表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

童話とか児童書ジャンル

王子とツバメと鉛の心臓

掲載日:2024/05/22

 さくっ、さくっ、と、(しも)ごと土を踏みしめる音が、響く。


 灰色の空からはチラチラと雪が舞い落ち、明けきらぬ冬が、凍える寒さを届ける朝。


 ひとりの少年と、ひとりの少女が、スコップを片手に、街はずれのゴミ溜めを掘り返していた。


 さく、さく。


 ふたりの手は止まることなく。


 さく、さく。


 無言で土やゴミをのけていく。

 そして。


「あったぞ! これだ!」


 声がはじけた。


 少年の掘った穴の中に、ふたつに割れた黒い(かたまり)があった。


「"鉛の心臓"。ついに見つけた」


 少年は"心臓"と呼んだその物体を、両の手で拾い上げた。


「見事に燃えてませんね」

「うん」


 少女の言葉に、少年は頷く。


「鉛は、溶けやすい物質ですのに」


 少女が不思議そうに首をかしげた。


「これは、僕の"決意"だからね。簡単に溶けるようなものじゃないよ」


 鉛の塊りに目を落とし、少年が言う。


(ツバメを失った後悔(ショック)で、真っ二つに割れちゃったけどね)


 少年は、前世に思いを馳せた。



 ◇



 "鉛の心臓"のかつての所有者は、"幸福の王子"と呼ばれる黄金(きん)色の像だった。


 幼子(おさなご)たちの童話にある。

 街を見下ろす高い塔に設置された、王子像。


 その像は金箔に覆われ、両の目はサファイア。剣の柄はルビー。


 彼は生前、不幸を知らぬ、恵まれた王子だった。

 憂いなき宮殿で過ごし、その死後に王子を模した像が飾られた。

 像となった王子は塔の上から、初めて街の暮らしを目にすることになった。


 病気や貧困にあえぐ人々を知り、涙して、"何とか助けたい"と一羽のツバメに協力を頼んだ。

 ツバメは王子の手足となり、苦しむ人々に王子の宝石の目を、柄飾りを、金色の箔を届けた。


 そうして南に行く時期を逃したツバメは、王子像の足下で命を落とし。

 金がはがれ、みすぼらしくなった王子の像は、高炉に投げ込まれた。


 すべてが溶けたのに、"鉛の心臓"は残ったので。


 それは街の人の手によって、ゴミ溜めに捨てられたのだった。



 ◇



「あの頃の僕は、本当にバカだった」


 少年が言った。


「一番力になってくれて、そばにいてくれた、大切な相手を助けることが出来なかった」


 その目は、隣にいる少女を映す。

 少女は、そんな彼にニッコリとほほ笑んだ。


「でも、私は幸せでしたよ。あなたのお手伝いが出来て。人助けも出来て」


 ふるふると少年が首を振る。


「ううん。駄目だよ。きみを犠牲にしてしまった。挙句(あげく)ふたりとも、"みすぼらしい"と捨てられてさ。……あんなに、街のために尽くしたのに」


 手の中の鉛を、そっと握りしめる。


「僕は二度、失敗した。一度目は何も知らない王子として。二度目は金の像として。一部の人だけを助けて、世の中を救えるつもりでいたんだ。こうしてもう一度"生"を得た今、今度こそ間違えない」


 そして"鉛"に向かって、彼は念じた。



 ──正統な(あるじ)として迎えに来た。その身をひらき、真の姿を見せると良い──



 ジュワッと鉛が溶け、手から(あふ)(こぼ)れる。

 光沢のある銀色の液体が、ぽたり、ぽたりと地面に落ちて。


 鉛がなくなると、中から青い宝石があらわれた。



 それは、鉄を溶かす高炉程度では燃えることのない、大きなサファイアだった。

 まるで"幸福の王子"の瞳のような。



「これを売って、きみが昔旅した国にあったという、寒さに強い野菜や穀物の種をたくさん買おう。貧しさの前に、皆が飢えて死ぬことのないよう」



 一握りの人たちじゃない。

 多くの人たちを救うために。


 ほんの一時(ひととき)ではなく、皆が(なが)く豊かに暮らせるように。



 サファイアよりも強い輝きが、少年の目に宿っている。

 彼は彼女に呼び掛けた。


「一緒に来てくれる?」

「もちろん! あなたが行くならどこにでも」


 即答した少女は、そっと少年に寄り添った。


「でも私は"良かった"と思ってるんです。こうしてあなたと同じ種族に、生まれ変わることが出来たから」


 少年の青い瞳が驚きに見開かれ、そして嬉しそうに細められた。

 

「ありがとう。僕の愛しいロンディネ(ツバメ )



 さくっ、さくっ、と、薄く積もった雪を鳴らし、少年と少女は歩き始めた。



 やがて春が来て。

 花が咲き、豊かな緑が大地を覆う頃には、少年が買った種も芽吹いていた。


 そしてそれは、近く国中に広がり、大勢の人々の胃袋を満たして、命を救う(かて)となった。



 "幸福の王"。


 少年の後世の呼び名である。



 その(かたわ)らにはいつも、艶やかな黒髪の女性が並び立っていたという──。



 咲く咲く花よ 花畑

 続く未来に確かな春を



 お読みいただき有難うございました!


 こちら、「ひだまり童話館」参加作品、テーマ「さくさくな話」となります。

 昨日、別の短編を出してしまい、うっかり連日の投稿となってしまいました。ううっ、近い日付で出してしまうと、片方が読んでいただけないのでは…。

 昨日の短編もぜひ読んでくださいね!「ある公爵家における、父親の苦悩~娘が突然「婚約破棄」されたらしい」というお話です。


 さて、本日の童話。ベースは「幸福の王子」です。

 子どもの頃に思いました。「幸福の王子」ってタイトルに反してちっとも幸せに終わらない!!(涙) なので、今回、ちょっと転生させちゃいました(笑)


 元の童話では、ツバメ(・・・)男の子(・・・)です。王子も男の子です。

 そのままいっちゃう? どうしちゃう? と悩んだことはヒミツです。少女と書いてますが、女の子とは限らない、そう"男の()"ということも──ゴホッゴホゴホ。その部分は皆様のご想像にお任せしたいと思います!(≧∇≦)


 えっと、溶鉱炉の温度は超高いですが、鉄だけ溶かす、また昔の技術なら1538℃という設定にさせていただき、童話の溶鉱炉を鉄用として「高炉」と表現しました。

 サファイアの融点は2040℃。イケる。多分。でも魔法要素も取り入れました。少年の手は、鉛を溶かしても熱くなかった設定でおねしゃす!(`・ω・´)ゞ ※「ライデンフロスト効果」じゃないよ。(←330℃の鉛にアルコール塗った指を一瞬入れても熱伝導しないやつ)


 本当は、鉛を溶かして出来たカタチで占う、"鉛占い"についてのくだりもあったのですが…長くなったので削りました。また機会があれば聞いてやってください。

挿絵(By みてみん)


 楽しんでいただけましたら幸いです\(*^▽^*)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良かったらコチラもよろしくお願いします!
短編が多いです!

・▼・▼・▼・▼・▼・
【総合ポイント順】
・▲・▲・▲・▲・▲・

・▼・▼・▼・▼・▼・
【新しい作品順】
・▲・▲・▲・▲・▲・

・▼・▼・▼・▼・▼・
【異世界恋愛+α】
・▲・▲・▲・▲・▲・

【昨日投稿した短編】
『ある公爵家における、父親の苦悩~娘が突然「婚約破棄」されたらしい 』
娘が大好きなパパのお話です。
― 新着の感想 ―
[良い点] 王子様が転生しても、たくさんの人の幸福を願っていたことに感動しました。 鉛の心臓と大切なツバメをゴミ捨て場に捨てられても、恨むのではなくそれでも多くの人を幸福にしたいと願い続けて、人々のた…
[良い点] 幸福の王子は、敬虔なキリスト教徒でなければ、何がハッピーエンド?って話ですもんね(人魚姫もフランダースの犬もついでにマッチ売りの少女も) 理屈では彼らの価値観では救いがあったと理解はします…
[一言] こちらの話をきっかけに、『幸福の王子』の原作の絵本を読んだら、最後の方で泣けてきました。 でも、きっと転生したら二人は幸せになりますね。 素敵な話をありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ