閑話 時間稼ぎのしょうもない未解明の話
聞いてくれよタクマ。
最近勧誘があってさ、オカルト研究部に鞍替えしようかと悩んでるんだ。
というのもあの嘘をついてなかった嘘つきの先輩の惚気が甘ったるくて鬱陶しくってさ。
んでも、オカルトってなぁ。
せめてファンタジー部だったらなぁ。
「へぇ。どの辺が違うのかな」
そりゃあ、お化けより妖精の方が断然好きだし。
呪いより魔法の方が派手で便利だし?
「魔法ね…。最近の物語では、この世界で魔法が使えないのは魔素が無いからって事になってるらしいけど」
そうそう、よく知ってんじゃん。
異世界に行きたい理由に魔素がある世界で魔法をぶっぱしたいが上位ランクインしてるはずだ。
「仙人は霞を食べて生きているらしいね」
いや、だからさ。
仙人がファンタジーかどうかは微妙な判定になるけど、また脱線してね?
「霞には微細な塵や水滴や黄砂だけでなく、目に見えない微粒子も含まれているんだ。
例えば、人は消化にカロリーを消費しているから食べた物の重さがそのまま体重に加算はされない。なら、消費された重さ分の何かが空気中に漂っていることになるね」
まぁ、主に水分だろうけどな。
「主にね。でも、それだけじゃないって話。
水以外にも気化しているものなんていくらでもあるんだ。最近、新しい元素が発見されたけど、他にも未発見の元素があると考えるのは可笑しいかな?魔素はなくても、それに変わるものはあるんじゃないかな。魔法には適正があるらしけど、この世界では全ての人が遠くの人と会話できて空を移動できるよ。魔法より優れてないかな」
いやもう、それって科学じゃんか。
「解明されていない多くの不可思議をファンタジーと呼んでもいいんじゃないかな。
アユムは目に見えない空気中に何があるのか気にならないの?呪いも妖精も普通の人には見えないらしいよ。
目に見えないことと、存在しないことはイコールではないんだから」
この世界はファンタジーだみたいに言われても困る。
「どうして?ファンタジーが好きなんだろ?」
いやいやいや、比べたらって話で。
ファンタジーなら加護とかスキルとかアビリティとかさ、いろいろプラスな要素あるけどオカルトってマイナスなイメージじゃん。呪いとか迷信とか祟りとかさ。
デバフ重要ってのも分かるけどバフの方が俺は欲しいよ。うん。
「あると思うよ」
う、うん?
「ワンオブサウザンドなんて呼ばれているね。アビリティではないけれど」
そ、それはまさか!
某駅前掲示板で英字末尾3桁を書き込むと助けてくれる街狩人さんの愛蔵銃の事か?
(使い勝手が悪いので大した価値は付きませんが実在するそうです)
「機械的に大量生産された品物で千にひとつあるかどうか。極々稀に誤差の範疇を超える精度の物が産まれる事がある。
同じ設計、同じ材料、同じ場所で造られたはずなのに。何もかもが同じなのに結果が違った。
‘’何‘’が違ったんだろうね」
何かが違う。
たぶん、目に見えない“何か”が。
でもなんで量産品なんだ?ワンオフとかの方がいいアビリティがつきそうだけど。
「同じじゃないと比べられないだろ?アビリティがあるかどうかなんて、見えないんだから」
アビリティは見えない。
規格を揃えて比べでもしないかぎり、違いなんてわからない。
同じなのに違う。
じゃなくて。
同じに見えるのに違う。
違いが見えないから同じに見えるんだ。
見えない何かが付与されていて結果に影響して、それで……だから……つまり。
この世界は、ファンタジーだ!
この世界にはアビリティがある。
それを確かめるためには……。
オカルト部ではなく美術部に入って審美眼を磨くべき。そういうことだなっ。
◆
アユムが帰った後。
「タクマ、あれで良かったのか?」
「いいんじゃないかな。僕はシャンパンでもビネガーでも辿り着けるなら大歓迎だよ(失敗折込み済)」