表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

〈その3〉転校生


 ジャンヌ・バロアとの一戦を終えて以来、国立ヤマト学院の生徒たちの茉百合を見る目は、明らかに変わった。

 闘いを終え、病院で検査を受けたその日、医師の勧めもあり、念のために一週間は学校を休むことになった。

 そして、再び学校の正門を潜った茉百合を待ち受けていたのは、本州に上陸し、我が国へと侵攻を企てるロベリア軍の指揮官を剣一本で追い払った“英傑”の姿を一目見ようと集まった生徒たちの好奇の目であった。

 

「来た来た、あれが祭刀茉百合さんよ!」


「意外と小さいな」


「あの華奢な体で、ロベリアの大女を一撃で倒したそうだぞ」


 話に尾鰭おひれが付いて大きくなるのは、よくあることだ。


「ねえ、あんたのこと、かなり話題になっているよ、茉百合」


 茉百合と一緒に登校したクラスメイトの聡美が耳打ちした。


「茉百合さん」


 生徒の人垣を割って、帯刀した着物姿の女史が現れた。

 茉百合が闘う前に、ジャンヌ・バロアに挑んで瞬殺された、剣技部部長の浅久良桜だ。


「おはようございます。ええっと……」


「剣技部長の浅久良桜よ、祭刀茉百合さん」


「あさくら殿でしたな。ご無事で何より」


「?」


 桜は茉百合の様子を不審に思いながらも言葉を繋いだ。


「昨日は、どうも……。その……助けて頂いて、ありがとう。

 礼を言うわ」


「いえ、礼には及びませぬ。

すでに勝敗を決した後に剣を振り翳すような相手を止めるのは、剣士としては当然のことをしたまで」


 茉百合が誾千代の生まれ変わりであり、今のところ、元の記憶と、現在の記憶がごちゃごちゃになっていることを父に告げた際、「俄かには信じがたいが、心に留めておくことにしよう。だが、その言葉遣いは、どうにかならんかね」と言い付けられた茉百合だが、かつての言い方が無意識のうちに出てしまう。


「ところで、火煉様の方のご容態はいかがですか」


「清滝さんは、昨日病院へお見舞いに行きましたが、意識はしっかりしています。全治二週間ぐらいと伺っています」


 先程から、茉百合が何か他人行儀のような話ぶりなことに、桜は困惑していた。

 祭刀家の娘である茉百合が、天戯無念流の娘である自分のことを知らぬはずはないし、姉のように慕っている清滝火煉に対しても第三者の様子を尋ねるような口ぶりだ。


「茉百合さん、また今度、改めてお話したいことがあります。

 では、ごきげんよう」


 桜は軽く頭を下げると、再び人垣の中へと消えていった。


「きっとまた、剣技部に入らないかという誘いだよ、茉百合」


 聡美に言われるまでもなく、桜が持ちかけた話というのは、きっとそうだろうと、茉百合も予想していた。

 剣技部への誘いは、火煉から持ち掛けられて、何度も断っていたのだが、今の茉百合は少し感じ方が変わっていた。

 別に断る理由がない気がするのだ。いや、むしろ、今までの自分は、なぜそうしたことを避けていたのか、不思議な気がした。


 *


 教室に入ってからも、クラスメイトたちの視線は痛いほど茉百合に集中していた。

 茉百合が席に着くや否や、これまで声を掛けてこなかった生徒たちまでが、周りを取り囲み、ワイワイと話しかけて来た。


「ねえ、祭刀さん、昨日は凄かったみたいね」


「いやあ、凄かったよ、俺、校門のところで見てたけど、あんなすげえ闘いとか、まるでゲームみたいだったぜ」


「祭刀さんって、本当に強いんだね」


 これまで“噂”として茉百合が強いということを知っていたクラスメイトたちは、それが真実だと知って、興奮気味だった。


「相手の金髪少女には、あの火煉さんも勝てなかったぐらいなのに、一撃で勝っちゃうなんて、やっぱ凄いよね」


「さすが“剣士”だよな」


 周りでがやがや騒ぐのを茉百合が困惑気味に受け流していると、聡美が割って入って来た。


「ちょっと、あんたたち、調子いいんだから、茉百合がほら、迷惑してるじゃない。そろそろホームルームが始まるんだから、席に着いて着いて、ほらほら」


 テーブルにたかる蠅でも追っ払うように、聡美が左右に手を振った。


「ああ、皆静かに」


 担任の今村が教室に入って来た。


「突然だが、今日はこのクラスに転校生が入ることになりました。

ええ、正確には転校生というよりは、留学生というべきか……」


 転校生を紹介するにしては、今村は心なしか困ったような顔をしていた。


「では、中に入って……」


 今村に手招きされて教室の中に入って来た少女を見て、教室中がどよめいた。

 中でも一番驚かされたのは、茉百合に違いない。


「はじめまして、皆さん」


 国立ヤマト学院中等部の制服を着た金髪の少女は、流暢な日本語でそう挨拶すると、ニッコリ微笑んだ。


「……ああ、ロベリアからこの国立ヤマト学院中等部に留学することになった、ジャンヌ・バロアさんだ」


 今村は消え入りそうな声で少女を紹介した。


「私は、ロベリアから来ましたジャンヌ・バロアと申します。

 皆さん、よろしく」


 ジャンヌは、笑顔のまま教室中を見回し、茉百合の顔を見つけると「あ」と声を漏らして、なお一層の笑顔を向けた。

 茉百合の方は、それにどう応えていいのか、困惑するばかりだ。


「席は、とりあえず、後ろの空いたところに……」


 今村は、茉百合が座る斜め後ろの席を指差した。

 席に向かう途中、茉百合のそばでジャンヌが立ち止まった。


「この間はどうも。ジャンヌ・バロアです。

 えっと、まだあなたのお名前を伺ってなかったような……」


 中等部の制服を着たジャンヌは、先日見たよりも幼く見えた。


「妾は、サイトウ・マツリじゃ」


 ぶっきら棒に茉百合が応えた。


「ああ、お互いの自己紹介は、休み時間にするように、ジャンヌさん、早く席に着いて」


 今村はいつもの調子を少し取り戻して言った。


 *


 最初の休み時間が始まると、ほとんどの生徒が教室を飛び出していった。

 彼らのほとんどは、他のクラスの生徒に“ビッグニュース”と伝えるために走り回った。

 残りの生徒は、遠巻きに見ている者がほとんどで、ジャンヌ・バロアにどう接していいのかわからずにいた。

 ジャンヌと、茉百合、そして聡美の三人がぽつりと教室の中央に残っていた。


「改めて、よろしくね、マツリ」


 ジャンヌは席から立ち上がると、茉百合のそばに近づき、握手のつもりか右手を差し出した。

 茉百合は席に座ったまま、ジャンヌから差し出された手を握ろうとはしなかった。


「お主、何故、この学校に参ったのだ?」


「おう、マツリ、学校は勉強するところでしょう?

 私は、ヒノモトのことをもっと知りたくて、この学校に来たのです。

 それと、もちろん、あなたに会うために、ね」


 ジャンヌは全く臆することなく、話した。


「この間の決着を付けにか?」


「それはまた、いずれね。

今は本当に、もっとヒノモトのことを知りたい、それだけです」


 パッと見は大人びて見えるが、こうして面と向かって話してみると、15歳という気がしてくるから不思議だ、と茉百合は感じた。


「ジャンヌさん、あなた、この間のような剣は持ってきてないの?」


 聡美が訊いた。


「あれは、軍の任務の時だけ身に付けているものです。

 学校には持ってきてませんね。

 それと、せっかくヒノモトで学ぶのですから、マツリが持っているような日本刀をぜひ手に入れたいと思ってます」


 ジャンヌは、趣味の話でもするように、目を輝かせながら喋った。


「マツリ、あなたが入っているこの学校の剣術のクラブをぜひ紹介してください」


「いや、妾は、剣術部には入っていないのじゃが……」


「そうなんですか、ではどこで剣術を習ったのですか?」


「茉百合の家は、有名な剣士の一家なんだよ」


 茉百合の替わりに聡美が横から答えた。

 矢継ぎ早にジャンヌに訊かれて、茉百合は面倒になっていた。


「よかろう、この機会に妾も剣術部に入るとしよう」


 茉百合が独り言のように呟いた。


「おう、それがいいです! 一緒に入りましょう、剣術クラブ!

 あなたも、どうです?」


 ジャンヌが隣に立っていた聡美にも訊いてきた。


「え? 私?

 ……いや、わかった。茉百合が入るなら、私も入るよ!」


 聡美としては、積極的に剣術を習いたいわけではなく、ジャンヌと茉百合のことを、このまま放っておくわけにはいかない、そう思ったからつい口を滑らせてしまった。


 茉百合とジャンヌが相塗れ、一色触発となるのではと、惧れていたクラスメイトたちも、彼女たち3人が打ち解けている様子をみて、ほっとしていた。


「あの、ジャンヌさん、改めて、よろしくね」


 他の連中が恐る恐る近づいて、彼女に握手を求めて来た。


「おう、よろしくお願いしますね、皆さん」


 ジャンヌは、最初に入って来たよりも自然な笑顔で握手に応じた。

その様子を見て、気丈なようでいて実は彼女なりに緊張していたに違いないと、茉百合は思った。



あとがき


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

ご意見、ご感想等、ございましたら、何なりとお寄せください。

よりよい作品づくりのための参考とさせて頂きます。

今後ともよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ