までをフルコンプ。

依頼『あれ、どこだっけ?』

ずぼらなドワーフの倉庫の掃除。適当に箱に入れたら分離したり結合したりでごちゃごちゃ。入ってたものを推理して元に戻そう。


鉱石を生成するよりもこっちの方が熟練度が早くあがる。ドワーフなのになんでだろう?


放課後の教室。満を持して炭素のピラミッドを組み上げる。十分な熟練度に後押しされて過去最高のダイヤモンドを生成した。

ここからが本番、時速40㎞以上で地上に押し出さなければ圧力差に順応してピラミッドが崩れる。


今度こそ。


手汗を何度も拭い、スマホを下から上にスワイプする。







「すごいっ、すごいっ」


俺のスマホを覗き込みながらコアがはしゃぐ。

ダイヤを持ち帰れた事を報告しに来たのにタクマもクグイもいなかった。待ってる間、無言って訳にもいかないし、かといって子供相手にどうしたらいいか分からず、未達成の依頼を時間潰しにこなすことにしたら思いの外好評だった。


「きれぃっ」


依頼『センスに期待』

コランダムの納品依頼。最高の逸品をよろしく。

酸化アルミニウム(Al2O3)の塊の事だが、一般的に知られているのはルビーやサファイアだろう。酸化アルミニウムに混じる微量の不純物で色が変わる。クロム(Cr3)が混じれば赤くなり、鉄(Fe2)とチタン(Ti4)が混じれば青くなる。色が濃いほど市場での価値が上がる。

ドワーフ見習いとして腕が鳴るぜ。


悩んだ末に選んだのは通称ホワイトサファイア。色素の無い透明な鉱石だ。純度100%のコランダムで希少価値は高いが、需要がなくて市場価値が低いなんとも不憫な奴。


「アユムすごいっ」


今のところノーミスで積み上がるブロックとコンボの派手な演出でコアがはしゃいでる。このまま行けば最高得点が出そうだ。そういえば、アユムって誰だっけ。


「お疲れ様、アユム」


……っっっ!

いつの間にか帰って来たタクマに目と手が滑る。クリア直前の痛恨のミス。誰だよ、アユムって。


「アユムすごいっ、アユムすごいっ」


画面にはパーフェクトの演出。99%の酸化…アルミニウムと1%のクロム。所謂、ルビーである。

違う、作りたかったのはこれじゃないのに。


「アユム、すごいっ」


…まぁいいか。


画面を切り替えて取得アイテム欄からダイヤを選んで表示すると、タクマから時計を渡された。分かりやすく傷んだ時計で、文字盤の片側の金具が外れて使える状態ではなかった。


「困ってたんだ。助かったよ」


ダイヤ→運命探し?

壊れた時計→お礼?


相変わらず言葉足らずで要領を得ないタクマにダイヤの使い道と運命について聞いてみた。


「ループしてたんだよ。アユムのクラスの誰かの知り合いが。アユムが教室で楽しく勉強してくれたおかげでうまく抜けれたみたいだよ」


つまり、教室で熟練度上げを目撃されるのが目的で、ダイヤに使い道はなくて、俺をアユム扱いしたいらしくて、


そもそも、そんなことより。


“ループ”。

俺以外にループした奴がいるなんて。誰だろう?苦労話とか盛り上がったりするかな?何回目で抜けれたんだろう?俺が助けた、でいいのか?ネタばらししたいっ。誰だろう?


「ループの自覚がある人ばかりじゃないから話はしない方がいいよ」


くっ、それじゃループがあったのかさえ俺には分からないじゃないか。達成感もなにもないなんてがっかりだ。


「気にするような事じゃないよ」


折角、仲間が出来たみたいな感じだったのに。


「この子もループしてるし、よくあることだよ」


衝撃の事実!


俺のスマホでパズルをしていたコアが俺の視線に気づいて新しい依頼『褐色の拘り、ウルツ鉱石の納品』を要求してきた。


「アユムっ。次これっ」


………仲間、か。








ループが特別な事ではない事に不満と落胆はあるものの、今の状況に少なからず期待している。

タクマに言われたとおりに机に壊れた時計を置いた。この時計が、どんな役割で誰かのループを解消する助けになるのだろうか?

運命とループの先に何があるのか分からないけど、主人公になれなかった自分が、それでも物語に関わりたいと、そう思った。


だから、



違うけど、アユムでいいや。



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