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まつりの剣 [転生・真紀元年・刀剣乱世英傑譚]  作者: 未来乃メタル
第2章 覚醒(エピファニー)
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〈その3〉ロベリア侵攻(後編)


「火煉さま!」


 校門の門柱に叩きつけられて倒れた火煉の下に、剣術同好会の部員たちが集まって来た。

 真っ先に飛び出してきたのは、火煉の後輩であり、新学期の祝賀会で火煉の相手を務めた本田薫だった。


「火煉さま、しっかり、誰か、救急車を!」


 薫が火煉を少しだけ抱き起すと、腹部から胸元にかけて斜めに切り上げられた制服が血で濡れている。

 これを見て薫は冷静さを失い、周りに助けを求めて叫んだ。


「もう終わりか、つまらん」


 ジャンヌが剣を下して、火煉の周りに集まる人垣を睨視した。


「勝負はあった。ジャンヌ・バロアさん、剣を収めなさい」


 校長に呼びかけられて、ジャンヌが怪訝な顔をした。


「おや? おじ様は、わたくしのことをご存じなんですね」


「私は、ここの校長ですよ、ジャンヌ大佐。

 あなたのことはすでに学校側にも情報が入っています」


「ほう……」


「清滝火煉くんは、この学校でも一、二を争う剣技の持ち主です。

 彼女に勝ったのだから、ここはこれでお引き取り願いたい」


 校長は冷静に申し出た。


「待ってください、校長先生」


 ジャンヌと校長の間に、割って入って来たのは、火煉と同級生の浅久良桜あさくらさくらだった。


「いきなり他流試合を吹っ掛けられた上に、勝ち逃げされたのでは、ヤマト第一学院剣技部としては、見過ごすわけにはいきません」


「君は、確か、剣技部部長の浅久良くんでしたね」


「はい」


 剣技部では火煉ばかりが注目されていたが、火煉より一つ上の浅久良桜は、ヒノモト十大流派の一つ“天戯無念流てんぎむねんりゅう”の師範代である浅久良源八の娘であり、火煉に並ぶ実力の持ち主であった。


「おう、今度はあなたが相手ですか」


 物足りなさを感じていたジャンヌは、予期せぬ相手が現れたことで目を輝かせた。


「でもその前に、私は、こちらの少女と対戦してみたいのですが……」


 ジャンヌはまだ抜き身の剣先を、校門の横に集まった人垣の方に向けた。

 集まっていた生徒たちは、剣先が自分の方に向けられたので、慌てて避けた。

 人垣が割れた先に茉百合とその後ろで肩を震わす聡美の姿があった。


「まつり、あの金髪のお姉さん、あんたのこと、呼んでるみたいだよ」


 聡美に言われるまでもなく、ジャンヌの剣先はまつりの眉間目掛けて真っすぐに伸びていた。


「あなた、私と勝負しなさい」


 ジャンヌは笑顔から急に真顔になって茉百合の方に正対した。

 茉百合は、ジャンヌから視線を外さずに睨み返した。


「ちょっと待ちなさい、これ以上の果し合いは認めるわけにはいきません」


 茉百合の担任の今村が叫んだ。

 

「お前の許可などいらん。

 これはロベリアとヒノモトの剣士同士の戦いだ」


 ジャンヌは今村を横目で睨んで一喝した。


「校長先生!」


 少女に一喝されて今村はびくっとし、校長に助けを求めた。

 そうこうしているうちに、誰かが呼んでいた救急車が到着した。

 応急処置を受けた火煉は、意識はあったが、苦痛のためまともに話せる状態ではなかった。

 火煉を乗せた救急車がけたたましいサイレンを鳴らして出発するまで、その場は動かなくなっていた。


「さて、怪我人は収容されたようだし、改めて勝負といきましょうか」


「ちょっと、待ちなさい、私の方が先よ!」

 

 ジャンヌが茉百合の方にばかり向いていたので、桜が刀を抜いて構えた。


「部長、落ち着いてください」


「薫、止めないでちょうだい。部員のかたきは剣技部で討たせてもらうわ」


 後から現れた桜は、火煉がジャンヌにどのようにやられたのか、見ていなかった。

 もし初めからその果し合いの様子を見ていたとしたら、ジャンヌに対して勝負を挑むようなことはしなかったろう。

 それぐらい、ジャンヌの剣さばきは圧倒的に強かった。

 西洋の大型ソードは、日本刀に比べて重さがある。

 日本刀の剣さばきでは、“斬る”という動作が必然だが、西洋の剣は基本的に打撃が中心となる。

 ところが、ジャンヌは剣を打撃目的で振り回すような動きではなく、まるでフェンシング用の軽いサーベルを扱うように、軽々と振ってみせた。そのスピードは火煉の剣さばきを上回る速さであった。

 そのことを知らない桜は、相手の剣が打撃中心であろうから、最初の一撃を避けて、こちらが打ち込めば勝てると読んでいた。


「部長、相手はかなりのスピードで剣を振ってきます、気を付けて!」


 もう止めることはできないと思った薫は、自分にできる精一杯のアドバイスを送った。


「しかたありませんね、では、手合わせいたしましょうか」


 ジャンヌは桜の方を振り向くと、先程と同じように、剣を下段に構えた。


「まいるぞ!」


 桜は中段の構えからやや切っ先を持ち上げ、ジャンヌに向かって突き進んでいった。


「てやあっー」


 掛け声とともに、ジャンヌの喉元へ向けて片手で剣を差し込んだ。

 

「ギュン!」

 

 喉元に突き刺さる寸前まで桜の切っ先が伸びたとき、先ほどと同じように、肉眼では捉えることができない速さでジャンヌが剣を振り上げた。

 鋼鉄の塊に刃を打ち付けたような、嫌な感触が手のひら全体に響く。強制的に刀を振り上げられて、桜の上半身ががら空きとなった。

 目の前には、上段に構える金髪の少女の冷酷な笑みが待ち構えていた。


(頭を割られる!)


 そう直観して、桜は思わず目を閉じた。


「ガキッ!」


 金属がぶつかる鈍い音がして、桜は目を開けた。

 目の前には黒髪の少女の背中があった。


「勝負の邪魔をするか!」


 ジャンヌは怒ったふうでもなく、むしろ喜びを含んだ声で中に入った相手に抗議した。

 桜を助けたのは、茉百合だった。

 ジャンヌが剣を振り下ろそうとするのを見た茉百合は、背中に背負っていた雷切丸を抜き放って間に入り、直前で受け止めたのだ。


「助太刀します。サクラさん」


「余計なことはしないで頂戴」


 茉百合が間に入らなければ、頭を勝ち割られて死んでいたかもしれない。

 助けられて抗議の声を上げるのは、もちろん理不尽なことはわかってはいたが、一方的に実力の違いを見せつけられ、それを下級生に助けられたことはやはり癪だった。

 実のところ桜はすでに戦意を失っていた。

自分が思っていた以上に、このジャンヌという少女は桁違いに強い。これ以上ジャンヌと戦えば、確実に殺される。それだけは確かに感じていた。


「まあ、いい。やっと真打登場といったところだな」


 ジャンヌは抜いていた剣を一旦鞘の中に納めた。


「ちょっと休憩だ」


 ジャンヌは腰にぶら下げていたペットボトルのキャップを外して緑茶を口にした。


「ヒノモトの緑茶ドリンクはおいしいね」

 

残りをすべて飲み干すと、ニッコリと笑った。

これだけ見ると、あどけない十五歳の少女そのものだった。


「君は、水分補給はいいの?」


 ジャンヌが茉百合に尋ねた。


「今はいらない」


「そう、後になって飲めなくなっても知らないよ?」


「なるほど、それであなたは先に飲んだわけだ……」


「あれ? こっちが皮肉を込めたつもりなのに、逆に切り返されちゃったね。

 それって、私の方が負けるという意味かな?」


 そんな意味で言ったつもりはないが、茉百合はジャンヌの頭の回転の早さに置いていかれそうになった。


「実をいうとね、私は最初から、あなたと勝負がしたかったんだ。

 あなたが持っているその“ニホントウ”からかな?

 それとも、あなた自身か、私と同じ“匂い”がするんだよねえ」


 ジャンヌは腕組みしながらそう言って、茉百合に笑いかけた。


(それって、どういう匂いなんだろうか?)


 茉百合は背中に背負った鞘を腰に差し直し、刀を収めながら考えた。


「じゃあ、コウチョウのおじ様、この子と果し合いをするので、もう一度審判を務めてくださいね」


 ジャンヌが校長に呼びかけた。


「そんなわけにはいきませんよ、ねえ、校長」


 今村が校長を見ると、自分の言葉には首肯せず、ジャンヌに向かって告げた。


「よろしい。もうひと勝負認めましょう。

 ただし、この勝負を最後の勝負にしていただきたい。

 どのような結果に終わろうとも、この勝負が終わったら、お引き取り願おう」


「さすが、話が分かる人ですね、コウチョウのおじ様は。

 その条件で、全然OKね!」


 ジャンヌは、高波が押し寄せる遊泳禁止の浜辺でサーフィンすることが許された若者のように、ぴょんぴょんと小躍りしそうな勢いで目を輝かせていた。


 一方の茉百合としては、それほど嬉々とした気持ちにはなれない。

 先程、桜を助けるときに、ジャンヌの剣を雷切丸で受け止めたとき、茉百合は感じたのだ。

 桜の脳天に向かって振り下ろされた剣には、なんの躊躇いも見られなかった。

 ジャンヌの剣は、これまで何人もの生き血を吸って来たのではないか。


(負けたら、死ぬかもしれない)


 これまで経験がしたことがないほどに、命の危機が迫っているという感覚に茉百合は襲われていた。



あとがき


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

ご意見、ご感想等、ございましたら、何なりとお寄せください。

よりよい作品づくりのための参考とさせて頂きます。

今後ともよろしくお願いします。


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