騎士と学校について話そう
騎士学校に行くか行かないか。
フィーは悩むよりは行動する子供であるため、とりあえず資料を請求した。
するとそれに応えるようにして、領地アルトマイゼンにあった冒険者ギルドからフィー宛に仲介のような案内が入ったのである。
商売人はいつの世も目敏いものだ。
「インゲルス王立騎士育成校出身の騎士がこちらに籍を置いています。インゲルス王立騎士育成校について情報をお求めならばご紹介いたしましょうか?」
「どうしよう?ミラ」
「興味があるならば会えば良い。だが館には招くな。会合場所はギルドに用意させろ。もちろん仲介料や席を用意した手数料など請求して来るだろうが、館には見ず知らずの者は気軽に呼ぶな」
「え?今までは?」
「私はフィーを守るために屋敷の敷地にはそれ相応の防御陣を敷いている。今までも悪意のある者は自動的に弾かれていた」
「でも、それならば?」
「冒険者は人外の者が作り上げたダンジョンや結界にこそ乗り込んで来る輩だ。私が作り上げたものは見せたくないし知らせたくない」
「わかった。では僕が出向こう」
「私も一緒だから安心しろ。――なぜ変な顔をする」
「だって、僕に竜なミラが付いていることを知られるよりも、我が家に変な結界があるらしいって知られた方が良いのでは無いの?」
「ハハハ。竜な私がそこにいると覚らせなどしない。いや、気付くかどうかの実験だ。フィーが騎士育成校とやらに入学した際に、私が気付かれて排除される事になっては大変だからな」
「排除、される、の?だったら、騎士育成校になんか進まないよ」
私はフィーの私の存在に依存している台詞にとてもいい気持ちとなり、久しぶりに大きく翼を広げていた。
「ミラ?」
「いい子だからご褒美だ。フィーは私が翼を広げた姿が好きだろう?」
「うん。ミラの翼は虹でできた透明な膜が張っているみたいでキレイで好きだ」
私の翼はさらに輝きを増した事だろう。
賞賛は竜に力を与える。
フィーはギルドの申し出を受ける返事を書いた。
「三日後に町に降りる。その時に場を用意してもらおう」
居丈高な物言いな文面だが、フィーは侯爵なのだからこれで良い。
まだ十三だろうが、私の加護がある人間がちらとでも卑屈になる方が私への侮辱となる。そうであろう?
さてその手紙は執事に預けられ、執事から転送魔法を持っている使用人へ、そこから手紙の宛先へと転送される。馬で三時間程度の町への道のりがエレメンタル魔法の活用によって、フィーの手紙は書いた一時間しないでギルドに届くのだ。
生活環境の向上にエレメンタルを活用する人間に、世界を手に入れんと欲するがために竜と言う世界の理を殺す勇者の姿が皮肉に重なった。
彼等に必要なのは利便性だけであり、神聖や信仰心など不要なのだ。
「ミラ!!見て、こんな返信が届いたよ!!」
私がつらつらくだらないことを考えていた間に、二時間ほども時間が過ぎていたのか。フィーは悪戯めいた表情で私にギルドからの返信を差し出した。
「本日の午後しか時間がありません?これは騎士本人からか?侯爵の予定を覆すとは不遜な騎士だな!!」
私は思わず罵ったが、フィーは意外にも返信には気に入ったようだ。
フィーは了承の返事を返した。
その上、私が行くとも言う前に、私を掴んで自分の胸元に私を貼り付けたのだ。
「不遜だ」
「付いて来てくれるって約束した!!」
竜は純粋なものが大好きだ。
フィーの子供めいた言い方は私を黙らせるには十分だった。悔しいことに。
「お薦めしませんよ、騎士養成学校など」
ギルドの用意した会合場所は、ギルドが冒険者用に開業している宿屋の一室、会議か何かに使用するらしい部屋であった。
そこにフィーは案内されたのだが、案内人となって先導していた男はフィーを椅子に座らせると勝手にフィーの向かいに座った。そして呆気に取られてるフィーに対し、礼儀などこの世に存在しないという風に気安くフィーと自分のカップに茶を注ぎ始めながら会話を始めたのである。
「ええと、礼儀を学ぶ場所じゃないから、ですか?」
「ぷぷ。礼儀という無駄な上下関係を最初に叩きこまれます。あなたは耐えられますか?上級生というだけのどうしようもない奴の足にキスする目に遭いますよ」
却下だな。
私の意思は決定した。
私の加護のある子供をそんな目に遭わすわけにはいかない。
私への侮辱だ。
「ですが、僕は剣は人並み以上になりたいのです。僕にはエレメンタルがありません。上位貴族の誰もが使える魔法が使えません」
「だったら優秀な人間を雇えばいい。あなたをここまで案内して警護してきた騎士はあなたの家の者でしょう?なかなかの手練れだ。ああいった兵士を大事にすれば良いと思いますよ」
赤みがかった茶色の髪に緑色の瞳をした騎士は、王宮や貴族を警護する騎士でなく冒険ギルドの人間のせいか、真っ当な意見に付けた表情は軽薄そのものだ。
「そうですね。今の僕は子供ですから安心して守ってもらっていられます。ですが、成人した後、何の尊敬も抱けない相手を守りたいと思うでしょうか。我が父は、エレメンタルが少ないことで身内にも周りにも笑われていました」
「――貴族は難儀ですね。そして俺は、良き侯爵になりたい、馬鹿にされたくないって、頑張る子供には協力したくなります。もし良かったら、俺と一緒に冒険をしませんか?剣技の上達は、規律ばかりの糞学校に三年も通うよりも、実戦で鍛えた方が早いと思います。それでね、侯爵様。あなたは三年後に、インゲルス王立エレメンタル修士学園の方に進学するべきだと思います」
「エレメンタルを持たない僕がエレメンタル修士学園に?」
ギルドの騎士は、ニヤリと悪巧みの笑顔をフィーに向けた。
「あそこの学校には、より実践的なエレメンタル魔法を編み出す目的で、決闘が許可されているんですよ。適当に強い奴に勝ち星を上げられたなら、あなたがエレメンタル魔法が使えないことで馬鹿にする人間などいなくなるでしょう」
フィーは大人の悪辣さに目を丸くし、次に大きく吹き出した。
子供だからこそ自分がエレメンタル魔導士達に負ける未来よりも、自分が魔導士達を剣で蹴散らす未来を夢見たのだろう。
だが私はギルドの騎士が本当にフィーに差し出したい提案に気付いていた。
彼はギルドに登録しているが、ギルドからの依頼が無ければ仕事のない人間だ。
彼はアルトマイゼン侯爵の騎士に召し抱えられる事を望んでいるのだ。
そうであろう?
「貴族はエレメンタル魔法が使えるからこそエレメンタルが使えない人間の苦労を見やしません。ゴブリンやグール、あるいは人喰い虫が襲ってくる土地だとしても、防御のための柵を作る金さえも援助しない。税金を取るくせに。俺はね、あなたに本当の世界を見て欲しい。そして、糞くだらない貴族に肘鉄を喰らわせられる人物に育ってほしいと望んでいます」
ところがなんと、私が想定したこと以上のことを言い出してきたとは。