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〈その4〉停戦協定


 国立ヤマト学院にジャンヌ・バロアが最初に現れたその日、本州北端の「ムツ」国では、北海道から船で上陸したロベリア軍とヒノモトの連合軍との間で、再び戦闘が起きようとしていた。

 

「このままロベリア軍の侵攻を許しては、このムツの地は完全に奪われてしまう。

 そうなれば、ヤマトにまで侵攻の手が及ぶのも時間の問題であろう。

 我々としては何としても彼らの侵略をここで食い止め、隙あらば彼らの軍勢を北海道まで追い返すことができれば幸いと考える。

 私としては、死守という言葉はあまり使いたくないのだが、まさに今は祖国のために、諸君の命を捧げ、この愛すべき祖国の土地を、死守すべき時なのだ。

 諸君! 健闘を祈る」


 ヒノモト連合軍の司令官、真田凱士がいしは、これからロベリア軍との戦いに向かう兵士たちを鼓舞した。


「しかし何で今になってロベリア軍は、このムツに上陸してきたんだ?」


「さあ、聞くところによると、本土のロベリア、さらに彼らが支配している北海道が今年は凶作で、食料がかなり不足してるらしいからな。

 それでムツに侵攻してきたんじゃないかというウワサだ」


「そんな単純な理由かよ。食料不足で南下してくるとか、まるで森の中の熊と同じだな」


「おいおい、お前らの方が単純だぞ。

 世界は今、不況の嵐だ。特に世界が新聖ヨーロッパ連合と、統一アジア同盟、汎イスラム連盟、オール・アメリカ、全アフリカ連邦の5大勢力に統合されて以来、かつての自由経済圏が崩壊したんだ。

 この5大勢力に加わっていない、数少ない国である我が国ヒノモトを攻略することが、ロベリアや中ツ国とか、この周辺国の課題なんだよ」


「つまり、ロベリアの侵攻は、予定通りということか」


 戦地に向かう兵士たちが、軍用トラックの荷台の上でお喋りを始めた。


(ふん、まったく、緊張感のない奴らだぜ……)


 兵士たちの会話を聞くともなしに耳を傾けていた一人の若い男が不機嫌そうな顔をしながら、心の中でぼやいた。

 軍用ヘルメットを律儀にかぶっている兵士たちをよそに、長い髪を後ろで結び、空の電子タバコを咥えていた。


「おい、小僧、何か文句でもあるのか?」


 男に睨まれた兵士の一人が苛々して尋ねた。


「いや、別に。これから死に行くのに、随分悠長だなと思っただけさ」


「死ぬとは限らないだろう」


「そうかい。俺たちが持たされている武器を見てみろよ、これで生き残れるわけないだろう」


 男は、背中に背負った軍刀の帯と腰に巻いた拳銃のホルスターを拳で叩いてみせた。


「きさま、我が国古来の“剣術”を馬鹿にするのか!」


「ははは……。あんた、剣術がロベリアの近代兵器に本気で立ち向かえると思っているのか、とんだお笑い草だぜ」


「ロ、ロベリア軍だって、戦いのときは、ソードを使うと聞いているぞ!」


「バカだな。あれはカタチだけさ。

 実際の戦闘では、遠方からマシンガンをぶっ放してくるんだよ」


 男の言葉に、兵士たちは言葉を失っていた。


(こいつら、どこでそんな教育を受けて来たんだ、マジで使えねえ)


 男は首を後ろに倒して車の幌に乗せ目を瞑った。


「あんた、ムツの兵士じゃないだろ?」


「ああ、俺は……ヤマトから派遣された兵士、まあ、言ってみれば傭兵だな」


「あんたは生き残る自信はあるのか?」


「ないよ。普通に戦えば死ぬだろう」


 その言葉を聞いて兵士たちは青ざめた。


「でも、大丈夫。俺たちが今回の戦いで死ぬことはない」


「それはどういう意味だ?」


「俺たちが闘う前に、停戦する可能性の方が高い」


「どこで仕入れた情報だい、それは」


「まあ、別に秘密というわけじゃないからな、これは確かな情報だ。安心しろ」


 男は目を閉じたまま、口の端をわずかに持ち上げた。


「あんた、なんて名だ」


「俺は、當魔とうま小太郎……。まあ、名前なんてどうでもいいけどな」


 実を言えば、この當魔小太郎、一つだけ嘘を吐いていた。

 彼はヤマトではなく、さらに本州の西に位置する「イズモの国」からやってきた兵士であった。

 それは別として、結果としては、當魔小太郎の予言通り、彼らの乗った軍用車が戦地に着いた頃には、ロベリアとヒノモトとの間で停戦合意が得られ、市街地での銃撃戦は回避されることになった。


「おい、見てみろよ、あれ……」


 小太郎に言われた通り、市街地で臨戦態勢を取っていたロベリア軍が引き上げる様子を見た兵士たちは、彼らが肩に携えていた武器を見て、驚かざるを得なかった。


「あれか、あんたが言ってのは。確かに見たこともない武器だ」


「そう、アサルト・ライフル、自動小銃ってやつだよ。

 俺たちの銃は8発しか撃てないけど、あれだと連続で30発は撃てる。しかも弾丸の速さも当たった時の威力も、こいつとは桁違いさ」


 小太郎はホルスターの国産拳銃をポンポンと叩いて冷ややかに笑った。


 *


 一方、ムツに上陸していたロベリア軍は、第18師団の師団長、ジャンヌ・バロア大佐が行方をくらましたということで、軍司令部があたふたしており、このままヒノモトの軍勢を迎え撃つことに不安を感じていた。

 本国から停戦命令が届いて、一番ほっと胸を撫でおろしたのは、ジャンヌから留守を任されていたイワン中佐だった。


「停戦命令が出たぞ。

 これより、特命任務を開始する。ジャンヌ大佐をお迎えに行くぞ、準備はいいな」


 イワン中佐は出迎えようの軍用ヘリに加え、特殊工作班に、ヤマト国のパトカーに偽装した数台の車両を準備させた。

 

「イワン中佐、諜報部隊が掴んだ情報によると、ジャンヌ大佐はヤマト国内の“戦闘”で負傷した模様です!」


「……。ジャンヌ大佐が、まさか」


 ジャンヌの“兵士”としての強さを知っているイワン中佐は、その報告を聞いて信じられぬ思いがした。


「わかった。事は緊急を要する。

 作戦通り、ジャンヌ大佐を偽装したパトカーで逮捕するように見せかけて救出しろ」


「怪我をされているのに、パトカーで連行してよろしいんですか?」


「今から救急車までは用意できんだろ」

 ジャンヌ大佐なら、命に係わるほどの怪我はされていまい」


 そう言いながら、イワン中佐は実際にジャンヌを見るまでは、不安でいっぱいだった。

 軍用ヘリから河原に降り立ち、橋から延びる非常階段に蒼い衣服に金髪を靡かせた彼女の姿を認めてやっと胸を撫でおろした。


「我がロベリア軍とヒノモト軍は、本日未明、停戦協定に合意した模様です。」


「そうか、停戦したか……」


 軍用ヘリの機中でイワンが戦況を報告すると、ジャンヌは何やら考え込んでいた。


「なあ、イワン中佐。一つ頼みがあるのだが……」


 肩口と腹にできた刀傷を軍医に縫われながら、ジャンヌが告げた。


「私は、国立ヤマト学院に留学することにした。

 そこで、第18師団の方は君に任せようと思う」


「え? 本気ですか」


「むろん本気だ。早速手配してくれ」


 こうしてジャンヌ・バロアは一週間後、茉百合が復学した日と同じ日に、ロベリアからの留学生として転校してきたのである。



あとがき


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

ご意見、ご感想等、ございましたら、何なりとお寄せください。

よりよい作品づくりのための参考とさせて頂きます。

今後ともよろしくお願いします。


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