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ゴブリンと状況開始した騎士達とフィー

 ダビデは自分さえローズブチアに戻ればなんとかなると考えていた通り、どうしてはぐれ騎士などしているのかと尋ねたい武力を誇っていた。


「聖なる炎、太陽神の輝き。我が剣に宿り、穢れを焼き尽くし清浄に導け」


 彼は炎のエレメンタル持ちであった。

 襲い掛かる多数のゴブリンを熱風で巻き上げながら炎を纏わせた剣で薙ぎ払いと、ダビデは集会場の屋根の上のゴブリンの数を次々と屠って減らして行く。


「地獄の門を開き帰獄の鐘を鳴らせ」


 アバンもか。

 アバンが唱えれば屋根の瓦の隙間、アバン自身の影、ゴブリンが破壊した破片で出来た影、そしてゴブリン自身で出来ている影から真っ黒の球が飛び上り、それらは真っ黒の杭となってゴブリン目掛けて飛んでいくのだ。

 ゴブリンに刺さった瞬間、真っ黒の杭はゴブリンの肉体を道連れに爆発する。


「すごいです。エレメンタルが少ない騎士でも最上級の騎士はここまでできるのですね」


 二人ともエレメンタルばりばり持ちの単なる魔導士崩れでしか無いとフィーに言おうとしたが、フィーの瞳が二人の騎士に対して憧憬で輝いていたので私は口を噤んだ。


 恐らくダビデはその好戦的な性格で魔導士としては大成できなかったのだろうし、アバンはアルトマイゼンを守護する騎士家の嫡男という縛りで魔導士を目指すことが出来なかったのだろう。そしてアバンについてはその先行きの無さに鬱憤が溜まり、闇魔法が磨かれてしまっただけであろうと考察すると、フィーに知らせるのは酷だと思ったのである。


 二人とも純粋な騎士じゃないどころか人生の挫折者。


 そんな彼等を自分の騎士にと望んだのはフィーだ。

 自分には人を見る目が無かったと思い知るのは、ただでさえ落ち込みやすい子供には可哀想だ。


「はぁ!!」


 フィーの気合の声に私はフィーへと意識を戻す。

 彼は自分に飛び掛かって来たゴブリンを薙ぎ払った所だった。

 いや、すでに四体も屠っていた?


「見事です、侯爵!!もう一体お願いします」

「さすがです、フィーニス様!!右後方にも私が撃ち漏らしたものが!!」


 ダビデとアバンはちゃんと上司への接待もしていたようだ。

 いや、親猫が仔猫に狩りを教えているだけか?


 彼らは弱らせたゴブリンをさも自分達が撃ち漏らしたようにしてフィーへと向かわせ、フィーに止めを刺させているのである。

 この混戦状態で。

 剣技の腕と場数の多さでは、純粋な騎士以上の猛者達であったようだ。


「ミラ、あの子はここにはいないよね?」


 フィーがこそっと私に囁いた。

 この状況において、フィーも冷静な自分を残していたようだ。

 いいや、かなり冷静だったか。


 フィーはゴブリンに剣を振るいながらも、壊れた屋根の隙間から下の集会場の中を探っていたようなのだ。そこでフィーは、自分を魅了した聖少女の姿を見つけられなかったことで彼女の生死ばかりが気がかりになったらしい。


「目を瞑れ、見せてやる」


 フィーは素直に目を瞑る。

 彼の瞼を閉じた視界の中に、今いる場所の北方角の建物が映った。次いでは内部へと視界は透過する。小さな屋根裏部屋に六人の逃げ遅れがいた。怪我をして動けない男性一人と泣くばかりの幼い三人の子供、そして、動ける女二人がゴブリンの侵入を防ぐためにドアを押さえている。

 ゴブリンの鋭い爪が厚いはずの扉に穴をあけ、その指に引っかかれては顔や腕に傷を増やしていく二人。


「もはや持たぬ。あの二人のどちらかを連れ、逃げ遅れが逃げ込んだ場所に急げ」


「わかった」


 フィーはぱっと瞼を開ける。

 丁度彼に躍りかかった三体のゴブリン。


 しかしフィーはアバンとダビデの接待戦闘でゴブリンに剣を振るう事に慣れ切ってしまったのか、躊躇せずに目の前の三体に向けて剣を振るう。


 剣先は大き過ぎる半円を描く。

 三体は空中で悠々と剣を避けて遠のき、小馬鹿にしたようにヒヒっと笑う。


 その瞬間、真っ黒な杭が三体を貫いた。


「僕に近すぎるとアバンが杭を放てない」

「お主もなかなかだな」

「ふふ」


 フィーは私に自慢そうに笑い、次に自分を助けた騎士へと声をあげる。


「アバン!!助かりました。ここは任せて良いですか?」


「もちろんです。お疲れですか?お怪我でも?」


「いいえ。大丈夫です」


 フィーはアバンに微笑んで見せた後、ダビデへと声をあげる。


「ダビデ!!妹さんを救いに行きます。僕が誘導します!!」


「なぜあなたがカリンナの居場所を?」


「侯爵家の相伝スキルです!!ここから北方向。赤レンガの建物です」


 私がフィーの口を奪っていた。

 フィーは誇らしげに私の加護があると叫ぶつもりであったが、フィーが世界を滅ぼせる竜の加護がある子供であるなどと、大勢の前で公言などすべきではない。

 まだ世界を滅ぼせる力を私は取り戻していないのだから、まだだ。


「ミラ?」


「私はフィーだけの竜だ」


「はい!!」


 嬉しそうな返事を私にした少年はすぐに踵を返し、内緒と言う意味を理解していないと私を呆れさせる勢いで集会場の屋根から飛び降りた。

 私は彼の着地に手を――なかなか、猫並みに身軽に育っていたではないか。


 フィーの後を追いかけてダビデもすぐに飛び下りて来たが、今回のダビデはフィーの様子を見返す余裕は全くなかった。

 フィーよりも村を知っている彼は、妹が危機にある場所へと弾丸の如く駆けて行ってしまったのである。

 フィーはそのことには抗議など全くしなかったが、ダビデが少女の元に向かった安心と自分が独りになった事で本来の思慮深さが顔を出した。


「ミラ。どうしてこんな昼間からゴブリンが村を襲ったのだろう?」


「確かにそうだな。奴らは臆病だ。臆病で非力だからこそ集団で襲い掛かり、手当たり次第の暴力を獲物に振るうのだ。それがなぜ、こんな統制が取れた大軍で人の村を襲ったのかな」


 赤レンガの建物へと駆けていく最中、通り過ぎる家屋のガラスに映し出されたフィーの姿が二重となって見えた時に、私はフィーが抱いた疑問の答えが思い浮かんだ。


「召喚術か!!リダル(指揮)ゴブリンを召喚してゴブリン達を巣穴から引き出したのか。フィーよ、今すぐにアバンの元へと戻れ」


「どうしたの?」

 ドオオオオオン。


 私がフィーに答える前に、フィーの疑問に状況こそが応えた。

 どこぞに隠れていたのか、左右の家屋の扉を破って緑色の塊がフィー目掛けて飛び掛かって来たのだ。


 人が飛竜を使役できるように、人は召喚術で魔物を使役できるのだ。


「狙いは最初からお前だった。逃げろ!!フィー」


 ローズブチアは最初から生贄の町だったのだ。

 村と妹の命を人質にされたダビデは、この村にフィーを連れて来る役目だった。

 フィーをこの世から抹消するために。

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