1章 アユムのアクシュ
どこかの屋上で、どうにもならない世界が終わろうとしていた。
「解るはずない。ほっといてくれ」
人影は2つ。
転落防止用の柵が音を立てて揺れる。
「本当に、もういいんだ。大丈夫だから」
ここから跳べば、何度でもやり直しが出来る。強制的に、させられる。多分。
この世界に見切りをつけて次に翔ぼうとやってきた屋上で、自殺を見咎められて説得されている最中、らしい(他人事)。
自分がループしている事とか、この世界がもう時間切れな事とか、まともに説明するのも馬鹿らしい。どうせもうすぐタイムアップだ。
次の周回に記憶が引き継がれるならまだしも、そうじゃないなら無駄骨。
それ以前に、もう、疲れたのに。
眠い。
自分を説得しようとする少年の言葉は、よく聞こえない。
自殺は良くないとか、そんなことしても意味がないとか。まぁ、どうでも良さそうな事を言っていたと思う。
どうでもいい。
眠い。
朦朧とする視界をひらひらと蝶が舞う。
時間が止まったような気がした。
静寂のなか微かに声が聞こえる。
“ループを終わらせる方法を…"
"まだ諦らめていないなら…“
遠ざかる少年の背中と、その肩に止まる蝶を追いかけた。夢でも幻でも幻聴だろうと、縋り付ける希望がそこにあるのなら。