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まつりの剣 [転生・真紀元年・刀剣乱世英傑譚]  作者: 未来乃メタル
第2章 覚醒(エピファニー)
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〈その2〉新たな剣士(後編)


 ジャンヌ・バロアは腰から引き抜いたつるぎをテニスラケットのように振りかぶって、火煉の元に向かって行った。

 虚を突かれた火煉は、刀を鞘から抜くことができず、鍔に指を掛けたまま、後ろに一歩飛び退いた。


「かれんちゃん!」


 茉百合が慌てて声を掛けた。

 ジャンヌはテニスボールを打ち返すかのように火煉の胴辺りを目掛けて剣を振り抜いた。

 

「ジャギイイイン!」


 パワーショベルで硬い岩盤を抉ったような鈍い音が響く。

 ジャンヌのロングソードは、校舎の門柱に木こりが鉈を打ち込んだように食い込んでいた。


「つっ……!」


 火煉は、ジャンヌの一撃をジャンプで躱したが、着地したときに少しだけ足首を捻ってしまい、苦痛に顔が歪んだ。

 

「逃げ足は早いようだな、だが、今度は仕留めるぞ!」


 ジャンヌの口調は最初とは打って変わってトーンも低くなり、攻撃的になっていた。そして口調に呼応するかのように、眼つきもいささか鋭くなっていた。


「ちょっと、待って、剣で勝負するんじゃなかったの?

 いきなり打ち込むなんて、卑怯じゃない!」


 火煉が抗議の声を上げた。


「卑怯? 剣の勝負は命のやり取りでしょう?

 先に攻撃するのは鉄則じゃありませんか?」


 ジャンヌは少し高い声の元の口調に戻して、お道化たように笑った。


「なるほど。あなたの国と我が日乃本とでは、剣術における考え方が異なるようです。

 我が国の剣術は、どの流派であれ、礼節を重んじる。

 まず、互いに名乗りを上げ、構えてから勝負するのが基本です」


「おう。武士道というやつですね。知ってます、知ってます」


 ジャンヌが突然、目を輝かせて言った。


「それは失礼しました。いきなり攻撃されては確かに、勝負としてはどちらが真に強いかはわかりませんね。

 あなたがたは、剣術をスポーツと同じように捉えているのですね」


「スポーツとはちょっと違いますが、暗黙のルールを設けているという点は同じかもしれません」


「では、仕切り直しといきましょう。

 私は、ジャンヌ・バロア。いざ勝負といきましょう」


 ジャンヌは火煉が体制を立て直すのを待つかのように、少し下がって剣を構え直した。

 相変わらず、テニスプレーヤーが相手を迎え撃つかのよう構え方だ。


「なんか、話が通じそうにないわね……」


 火煉が足首の痛みを堪えながら立ち直して周りを見回すと、人垣ができていることに気づいた。


「いけない、人が多すぎるわ」


 火煉が心配した通り、この騒ぎを聞きつけたのか教師の姿が現れた。


「こらああ、何をしている。もうすぐホームルームが始まるぞ、早く教室に入りなさい!」


 週番の教師、茉百合のクラスの担任である今村先生の怒鳴り声が響いた。


「ん? そこにいるのは、高等部二年、清滝火煉くんか。君も教室に行きなさい」


 清滝家の令嬢とはいえ、特別扱いは許されない。そんなニュアンスを含めたような口調で教師が呼びかけた。


「えっと、そちらの君は留学生かね?」


 教師がジャンヌの姿を見て尋ねた。


「留学生、違います。私はジャンヌ・バロア。ロベリアから来ました」


「他校の者は許可なく入ることはできませんよ、お嬢さん」


 今村先生は、ジャンヌが刀身むき出しの剣を携えていることに、一瞬ギクリとしたが、ここは冷静に対処した方が良さそうだと考えた。


「私は、この国の剣士と勝負するために来たんですが、勝負するためには、許可がいるんですね」


 ジャンヌは惚けたような声で今村に尋ねた。


「いや、ちょっと違うが……。

そもそも、こんな場所で闘うことは許されませんよ」


 今村は半ば呆れて人垣を見渡した。


「おう、ロベリアとヒノモトは、昨夜、再び戦闘状態に入ったのです。

 あなた方には、その情報がまだ伝わっていないようですね」


 ジャンヌにそう言われて、今村は少し考えるように腕組みした。


「……うーん、そうなのか。

だからと言って、いきなりウチの生徒に襲い掛かるような真似は許すわけにはいきませんよ」


 今村も負けじと言い返した。


「ふん。許可を取るには時間が掛かるし、たぶん下りることもないだろう」


 ジャンヌは再び低い声色で言い捨てると、今村を睨んだ。


「お前の許可など、必要ない。

 おい、こっちはきちんと名乗ったぞ、お前も名乗れ!」


 ジャンヌは火煉の方に向き直って小さく叫んだ。


「わかりました。

 私は、国立ヤマト学院第1中学・高等学校、高等部二年の清滝火煉。

ジャンヌ・バロアさん、では、その勝負、受けることにしましょう」


 火煉は意を決したように刀を引き抜いた。


「そうこなくっちゃな」


 ジャンヌの形相が我が意を得たとばかりに口角を上げた。


「コラコラ、ダメと言ったらダメだ……」


 今村が二人の間に入ろうとして、その肩口を後ろから掴む者がいわた。


「校長先生」


「今村先生、いいから続けさせなさい」


「しかし、双方とも真剣ですよ、命に係わるんじゃ?」


「これが正式な果たし合いであることを、私が認めましょう」


「ええ?」


 この国では、一定のルールに基づいて、剣士の資格を得た者同士の“果し合い”を行うことが認められている。

 例えば、自分の親や親せきが殺された場合の“敵討ち”のほか、侮辱を受けたり、相手からプライドが傷つられた場合、臨時の措置として、上級剣士が認めれば、時、場所を選ばず、いつでも決闘を行うことができる。

 この場合、校長は上級剣士なので、臨時の措置として、こうした果し合いを認めることができた。


「しかし、清滝火煉は、理事長の娘さんですよ。

 もしものことがあったら……」

 

 今村の心配顔をよそに校長は笑顔を見せた。


「なに、その心配には及びませんよ」


 突如現れたジャンヌ・バロアとかいう少女は、きっと相手を殺そうとまでは思っていないだろう。

自らも剣士として数々の修羅場を潜り抜けて来た長年の経験から、校長はそう確信した。


「せいやあああ」


 二人は、一定の間合いを取り合うと、やはりジャンヌが先に仕掛けた。

 ロベリアの剣士は、駆け引きというものを知らないのか、それとも先手必勝と習っているか、火煉は普段の戦い方とあまりに違うのに、多少戸惑いつつも、ジャンヌの振るう剣の癖のなさに、落ち着いて対処することができた。

 ジャンヌは火煉の胴の辺りに、二発、三発と打ち込み、火煉は、その剣を自らの刀の峯で受け止めた。

例えてみれば、テニスの試合でお互いにラリーで打ち合うような感覚だ。

 

「なかなか、やるな」


 本気ともお世辞とも付かぬ感想をジャンヌが漏らした。

 火煉は相手の攻撃を数回受け止めて、もしかして、このジャンヌという剣士は、それほどの腕ではないかもしれないと、思った次の瞬間だ。

 ジャンヌがぴたりを攻撃を止めて、下段に構えた。


(む? この構えは?)


 火煉が不審に思ったと同時に、傍で見ていた茉百合の方が声を上げた。


「え? なんで、この構えを?」


 それは茉百合が得意とする下段の構えにそっくりだった。



あとがき


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

ご意見、ご感想等、ございましたら、何なりとお寄せください。

よりよい作品づくりのための参考とさせて頂きます。

今後ともよろしくお願いします。


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