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フクロウは3時の鐘が鳴る頃に

作者: 昼月キオリ

この街には3時のおやつ・・・ではなく3時のフクロウがいる。

大きな公園の近くの住宅街にひっそりと佇むカフェ。

「Good Night」

このカフェには何故か不眠に悩む人が訪れる。


お店の時計が午後3時に鳴ると、女の子がお店の扉を開けて外に出る。

女の子が腕を伸ばすと近くの公園からフクロウが2匹、女の子の元へ飛んで来て両腕に乗る。

それがこのカフェの営業が始まる合図。


ーなずな(30代前半)ー

5月。

私はいつも睡眠不足。

毎晩悪夢にうなされては途中で目が覚める。

目が覚めた後はしばらく眠れず、やっと眠れたと思ったら目覚ましの音が鳴る。

そんな生活がもう10年近く続いている。

当然、寝ても疲れは取れない。

そればかりか疲労が段々と蓄積されていくのが分かる。

きっと私は早死にするんだろう。

休みの日は昼までベッドの中にいることが多い。

さすがに体が怠くなり外へ出る。

近くに大きな公園があるので散歩をしに行こう。

気分を変えようといつもと違う道を歩いてみる。

住宅街から公園に向かうその途中に見たことのない看板が目に入る。

扉の周りには青いポピーの花が咲いていた。

「Good Night」

営業時間は月曜日の午後3時から5時まで。

看板にはメニュー表とルールが書かれている。


〜MENU〜

All500(ホットのみ)

カモミールティー ハニーホットミルク メープルホットミルク ホットココア

〜カフェのルール〜

店内に入る前に携帯の電源をオフにし、外界から得る情報を遮断すること。

黒いローブを着ること。

会話は注文する時意外一切禁止する。

タバコ、香水禁止。


私は眠い目をこすりながらお店に入った。

すると黒いローブを着た小さな女の子が私に近づいてきてゆっくりお辞儀をする。

私がお辞儀をし返すと、席に私を促し、黒いローブを渡してきた。

私はローブを受け取って着用してから席に着く。

なずな「メープルホットミルクお願いします」

私が注文をすると女の子は一度だけ頷く。

店員は小さな女の子一人だけらしい。

黒いローブを着ていて顔はよく見えないけど10歳前後だと思う。

正直、女の子からはかなり不気味な雰囲気が漂っている。

一人用のテーブルと二人用のテーブルが二つずつあるだけの小さなお店。

焦げ茶色の木材を基調とした外観と内装で暖かみが感じられる。

薄暗い店内には月をモチーフにしたペンダントライトが付いていて、電球色なので優しい色合いだ。

店内には音量小さめのゆったりとしたケルト音楽が流れていて眠気を誘う。

時折、2匹のフクロウのホゥホゥという鳴き声が聞こえる。


数分後、飲み物が出された。

飲み物は蓋付きの紙のカップを使用している。

コーヒーやお茶がなく、ホットのみの提供なのも珍しい。

私の座っている席の机にフクロウが一羽、ふわりと降り立つ。

もう一羽のフクロウは少し離れた場所に立っている。

目がクリクリとしていてとても可愛らしい。

フクロウを見ながら飲み物を口にする。

メープルホットミルクは熱過ぎず甘過ぎずストレスがなくちょうどいい。


1時間ほどカフェに滞在した後、私はお会計を済ませようとレジへ向かう。

女の子は私が帰る際にゆっくりとお辞儀をした。

私もお辞儀を返し、店を出た。

結局、女の子は最後まで一言も喋ることはなかったけど嫌な気分は一切しなかった。

その日は不思議とぐっすり眠れた。


恵斗(けいと)

自宅のキッチン。

恵斗(なずなの弟)「ふわぁ・・・」

なずな「恵斗、眠そうだね」

恵斗「うん、ここんとこ寝不足でさー」

恵斗は目をゴシゴシと掻きながら言った。

なずな「目擦ると傷付いちゃうよ」

恵斗「んー」

なずな「あ、そうだ!この間行ったカフェなんだけどさ」

私は弟にカフェの話をした。

恵斗「え、あのいつも眠れない姉さんが寝れた?」

なずな「そうなの、しかも行った日からずっとだよ」

恵斗「凄いな、じゃあ俺も行ってみようかなぁ・・・」

なずな「行ってみ行ってみ」


1週間後。

恵斗「姉さん、例のカフェ行って来たよ」

なずな「どうだった?」

恵斗「よく分かんないけど今日はよく寝れそうな気がする」

なずな「良かったね」

恵斗「でも、何かちょっと異様な雰囲気があるお店だよね

店員?らしきあの女の子とかフクロウとかさー」

なずな「私も最初にお店に入った時は驚いたよ

あの女の子がどこの誰なのか、歳はいくつなのか、なんでフクロウと一緒にお店をやっているのか、誰も知らないみたい

ネットにも一切情報が出てなかったよ

あの女の子一体何者なんだろうね・・・」

恵斗「絶対只者じゃないよねあの雰囲気は」

なずな「うんうん、でもなーぜか凄いリラックスできるしフクロウが可愛いんだよねぇ」

恵斗「そう言えば俺の友達で一人、姉さんみたいに睡眠で悩んでる奴がいてさ

目の下にクマがすんごいの」

なずな「え、その子大丈夫?」

恵斗「病院だとお金とか時間かかるからって言って行かないんだよ、どっかの誰かさんみたいに」

なずな「あはは」

恵斗「隣町に住んでる奴だから場所分からないと思うし今度誘ってみるわ、教えてくれてありがとう姉さん」

なずな「いえいえ〜」


相生(あいおい)

相生とは大学からの付き合いだ。

相生も俺と姉さんと同じで結婚はしていない。

俺と姉さんは両親と4人で暮らしているが相生は一人暮らしだ。

最近好きなタイプはいるのかと相生に聞いたら、小さくて目がまん丸くてフワフワした子だと言うので割と真面目に心配していたら動物の話しだったようで

女性のタイプだよ!とツッコミを入れた後、二人で大笑いをした。

次の日。さっそく俺は友人の相生にカフェの話をした。

恵斗「どう?相生、一緒にカフェ行ってみない?」

相生「へぇ、フクロウがいるカフェか、面白そうだね」

恵斗「相生、最近フクロウ好きだからちょうどいいかなって思って」

相生「ありがとう、行ってみたい」

恵斗「来週の月曜日、相生も仕事休みだったよな、

予定大丈夫そう?」

相生「大丈夫だよ」

恵斗「よし、じゃあ来週の月曜日に行こう」

相生「うん」


月曜日。

恵斗「ここここ!」

カフェに着くと相生は看板のルールに目を通す。

相生「なるほど、確かにちょっと変わったカフェだね」

恵斗「でしょ?会話はできないけどフクロウ見て癒されよ」

相生「うん」

相生は真面目で大人しい奴だからこういう場所に連れて来ても何の心配もしなくていいから助かる。

恵斗「飲み物何にするか先に決めとく?俺ココアにしよう」

相生「そうだね、僕もココアにするよ」

恵斗「OK!」

お店に入り、女の子から黒いローブを二着受け取る。

俺と相生はローブを着ると席に座った。

恵斗「ホットココア2つお願いします」

女の子は一度だけ頷くと飲み物の準備を始めた。


数分後、飲み物が出される。

机の上にフクロウがちょこんと立っていてこちらの様子を伺っている。

もう一羽のフクロウは女の子の腕の中で眠っているようだ。

会話はできないけど、相生はフクロウを見て嬉しそうな表情を浮かべている。

どうやら楽しめている様子だ。相生をここへ連れてきて良かった。

お会計を済ませ、二人がお店から出ようとした時、女の子が相生の袖を掴んだ。

相生と恵斗は一瞬、目を見合わせて首を傾げる。

相生は女の子の背丈までしゃがみ、話しかけてみる。

喋っていいのかと一瞬迷ったがこの状況で無視をするのは違う気がした。

相生「どうしたの?」

よく見ると、袖を掴んでいる女の子の細い腕に紺色のハンカチが巻かれていた。

女の子は無言のままじっと相生を見る。

相生「そのハンカチ・・君はひょっとしてあの時の?」

女の子はその言葉を聞くと小さく頷いた。


半年前。

月曜午後3時。公園。

仕事が休みの日。相生は木の下に座り休んでいた。

森林浴はやはり癒される。

すると突如、頭の上に何かが落ちて来た。

相生の頭の上をバウンドした後、空中に放り出されたその"何か"は草の上に落ちた。

相生「いたっ・・なんだ?・・・え、フクロウ?」

いきなりのことに驚いたが、それよりもフクロウが木の上から落ちるなんてどこか怪我をしているのではないかと心配になり、

体を見てみるが怪我はないようだ。

僕の頭がたまたまクッション代わりになって良かった、落ちたのが草の上で良かった。

相生「というか・・寝てるのか?」

その小さなフクロウは木から落ちてあれだけの衝撃を受けたにも関わらず眠っている。

これは・・・さすがに心配になるなぁ。

まぁ今は僕がいるし、怪我も無く気持ち良さそうに眠っているし、しばらくこのままにしておこう。

相生は紺色のハンカチをポケットから取り出し、フクロウにそっとかけた。

相生「君はいいなぁ・・そんなにぐっすり眠れて

僕は睡眠障害で毎日眠るのが苦痛で仕方ないよ」

だけど今だけは眠れるような気がした。

そう思いお腹の上にフクロウをちょこんと乗せたまま自身も眠りについた。


2時間後。辺りが少し暗くなり始めた。

相生「ん・・あれ、今何時だ?17時か、そろそろ帰ろう」

相生が目を覚ますと、ちょうど同じタイミングでフクロウも目を覚ましていた。

相生「君も起きたんだね」

フクロウは数秒、まん丸い瞳で相生の顔をじっと見つめた後、木の上に戻っていった。

相生「可愛いフクロウだったなぁ」

その後、帰宅した僕はハンカチを持っていないことに気付いた。

相生「そういえばフクロウにかけてそのまま・・・まぁ、今日はこのまま寝て

また明日仕事行く前にまだあるか見に行ってみよう」

その日、僕は久しぶりに安眠できた。

次の日の朝。

フクロウと昼寝した場所に行ってみたけれど、ハンカチはすでにそこにはなかった。


現在。

睡眠が良くなるカフェ、月曜日の午後3時から5時の営業。

相生「もしかしてこのカフェは僕の為に・・・?」

女の子はコクコクと頷く。

きっと睡眠にいいものを色々調べてくれたんだろうな。

相生「そうか、あれから何度か同じ場所に行ってみたけど見つからなくて

ここでカフェを開いていてくれていたんだね」

女の子はそっと袖を掴んでいた手にぎゅっと力を入れた。

相生「やっと会えたね」

相生がそう言って微笑むと女の子が思い切り抱き付いてきた。

"ずっと会いたかった"

その気持ちに応えるように相生も優しく抱き締め返した。

恵斗"何が何だか分かんないけど、良かったよかった"

恵斗は腕を組みながらうんうんと頷きながら黙って二人を見守っていた。


それからすぐにお店は閉店した。


1カ月後。月曜午後3時。公園。

相生が木の近くに行くとフクロウが飛んで来て腕に乗った。

相生は木の下に座るとフクロウをお腹の上に乗せて紺色のハンカチを体に優しくかけた。

相生「おやすみ」

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