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学食は生徒みんなが集まる所

 フィーは午前中の授業を思い返し、一応は同期生と馴染めたのだからと自分を納得させる。

 彼が周囲に視線を動かせば、同期生達はそれぞれ固まって和気藹々と食事をしているようだ。彼らは授業が終わる頃には、授業初めの時の様なあからさまな視線外しをするどころか、彼等からフィーに話しかけて来たぐらいだ。


 それなのにフィーが彼等の輪に入っていないのには、訳がある。


 フィーは同席者に視線を戻すと、ふう、と軽く溜息を吐く。

 彼は授業が終わるやカリンナとミーナに捕まり、そのまま彼女達によって食堂に連れこまれているという状況なのだ。


「聖騎士っぽい鎧は作りたいよね」

「それこそね、私の土魔法でフィーを変身させる感じで」

「ダメダメ。あなたのそれじゃ土人形ゴーレムになっちゃう」


「先輩方? 本気で魔法研究発表会で僕を実験体にするおつもりで?」


 向いに座り、熱心に話し込んでいる二人にフィーは尋ねた。

 カリンナとミーナは双子みたいに同じ動作で、顔を上げてニカッと笑う。


「お姉さんたちに任せなさい。魔法研究発表会はね、一回でも参加して教授陣から単位を取らなきゃ卒業できない大事なイベントなんだから」

「そうそうそう。個人参加も団体参加も認められているってことはね、提出発表したレポートへの評価は参加した研究メンバー全員が得られるのよ」


「あ、じゃあ」


「そう。一緒に研究しましょう。題はね、」

「無能力者を媒体にした魔法威力の増幅と運用。却下だ」


 カリンナとミーナ、そしてフィーは、たった今命令口調で言い切った人物へと顔を向ける。

 カリンナ達の後ろで偉そうに腕組みをして立つ女性だが、黒髪に緑の瞳の長身の美女と言えば、この国の第三王女でありこの学園の生徒会長だ。


 フィーは慌てて席を立ち、目の前のアマンダ殿下へと臣下の礼を取る。臣下の礼と言っても、それ程仰々しいものでは無い。左手を胸にあて右腕は軽く開き、それから足元を少し引いてほんの少しだけ頭の位置を下げただけだ。

 姿勢だってすぐに戻し、いまや普通に立っている。


 しかしその程度の軽い礼だと本人が思っていても、フィーの様を実際に目にした者には軽いものだと思わなかったようである。


「うそ。素敵」

「アルトマイゼン様は何をやっても絵になるのね」

「あんなふうにしてダンスを誘われたら」


 フィー達を盗み見していた周囲の女子学生達は、夢見がちに呟きやら溜息を吐き、礼を捧げられた当人であるアマンダは、頬を赤らめ照れた様に顔を歪める。


「おいおい。お主は我が弟についてはそんなかしこまっていないと聞くぞ」


「殿下にも最初はこのようでしたよ、僕は」


「確かに。あれはちょっと敬意を持ち続けるには辛い所があるな。だが私こそそうだ。あれと同じように打ち解けてくれたらうれしい」


「かしこまりました。それでぶしつけに質問をさせていただきますが」


「全部言わんでもわかっているよ。カリンナ達にダメ出しをしたことだろ?」


 アマンダはフィーの近くまで歩いてくると、フィーに顔を寄せて声を潜める。


「有用だと軍部に思われてみろ。きっと媒体になれる人間狩りが始まるぞ」

「穿ち過ぎでは?」

「この学園の成り立ちぐらい知っているだろ? 私達は子供だ。子供は大人の思惑を外して楽しむべきなんだ。そうではないか?」

「そうですね」


 アマンダは、そうだろう、と声をあげ、胸を張る。

 それから周囲の耳を澄ましている者達に聞こえるように、フィーに伝えたこととは違う冗談めいた理由を口にした。


「生徒会役員でもある二年生が、自分の成績の為に人気者の一年生を独占しようとするなんて、生徒会長として許せるものではないだろう? 最初から却下と言わねばならん」


「では、僕は一人でも単位が取れるように悩まねばならないですね」


「魔法研究会は一年近く先だぞ。これは学んだ事の集大成として学生に求められている発表会なんだ。そして、この学園に在学している間に一度でも評価を得れば良いからと、一年時は様子見にして二年時に参加する者が多い。ここにいるカリンナとミーナのようにな」


 フィーが二人を見れば、二人は分かりやすく目を逸らす。


「昨年は発表会に参加しなかったのですか?」


「昨年はねえ~」

「そう、昨年は色々あったんだよねえ~」


 仲の良い二人が似た様に歪めた顔を合わせ、昨年のことを頷き合う。

 フィーは一体何がと興味を引かれ、カリンナ達ではなくアマンダに視線を戻す。

 するとアマンダは頬を染め、聖女だ、と言った。


「聖女、ですか?」


「ああ。昨年は聖女選定会が行われてな、この学園の女生徒こそ何人も教会に連れていかれて授業どころじゃなかったんだよ」


「カリンナさんもミーナさんも、その候補生に?」


「言ってやるな。敗者途中退場で、そのために遅れた授業を取り戻すことで昨年が終わった二人だからな」


「全部言ってるじゃないですか! 先輩は酷い!!」

「聖女になったら騎士様と付き合えるって聞いていたから頑張ったのに~」


「そんなに騎士がいいなら、近衛騎士ぐらいいくらでも紹介してやるぞ」


「本当ですか!」


「カリンナもか?」


「いえ。私は残念な騎士をよく知っているので、騎士はいいです」


「ハハハ。なんだその残念な騎士って。君の兄のことか?」


「たぶん、カリンナが言っている残念は、僕のもう一人の騎士のアバンの方だと思います。素晴らしい体つきで僕もそうなりたいって言ったら、これは単なる見せ筋だから不要と言い切る残念さです」


「うそ。アバン様もそんな感じだったの? 残念なのは兄だけだと思ってたわ。あら、聖女になってせめて兄だけでも引き取ってあげようと思ったんだけど、あんまり意味が無かったみたいね」


「カリンナ、ひどい!!」


 フィーは吹き出して笑い出す。

 だが、その笑いは数秒で終わった。


「紹介してくれないか?」

「私も会ってみたいです」

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