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12 見えた世界は


「おめでとう。アユム」



…か、勝った。


タクマに勝ったと言えなくも、なく、なくなく、なくなくなくも………、


ないわーっ、ぼけぇっっ。


数十回の『待った』の末に勝ち取った勝利の味は、なんとも苦かった。

(20回超えて数えるの辞めた)



※走馬灯――――――――

『そこ、車が通るよ(飛車)』

『盤上唯一、障害物を飛び越せるってロマンだよね(桂馬)』

『SPが警護対象から離れるのはお薦めしないよ(角)』

『ヒント。四・七步を何処かに動かすといいよ』

ーーーーーーー――――



長かった。

いっそ殺せと思ったのはいつぶりだろうか。最後の方はもうヒントじゃなくなってたし。


「ググイが見えないのは、この世界だよ」


そういえば、勝ったら教えるとか言ってたっけ。

そっか。

この世界か。

何の事か分からないって?ははっ。俺もだ。

やべぇ、疲れてる。


淹れてもらったコーヒーに角砂糖を3つ放り込んだ。うん、甘い。


「人はそれぞれ自分の世界に生きている。見えている世界も他人と同じだとは限らない。だとしても、共通認識としての社会は重複している必要がある。クグイはその共通認識が欠落してた」


甘味の補給で回復した体力をガリガリと削られてる気がする。

なんだろう。

夢の無い話に興味が沸かない。


分かった分かった。

まぁ、なんだ。社会の迷子って事だろう?


数十回の死と巻戻し(将棋)は俺の精神に多大成る負荷を掛けていた。

ぶっちゃけ、早く帰って寝たい。


「分かってないでしょ。嘘はだめだよ」


何故バレたし?

とか、思いません。

この位、嘘の内に含まれないし。疲れてる事くらい察してほしい。タクマの語り癖が発動する前にさっさと帰ろう。


「クグイは嘘が嫌いなんだ。気をつけた方がいいよ。クグイには嘘が見えるからね」


………っ!

将棋の駒を片付ける手が止まる。

今、なんと?


「クグイを怒らせると怖いよ?頸動脈掴んで壁にガッて」

(俗に言う、喉輪である)


タクマは楽しそうに話すけど、怖すぎるだろっ。クグイを見ると、濃いサングラスの奥からでも睨まれてるのが分かるくらい眉間にシワが寄ってた。


「あの時、一度だけだろ」


マジだった!

裁判長っ。犯人が自供しました。


「だから、クグイの前で嘘はつかない様にね」


これは、後学の為にもちゃんと聞いたほうがいいかも知れない。と、もっともらしい言い訳をして保身の為にタクマの話を即すのだった。

その、嘘が見えるってとこ詳しくヨロっ。


「特別な事ではないよ。

例えば……アユム、昨日お手伝いさんが持って来てくれたお土産のお菓子が無くなってたんだけど、知らない?」


え、えぇ…と……。

知らない、…かな。


「人間は右脳と左脳で役割を分担している。右脳は創造や認識、左脳は言語や記憶をね。本当の事を言うのなら記憶を閲覧するために左脳を、嘘なら作り話を創造する為に右脳を働かせる。

そして、目線はそれに引っ張られる」


左上を見たら嘘、らしい。

お土産、ホントに知らないんだけど。

無実なのに見られてると思うと身動きし辛い。動かさないようにと思えば思うほど挙動不審になる。瞬きも増えてるし怪しさ満点な自信がある。

そそくさと部屋から脱出したコアも怪しいんだけど。


「クグイは学問として習ったとかじゃなくて生まれつきらしいけど、普通の人だって相手が汗をかいていたり、目線が泳いでたら怪しいって思うだろ?クグイはその精度が高いだけだよ」


周りの人の挙動を逐一見てたら疲れそう。嘘かどうかなんて会話の中で気にした事もなかった。社会の迷子になるくらいなら嘘なんて気にしなければいいのに。


「そうだね」


話が一区切りしたのか、タクマはコーヒーを注ぎ足して椅子に座り直した。


「アユム、見てて」


ぽちゃんっ。


ぽちゃんっ。


コーヒーに、角砂糖が落とされる。

ひとつ、ふたつ。みっつ、……よっつ!

さらに角砂糖投下は続き、溶けずに積み上がった砂糖がコーヒーから顔を覗かせた。

うわぁ、入れ過ぎだろ。

釣られて甘ったるくなる口元を手で押さえると、タクマと目が合った。


「このコーヒーの味が、見えた?クグイも同じだよ。見ようとして見てる訳じゃない」


確かに、味を知りたくて見てたつもりはない。

飲んでもいないコーヒーの味が分かってしまうのは砂糖を入れるところを見てたからだ。その一例だけなら『砂糖を入れたんだ、飲まなくても甘いのは分かるだろ?』で納得できるけど。

俺の目には『嘘かどうかなんて見てれば分かるだろ?』なんて納得できるものではないが、クグイにとって嘘も同じ程度で分かってしまうものって事だろう。


なるほど、生き辛そうだ。

便利な能力なら羨ましいと思ったが、見たくないもんが見えるならいらないなんて、我ながら都合がいいもんだ。


見えないのも嫌だが、見え過ぎるってのも考え物だなぁ。


………あれ?

確か、見えないって話だったはず。

目が不自由でサングラスしてて付き人雇ってる癖に。

普通に見えてる訳?詐欺じゃん。


「そこは、まぁ…

本人だけの責任とも言えない訳で……」


珍しく端切れの悪い言い回し。

これはもしや、秘匿案件到来の予感っっ。


「……クグイはディスレクシアだよ。

難読症、または読字障害。症状は読んだ通りだけど、周知率はそんなに高くない。恐らくだけど、文字の読めなかったクグイを弱視だと思ったんじゃないかな」


だとしてもそれは、親とか医者とかさ。

本人だってホントは見えてる訳だし、どっかで気づくだろ?


「気づかれなかったみたいだね。何よりクグイを弱視と判断したのはその、親とか医者とかだ。

視力検査表の記号を認識出来なくて、視力障害と診断され、貴方は目が見えない、と言われたら……。

嘘が見えるクグイは、自分は目が見えないと認識してしまった。

そこからクグイの世界はズレ始めたんだろうね。

僕と初めて会った時、クグイはこの世界が見えてなかったよ」







この場合、責任って誰にあるんだろうな。


小学校の頃、たまにお弁当持参の日があってさ。周りの弁当覗き込んだりとか、するじゃん?隣の席の奴がさ、凝ってるお弁当が羨ましくて親に強請ったらしいんだ。ウインナーをカニの形に加工してとお願いしたらしいんだが、入ってたのはどう見てもタコだった(足が4本だけど)。

親に言われたらしい『これはね、カニって言うんだよ』って言葉をそいつが今も信じてるかは知らない。

自分だって、こいつ馬鹿だななんて思いながらそれが間違っていることを教えなかった。



自分も、教えてもらえてないだけで。

同じところをぐるぐると彷徨っているのかもしれない。


責任は、誰にあるのか。



クグイの掛け間違えたボタンはタクマのおかげで少しは修正が出来たのだろうか。


だったらいいな。

パラリンピックで、健常者が視覚障害者として出場して逮捕されたそうです。

荷物検査で運転免許証がたまたま見つかって発覚したらしく、本人に目が見えないと自己申告されたら見えてる証拠とかない限りええと、


失明とかの嘘申告、頑張ればバレないの、、、?

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