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11 色眼鏡に重ねた色は


この世界は無慈悲だ。


もっと、愛と勇気に満ちていてもいいはずだ。

努力や根性で苦境を乗り越えたり、運や偶然に助けられてもいいはずなのに。


そう、例えばこんな風に……





何処かの合戦場で、相対するように兵を並べ敵陣を睨む。


歩兵部隊

『俺達で敵の第一陣を突破して、本陣に乗り込んでやるぜ』

『おぅよ。俺達は敵陣に行かねぇと本気が出せねぇからな』

『俺達だけで勝てたりして(笑)』


しかし、敵の陽動に引っ掛かり本陣を追われ、味方は次々と敵に捕縛されていった。


歩兵部隊

『まさか、俺達が抜けた場所から騎馬隊に入り込まれるなんて』

『油断してたとはいえ、将軍があんなあっさり殺られるとか』

『…不味い、囲まれてるぞっ』


槍兵を警戒しつつ後退を試みる。しかし、馬兵が頭上を飛び越えて現れて退路を塞がれた。敵兵は馬を乗り捨てて、新たに手に入れた力を解放する。


歩兵部隊

『あいつ、覚醒しやがった!』

『俺が食い止める。行けっ』

『駄目だ。もし敵に捕まったら、』

『分かってる。次に会うときは、…俺はお前らの敵になるんだろ。それでも、ここで大将をやられる訳にはいかないんだ。なぁに、お前達なら俺をぶん殴って元に戻すくらい、出来るだろ。…頼むな』

『兵士ぃーーーっっ』


しかし、物量に押されて蹂躙され時間は稼げなかった。他に生き残った味方は遠すぎて救援は望めない。万事休す。


ざざっ。

そこへ突然現れた兵士のライバル(元敵兵)。


歩兵部隊一同

『お前はっ!』


元敵兵

『不本意だが、あいつの道は俺が進んでやるよ』


敵本陣に侵入を果たした元敵兵は、敵大将を眼前に捉えて勝利宣言をする。


元敵兵

『大将首、もらうぜ。

悪ぃな。俺は今、あっち側なんだわ。

ここまで来れば本来の力を出せる。

俺等は弱いさ。

だが、条件を満たせば倍以上の力を発揮できる。

具体的に、6倍ってとこかな。

おとなしくしてな。あと一歩で俺の力が覚醒しっ……』


敵大将

『…大人しく、待つ訳ないだろ』



俺達の希望は、呆気なく刈り取られた。

打つ手なし。

力量差は明らかで、あとは潔く投了するだけ。


世界は、無慈悲だ。





そう、世界は俺にやさしくない。


「子供相手に全駒する奴に手加減は必要ないだろ」


盤上の駒にはもう、活路はなかった。

各2枚の飛車と角の檻に囲まれ、王将を守る盾は歩と桂馬のみ。

くっ、負けました。


「わーいっっ。アユムに勝ったっ」


対戦相手はコア。


そう、俺は……。

将棋の駒の動かし方を覚えたばかりのコアを相手に全駒(格下相手に行う非道行為)をして泣かせて、激怒のクグイにコテンパンにされている。


コアが動かしてタクマが読み上げ、クグイが指示を出す。

3人がかりは卑怯だろ。


「そうだね。大人気ないのは誰かな?」


俺です。調子乗って、すみませんでした。

コアにごめんなさいして許してもらいました。


てゆうか、クグイに読み上げ必要ないだろ。

見えてるんだから。


「見えては、いないさ」


嘘つけっ。

文字が書けるなら見えてるだろ。

(09話の日記の事)

裁判長、重要証拠として提出します!


「代筆とは考えないのか?」


あ、その手があったか。


「まぁいいさ。タクマ、仕事だ」


タクマとバトンタッチしたクグイは、コアと将棋崩しを始めた。

どう見てもクロじゃん。

で、納得の行く説明を聞かせて貰えるんだろうな。


「クグイの眼は見えてないよ。

健常者と呼ばれる人と同じ様には、ね。アユムは色覚テストは受けた?複数の色を混ぜて、錐体3種の色で描いた数字を認識出来るか試すテストなんだけど。

例えば、赤と緑だけ違いが認識出来なかったとして、他の色が見えていれば問題ないと思う?」


赤と緑。

交通事故待った無しじゃないか。

怖くて横断歩道を渡れない。


「信号に限らないからね。見えないって言った方が、何が見えて何が見えないのかを理解してもらうより安全なんだよ。お互いにね」


一応、納得はするものの。

ひとりで出歩いているのだから見えないのは赤や緑じゃないはずだ。その辺の所はどうなのだろう?


「そうだね。認識出来ていないのは色じゃないけど、知りたい?」


そりゃあ、ここまで話したんだし。勿体振るのは無しだと答えると、タクマはクグイに視線を向けた。


「かまわない…が、タクマに勝ったらな」


クグイがゆっくりと駒を引きながら……コトンっと上に乗った駒を落とした。『わ~い、コアの勝ち~』と、はしゃぐコアの頭を撫でる。


なんか……。

器の大きさを認めたら負けな気がするから、勝負だタクマっっ。


「僕が先手でいいの?」


シャッフルした王将と玉将を両手に持って『どっちだ?』をして手番を決めた。

勿論。玉を掴んだ方が先手だろ?



タクマは歩を一歩進めた。

さてさて、どれを動かそうか。


「名人戦第一局、異例の速さで昇段した挑戦者の棋力を計る為に名人はあえて角交換を誘ったんだけど、アユムは受ける?」


なにそれ、超かっけー。しようぜ角交換。


「矢倉を制するものは棋会を制す、なんて言われててね。全ての駒の実力を十分に発揮できるこの戦法をプロ棋士の多くが得意として……(省略)


王将を角に移動させて2枚の金で固めると(中略)そう、最強の守りのひとつと呼ばれ……


この飛金交換は駒損に見えるけど、寄せておかないと逃げ道が……」


ふむふむ。

無駄使いに見えた王手にそんな思惑が!

銀が敵陣でこんな働きをするなんて。

へぇ、これ棒銀って言うんだ。

飛車で攻めるって?

かかってくるがいい。鉄壁の防御を見せてやる。


「タクマ、遊んでるだろ?」


「勿論。ゲームなんだから遊ばなきゃ、でしょ?」


将棋はボードゲームで遊具だ。

遊んでるに決まっているじゃないかと、疑問に思う。


「これ、一昨日の名人戦の棋譜だろ?角交換からの相矢倉、穴熊と四間飛車の攻防」


……。


……?


………っ!

理解出来ない。したくないっ。

ここまでいい感じで来たと思ったら台本通りだった、だと?


「面白いのはここからだよ」


で、その名人戦ってどっちが勝ったんだ?


「確か、アユムの打ってる挑戦者側だな。この後の、正解以外即詰みの王手を16回抜けた後で、」


「大丈夫、間違えなければアユムが勝てるから。じゃあ、行くよ。……王手」



……くっ。


この世界は、俺にやさしくないっ。


色覚テストって差別に繋がるから今は廃止されてるらしいですね。運転免許で必須じゃなかったけ?大人になってから発覚したら辛いやん!

各ご家庭でやっといた方がいいと思う。


藤井聡太氏がタイトル戦に初挑戦時に執筆。

棋聖戦第一局。

相矢倉から互角の攻防が続き、僅に藤井聡太優勢に傾くも、持ち時間は棋聖42分 藤井7分。

棋聖は20分の熟考の後、攻めに転じる。

そこから始まる連続王手。

“間違えたら即死の詰めろを30手受けきる”


字面だけで胸熱ですな。


なんか、解説にAIが入ってたらしく

逃げ道がひとつしかない事が観客には

わかってて、激アツな対局だったらしい

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