カリンナ先輩には計画あり
第二王子セルジュの取り巻き、ショーン・イザイアは、クラス担当講師に向けた提案と言う風にしてフィーを攻撃してきた。
「エレメンタルの強さを揃えて班を作るのは如何ですか?エレメンタルに差異がありすぎる人がいると、自由課題で思い切ったテーマを研究課題にする事が出来なくなります」
フィーのエレメンタルが貴族どころか庶民の平均値にも満たないことは、誰もが知っている事実である。
よってイザイアの発言は、フィーを仲間外れにしようぜ、それを同期生達に周知させる目的それ以外の何物でもない。
イザイアの目論見通り、フィーを自分の班に誘う同期生はいなかった。
セルジュ第二王子へのくだらないご機嫌取りめ。
ただし、クラスの同期生誰もがセルジュと彼の取り巻きの様な優越な顔をフィーに向けているわけではない。
申し訳なさそうな顔を見せている子もちらほらいる。
彼等にも事情があるのだ。
王都住まいの貴族の子であれば、親の政治的な事を思えば第二王子派の人間に忖度せねばならないし、実際に魔物や侵略者に対応する地方領主の子であったならば、実力をつけるために思い切った事に挑戦したい。さらに、権力も財産も持たない家の子は、卒業後の進路を考えればどう動くかなどは言わずもがなだ。
つまり家の事情を色々背負っている子供達であるからこそ、同期生達はフィーに対しては罪悪感を抱いた視線を向けながらもフィーを仲間外れする選択を選んだのである。
民は愚かだからこそ指導者が必要。
私は改めて世界支配を心に誓った。
「新入生さん達初めまして。デモンストレーション部隊に選抜された、二年のカリンナ・カランガルです。エレメンタル魔法はかっては補助魔法でありました。前線で戦う騎士を補助し、騎士の強さを高めたのです!!」
現状を打開する声が愚衆へと向けられた。
ダビデの妹のカリンナであった。
彼女はダビデと同じ鮮やかな赤色の髪で炎属性のように見えるが、実際は土の属性の方が強いのか、大地のパワーを引き出しての回復系魔法や防御魔法に特化している。
ダビデのように剣に炎を纏わせる事など出来ないはずだと見つめていると、フィーの横に立った彼女は自分が元居た場所を大きな手振りで示した。
「デモンストレーション部隊を一年生の皆様に紹介しますわ。まずは、生徒会副会長様でもある、ロバート・スレインドルク」
カリンナの急な紹介に一瞬面くらった顔をしたが、長身の青年はすぐに優雅に微笑んだ。
明るい薄茶色の髪に新緑色の瞳の彼は整った顔立ちは言うまでもないが、細身だが鍛えられている体躯をしていることで高潔な騎士のイメージである。
「副会長のお隣は、会計のセブンス・ダンドール。そしてその隣が、我が相棒、ミーナ・グリフォス。風のエレメンタル持ちで、私と同じく書記をしてます!!」
灰色の髪をした少し飄々とした雰囲気の青年は挨拶と言う風に両手を合わせ、すると彼の周囲にミルククラウンのようにして土が盛り上がってから消えた。
そしてカリンナに相棒と名指しされた少女は、自分も、と言う風に己のエレメンタルである風を自分の周囲に巻き起こした。
ミーナは金色の髪は、彼女の風魔法にて風に舞いキラキラ輝く。
先二人の上級生男子に新入生女子が溜息を吐いたようにして、新入生男子がミーナに対してほうっと息を吐いた。
「カランガル様? 本日生徒会の方々にして頂くのは」
ようやく講師が声を上げたが、そもそも彼女はフィーを仲間外れにする流れを変えられなかった無能である。簡単にカリンナに黙らせられた。
「さあご覧になって! アルトマイゼン君の協力で、私とミーナの力をわかりやすく、それもとても素晴らしいものに見せる事ができるのよ!!」
フィーはくすりと笑った。
カリンナが自分に何をさせたいと考えているのか、彼は一瞬で理解したのだ。
それは、フィーがアバン達と魔獣狩りに出掛ける時に、アバン達によって施されるエレメンタル補助である。
足元にはアバンによる影防御の魔法陣が回り、剣にはダビデの炎が蛇のように巻きつく。フィーは自分のその姿を見た領民が全て、フィーを教会や絵本で見た天使か英雄に見立てて涙を流して拝みだす、と急に思い出す。
「ちょっと、カリンナ。自分的にはあれはちょっと恥ずかしいんだけど」
「マウントは最初が肝心なの。我慢なさい」
「カリンナ?」
「では新入生君。まずミーナの力をあなたに纏わせますので、そうですね、私が投げたファイヤーボールをあの的にぶつけて貰えますか?」
カリンナは魔法練習用の的の一つを指さした。
演習場であるここにはいくつか的が設置されているが、単なる丸い的だけでなく、魔獣を想定した獣型や、完全なる人型までもある。カリンナがフィーに指した的が人型ではなく単なる円形の的であることに、ダビデと違うカリンナの配慮が見える、とフィーは口元を綻ばせる。
ダビデならば、舐めたらこうするぞ、という脅しの為にわざと人型を指しただろうに、と。
「えっと、で、どういう風にこの子に魔法をかけるの?」
「ミーナ。そうね、回復魔法をかける感じであなたの風のエレメンタルをフィーに注いで欲しいの」
「えっと、私は回復魔法はわかんないだけど?」
「僕がジャンプしたら、僕が紙風船だと思って打ち上げる感じで風を頂けますか?」
「えっと、危なくない?」
「グリフォス先輩。怪我したらカランガル先輩が治してくれるはず、ですよね」
カリンナは、たぶんね、と悪い笑顔を見せる。
フィーは彼女の視線が一瞬だけ動いた事に気が付き、その視線の先に何があるかなど考えるまでもないと、軽く息を吐く。
その通りそこにいるぞ、フィーを絶対守り隊が。
「先輩。詠唱を。合わせて飛びます」