過去はいかようにも読み違えられる
アマンダとミーナはフィーの騎士達に会いたいらしい。
わざわざカリンナが「残念な」と形容詞を付けた相手と会いたいとは、とフィーはアマンダ達を不思議に思う。
「あ、そうか」
「どうしたの? フィーニス様」
「カリンナ。学校なんだし、僕に様はいらないよ。それでね、僕は気が付いたんだ。アマンダ先輩とミーナ先輩は、僕らがダビデやアバンを謙遜していると思っているんだよ。だからこそ彼等に興味を持ったんだ。どんな素晴らしい騎士なんだろうって」
カリンナはフィーに対して肩をすくめて見せる。
それから彼女の「残念ね」という素振りを裏付けるように、アマンダとミーナはフィーには解らないことを騒ぎ出す。
「最高な外見なのに残念、そこがいいのだろうが」
「聖女のバートレット騎士だってヘタレですもん。二人きりの旅をしておいて、決して結ばれない二人なんですよ!!凄く素敵な人だったらしいのに、最後まで口説けなかったなんて、ヘタレ、です!!でも、そこがいい!!」
「どういうこと?」
「昨年ね、聖女候補だからって、教会書庫にあった門外不出の古文書を読むことができたの。それで私達が読んじゃったのが、バートレットの手記の一部だったのよ。手記というか旅の記録と報告ね。それで、アマンダ先輩とミーナは、バートレット騎士に恋する乙女になったのよ」
「だって、せつないじゃない。報われない恋よ。バートレットはね、国への旅の報告にね、聖女のことを必ず一筆書いているの。優しい微笑みで病人を癒した、とか、今日も美貌は損なわれていない、とか。だから、バートレット様は聖女に凄い片思いしてたのかなって」
「そう、ミーナの言う通り。騎士バートレットの想いを考えるとせつなくなるだろ。騎士であるという誓いに雁字搦めで聖女に恋を告げられなかったバートレットに、私達こそが恋をしたのだ」
「ヘタレだけど」
「ヘタレだけどな!!」
アマンダ達はワハハと楽しそうに笑い、フィーとカリンナは、ハハハ、と乾いた笑い声をあげる。
アバンもダビデも聖女の部分をフィーにして書きそうだと、二人は思ったのだろう。そして実際を知っている私が種明しをすれば、バートレットは片思いどころか、聖女こそ魔物ではないかと疑い観察していたのだ。
通常では不可能な四肢損傷を治し、無の所から食べ物を生み、または、何も口にしなくても疲れも飢えも見せない女。さぞ気味が悪かったことだろう。
そんな女に己の真意を気付かれぬように、彼は彼女を賞賛するかのごとき一文を必ず報告書に添える。
今まで公文書に私事など書き添えたことの無い男の一文に気付いてくれ、かな。
そんなバートレットの必死な実情など、この夢見る乙女達には言えぬがな。
「それで、アルトマイゼンよ。そなたの騎士を我々に紹介、いいや、今度の週末に町に出よう。こちらは私とカリンナとミーナ、そしてそちらはそなたとそなたの騎士達で。丁度人数が合うだろう」
「町へ、ですか?」
「ああ。今後講義で必要となるものを見立ててやろう」
「あの、講義で必要となるものは事前に全て用意していますけど」
「ふふ。先達だけが知っている、必要なアイテムがあるのだぞ」
アマンダの悪辣そうな含み笑いの声に、周囲で耳を澄ませていたらしい新入生たちが一斉にざわつく。
それだけでない。
アッシュブラウンの髪色の少年が意を決したように立ち上がり、なんとフィーの方へと歩いてきたのだ。その彼の様子を周囲の新入生達は固唾を飲んで見守る。
「あの、一年のフィッツベル・ラークスと申します。アマンダ様、それから、アルトマイゼン様。ご一緒させていただいても?」
「もちろんだよ。有用な情報だ。みんなで聞こう。それからラークス。同期である僕に様はいらないよ。フィーニスで構わない」
「では、僕のこともフィッツベルと」
「よろしく。フィッツベル」
「よろしくお願いします」
フィッツベルは声を上げると、ちゃっかりとフィーの隣に座る。
そんなフイッツベルの行動を皮切りに、次々と新入生達がフィーに声をかけてフィーを囲むようにして集まってくる。そしていつの間にか、先輩達の向かいに一人で座っていたフィーが新入生達に囲まれている、という情景となった。
私はカリンナとミーナには感謝だ。
二人はフィーと同期生達の関係を見て、打ち解け合っているようだがセルジュの存在で何時でもどうかなると考えたのだろう。そこでフィーをわざと同期生達から引き剥がし、二人の行為を咎めるであろうアマンダを召喚したのだ。
学園内で人気のある王女の庇護にあるならば、セルジュ王子の影響を気にする必要など無くなる。また王女から今後の学園生活のためになる情報を教えてもらえるならば、王女と王子のどちらにつくかは自明だ。
そこで私は気が付いた。
回復系魔法に特化しているカリンナだけでなく、風魔法のみのミーナまでもが聖女候補生となったのは、将来的に二人はアマンダの側近に選出される予定なのではないのか、と。
だがわからないのは、どうして聖女を今さら生み出そうというのか。
私はまだ復活などしておらぬのに。