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09 上書き済みの仕様書を


「風邪はもういいの?」


読書が一区切りついたらしいタクマから何気ない会話が始まった。が、風邪で休んだ分と合わせて2日分の課題を片付けなくてはいけないので空返事でやり過ごす事にした。

風邪なんて1日休めば治るさ。余裕余裕。


「治したのは、アユムじゃないけどね」


むむっ。

そりゃまあ、寝てただけだし。

看病した親に感謝しろとかだろうか。


「体温を下げて免疫を低下させたのはアユムだけど、筋肉を収縮して体温を回復したり白血球を活発化する指示を出したのは、アユムじゃないでしょ?人間は多細胞生物だからね。

自分の体は自分だけの物じゃないんだよ」


思ってたのとなんか違う。

草木の次は細胞まで意思を持つとか、この世界はいったいどうなってしまったんだ。


「意思と言うより、プログラムだよ」


だとしたらとんだ欠陥プログラムだ。高熱を出されたら動けないじゃないか。


「昔の人も、同じ事を思ったみたいだよ。

発熱が病的な状態だと診断され、直ぐに解熱剤が処方された。熱が下がり、風邪が治ったと感じるから解熱剤が有効だと考えられていたけど、実際には症状は悪化していたんだ。

ウイルスの増殖は発熱によって抑えられていたし、体温が高い方が免疫は活性化するのに、解熱剤で下げてしまったからね。

風邪で発熱するのは体の正常な防御反応なんだよ」


なるほど。

良かれとしたはずが、ウイルスにとって快適な環境を提供してしまっていたのか。せっかく、体力を消耗してまで熱を出したというのに。

その熱だって、インフルエンザ(強敵)では39度の高熱になるのに普通の風邪(雑魚)では37度程度だ。相手によって適切な戦術をとるなんて……

なんて、優秀な奴等なんだ。


「そうだね。プログラムとはいえ、自ら死を選択できるくらいだからね」




…………は?




「とても優秀なプログラム、だよ。

他の利益の為に自死を選択するんだ。例えば、ウイルスに侵食された細胞は自らを解体する。

ウイルスの侵食で壊死(ネクローシス)するのではなく。自壊(アポトーシス)、するんだよ。

利他的な死を選択するプログラム。アユムの手に指が5本あるのも、間にあった細胞がプログラムに従って自死を選択したからだよ。

最初から、細胞に組み込まれたプログラムなんだ」



……その時、

大袈裟なことを言えば、天恵が下ったのだろう。


いつもの俺であるなら、

自死を選択する細胞 あらため、自爆機能搭載ユニットなんてロマンに食いつかないわけがないのに。


続くタクマの話が耳に入らない。


「(中略)…胎児の手はグローブの様な…(割愛)後には指間の皮膜細胞がアポトーシスを…(省略)細胞が退縮して指が…(自主規制)」



そんなことより、


プログラム。


それって…


つまり、最初から決められた行動。


定められた、回避不能の、逃れられない、



ー運命ー



見つけた。


そう、運命を。


「そうだね。最初から死ぬことが運命づけられている、なんて表現されていたね」


いやいやいやいや。

目の前にお探しの運命があるのに何やってんだよ。


「運命ならなんでもいいわけじゃないからね。僕が探してるのは、未来に収束される時空軸だよ」


異議あり!難しい言葉を使うのは良くないと思います。


「数多の選択の末に辿り着いた場所、かな」


おお!約束の地、みたい。


「約束、してないから探してるんだけどね。それに、運命には抗う者も必要だから」


その、抗う者ってもしかして…







タクマの話は所々良く解らない。

話したい時は大容量で話しまくる癖に、こっちの聞きたいことは一言二言で、しかもずれてる。

結局、具体的な事はまるで解らなかった。

けどさ、確定でそこに辿り着くんならいっそさ、

待ってたらいいんじゃね?


ならタクマの探し物はあとにして。

俺が、抗う者としてここにいるなら…

やっぱり、俺にはこれが必要だ。


タクマが読書を再開して質問を受け付けなくなったので、こっそりと部屋を移動した。停電の日に散らかったまま放置した部屋はあれから更に散らかっていた。

積み木に埋もれたノートを手にとり、ページを捲る。


どうしても、自分が抗う者である確信がほしい。

いずれ訪れる運命をただただ待つなんて事はしない。指を咥えて眺めるなんてあり得ない。参加出来なくても特等席を確保したい。


クグイの忠告がちらつかない訳ではないが自分の無能力者ぶりがこのノートを離さない。

ただ、自分は思い違いをしていた。

何故このノートに執着していたのか。


このノートに、未来が書かれているから。


そうじゃなくて。

もっと重要な事に何故気付けなかったのか。

これは、未来が書かれたノートだ。


そうなんだけど、違う。


コアが言っていた。

これは、タクマのノートだと。



そう、これは…



タクマが、未来を書いたノートだ。






捲ったページには、


24日

・アユムがノートを見る(他のと同じ書体)

・アユムが部屋を片付ける(御手本の様な達筆)

・あゆむがこあとおつかいいく(……割愛)


振り向くと、満面の笑みを浮かべるコアがいた。



「アユムっ。お片付け、コアも手伝うっ」



“死ぬことが確定したプログラム”ではなく

“死ぬことを確定させるプログラム”

タクマはそれを運命だと勘違いをしているが、作中でそれに気づく事はない。


そもそもタクマにとってそれが運命かどうかもどうでもいい。探しているのは運命そのものではないのだから。


メタ発言のせいで一気にタクマが危険人物!

大丈夫だよ、怖くないよ。勘違い勘違い。

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