閑話 時間稼ぎのしょうもない2択の話
どうしよう。
聞いてくれ。
まさかの学校テンプレが俺に起こるとは思ってもみなかった。下駄箱にこんな手紙が入っているなんてどこの学園小説だよ。
下駄箱に入っていたのは無地の二つ折りの紙で『明日の放課後、校舎裏に来てください』と簡素な要件だけが印刷されていた。
これさ、どっちだと思う?
焼き入れか告白かなんてどんな2択だよ。
せめて差出人の名前くらいは書いといて欲しかった。
文体が丁寧な事から多少希望を持ってもいいのではと期待はするものの、上げといて落とすのもまたテンプレだよなぁ。
告白とか期待しちゃった?なんてにやにやされたら最悪だ。まさに災厄だぁ。
希望と災厄の2択。
なんてパンドラの箱だよ。
開けるか逃げるか悩む。
悩んだ時はどうするかなんて決まっている。だってそうだろ?考えたって答えなんてでないんだ。うん。
で。
明日、どうしよ。
◆
と、いうわけでね。
困った時のタクマ君な訳ですけれども。
「パンドラの箱、ね」
違う、そこじゃない。
この手紙が何なのかを推理して欲しいのであってだな、その推理如何によってパンドラの箱を開けるかどうかを決めようと思うという説明をしたのだが、タクマが食いついたのはパンドラの箱の方だった。
「パンドラの箱には何が入っていたか知ってる?」
まただよ脱線。
しかしこれに付き合わないと答えにたどり着けないんだから仕方がない。
ええと、厄災が飛び出て希望が残ってただっけ。
「つまり?」
入ってたのは厄災と希望だ。ファイナルアンサー。
「人は見たいものだけ見る生き物だからね」
おや?なんか残念な人に見られてる気がする。失礼な。まるでメロンパンにメロンが入ってないと癇癪を起こす子供を見るような目ではないか、と抗議してみる。
「いや、違わないけど。よく分かったね」
ちなみに今日のおやつはメロンパンだ。
学校帰りにお使いを頼まれた訳だが、流石にメロンパンにメロンが入っていないことくらい知っているさ。
「なんで名前がメロンパンなのか知ってる?」
メロンっぽいからだろ、見た目が。
「メレンゲぱんが元になってる説もあるね。
そのパンがメロンの様な格子模様のパンという名前で、メロンが入っていないと騒ぐ人がいたら、どうする?」
いやぁ、残念な人を見る目で見ると思う。
(にやにや)
「だよね。
パンドラと箱はゼウスから人類への贈り物だった。楽園を追放されて(いろいろあったけど中略)神々から自立をしようとした人類にとって、この贈り物は祝福か試練かは置いといて……」
嫌がらせだろ、どう考えても。
「ゼウスからの贈り物の女性と箱。名を、パンドーラ。
ギリシャ語でパンは【全て】、ドーラは【贈り物】。
人類は全ての厄災をパンドラのせいにして希望に縋ったけれど、箱に入っていたのは可能性という全てだったと僕は思う。
人は見たいものだけ見る生き物だから」
あぁ、もう。相談相手を間違えた。
メロンの入っていないメロンパンをかじりながら考える。
えーと?
この手紙がパンドラの箱で、内容が災厄(焼入れ)でも希望(告白)でもなかった場合の可能性が全て(無限大)だったとして、俺に正解を突き止めることは出来るのだろうか。
断言してもいい、無理。
翌日、諦めて登校した結果。
希望でも災厄でもなかった事をここに報告する。
◆
翌朝。
廊下から校舎裏を眺めてて気がついた。
校舎裏って全フロアの廊下から丸見えで、駐輪場も裏門もあるんだから放課後は人目がある。
最初から希望も厄災もあり得なかった。
じゃあ何なんだって話なんだけど。
放課後、校舎裏に行ってみれば俺と同じ紙を持った生徒が数人いて、その中にいた顔見知りにネタバレを聞くことにした。
なにしてんの?
「何ってこれだよこれ。肩叩き券が……ってお前もじゃん。早く道具取り行けよ、もう箒無いからゴミ袋とトングな」
無作為選抜強制ボランティア清掃活動の招集状。
通称、肩叩き券。
出欠も取られてて内申にも響くらしいとまことしやかに囁かれるこれは、つい先日校長の思い付きで始まったらしい。
聞いてないぞ俺は。
「だろうと思った。お前、聞いてなさそうな顔してたもんな」
……………(・_・;)キイテナカッタ。
封筒に入っていない、二つ折りの藁半紙で、印刷物。学校のプリント感演出。
出来てないよな、残念。
パンドラの箱。
人類が自立する為に必要な物が全部入っとるで、って箱に買いてあった件。