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力を失った破壊竜は無能と罵られる少年侯爵の守護となる  作者: 蔵前
第五章 プリンケブスもフィルストも第一人者の意でプリンス
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インゲルス王立エレメンタル修士学園

 フィーは十五歳となった。

 エレメンタルが少ない事で侯爵には不適格だと思われたくない、と自分を鍛えていた子供は、十五にしてその努力が実っている。


 否、それ以上である。


 絶対に彼から離れない従者二名が異常だからであろうか。


 ダビデは今やギルドの騎士ではなく、アルトマイゼン家に正式に雇われている。

 アバンがフィーに襲い掛かって来た暴漢を切り捨てるという直接的な護衛担当であるならば、ダビデは世情の変化をいち早く捉えてフィーを害するものの排除をする間接的護衛官として、である。


 そしてダビデはアバンのようにフィーから離れたくないからか、自分がフィーから離れずとも情報が自分に集まって来るように諜報部隊を作り上げてしまった。


 その情熱とスキルをもっと早く使っていれば、彼はフィーと出会わずとも大成していたはずである。


 いや、彼の才能の開花は、フィーと出会ったからであるのか。

 ダビデはフィーを常に洗練された姿に仕上げたいからなのか、情報網から衣服の流行こそ押さえ、執事のリーブスとフィーの衣装についての連携も取っている有様なのだ。


 私としてはフィーの衣食住が最高に整えられている事に文句は無いので、ダビデの行動には、馬鹿だな、と思うだけで好きにさせている。


 フィーに対してもっと偏執的な行動をするアバンだっているのだ。


 アバンはフィーを自分の理想の主人に仕立て上げたいのか、フィーの体を鍛える事に関しては細心の注意を払って、払いまくっている。

 よって現在十五歳のフィーであれど、彼に太い筋肉など見当たらない。


 フィーの肉体は絞られており、無駄な贅肉も無く腰回りもすっきりしている。

 だが、腹やふくらはぎどころか、体のどこにも、小山となっている固く筋ばった筋肉など一つも無いのだ。


 私は妖精みたいで良いと思うが、当人であるフィーは納得が出来ない。彼は自分にエレメンタルが無いから剣技を極めたいと望んでいる子供であるのだ。

 また、自分を指導し剣技においては尊敬しかないアバンやダビデの腹こそ、フィーが惚れ惚れするぐらいに引き締まって割れている腹筋があるのだ。


 フィーが憧れる二人のようになりたいと望むのは当たり前だ。

 それなのにアバンは、フィーが太い筋肉を付けることを絶対に許さない。

 一度フィーこそアバンに爆発した事がある。


「どうして!!僕だってもう少し鍛えたい」


「まだ成長期です」


「成長期だから鍛えなきゃだと思う」


「背が伸びなくなっても良いのですか?私達のような筋肉は、体が出来上がってから作れる単なる見せ筋です。どんな足場でも揺るがない足腰に、敵の剣を避けた時にすぐに反撃できる柔軟さと瞬発さを今は鍛えるべきです」


 フィーはアバンの説得に結局しぶしぶと従ったが、私はアバンの言葉によってダビデと彼が見せ筋を作っていた事に引いている。


 奴らは強くなるよりも誰かを魅了するための筋肉を鍛えているのか?


 そんな奴らに対してのがっかり感だ。


 それでも私が彼等を排除どころか好きにさせていたのは、彼等のフィーへのおかしな情熱によってできたフィーの今の姿を、私こそ愛しているからであろう。


「アルトマイゼン侯爵、この、この度は、わが校にご進学あそばされ、され」


 フィーを目の間にしたインゲルス王立エレメンタル修士学園の学園長は、フィーの美しさによって完全に困惑してしまったようである。


 一番星の煌きを持つ青い瞳は、繊細な顔立ちの彼に強い意思があると印象付け、長すぎず短すぎない月の雫の輝きを持つ金色の髪は、彼の美貌を引き立たせる。

 吹き出物一つない滑らかで白い肌は健康的に少々焼けており、ほっそりとした体にすんなりとした長い手足で天使か妖精のようだ。そのために白を基調とした学園の制服が、彼の為に仕立てられたと思うほどに似合っている。


 そんな誰もが視線を奪われるほどに美しい少年であるのに、フィーはどんな身分違いの相手にも気さくそうに優しく微笑むのだ。

 齢六十近い学園長でも魂が抜けたようになってしまうのは無理もない。


「僕の入学をお認めいただきありがとうございます。それで、新入生代表の挨拶についてのご相談という話でしたが、何でしょうか?」


 学園長は殆ど泣きそうな顔となった。

 血の気を失いながらも何故か真っ赤に見える顔は、自分がこれからフィーに伝えねばならない事柄が恥ずかしくて仕方が無いからであろう。


 第二王子の入学が急に決まったので、新入生代表挨拶は第二王子がされます。

 挨拶用に用意されたスピーチ原稿を王子にお譲りいただけませんか?


 恥だな。

 第二王子こそ。


 さて、どうして学園長の言いたいことを私が知っているのかは、この申し出はまずフィーのお付きに対して為されたからだ。

 アバンとダビデがそんな屈辱を素直に受け入れるはずは無く、けれども相手は王族と言う事で、小さな意趣返しを試みたのである。


 さあ、学園長よ、この素晴らしき侯爵にそのふざけた台詞を言ってみろ、と。


 彼らはフィーのことになると結束が固い。

 意趣返し先が発端の王子にではなく、完全に身分が下の学園長に対して、と言う所が陰険で少々権威主義だと残念に思うが。


 そして学園長はフィーが幼くして侯爵になった事実を知っているからこそフィーを誤解していた。彼は十五歳の甘やかされた子供と思い込んだままフィーと対面し、外見の美しさだけでなく内面の清廉さを目の当りにして壊れたのだ。


「あの、あの、あの。あああああ、申し訳ありありませんが、代表挨拶がでしてね、第二王子が、第二王子こそが挨拶するべきだと。ですが、急に思い立ったから、あの、スピーチ原稿も無いという事で」


 そうか、アバン達は学園長にフィーへの罪悪感と敬意を植え付け、今後のフィーの学園生活の平穏のための布石にしたのか。あいつらは挫折を知っている分、先を見越しての行動が上手い。


「ああ。良いですよ。僕は遠慮させてもらいます。ただし、スピーチ原稿は持っていないんですよ。あんなものはその場で考えればいいかなって思ったものですから。申し訳ありません」


「そのはずがないだろう!!貴様は私に恥をかかせたいのか!!」


 学園長室に飛び込んできたのは、フィーのように両脇に従者を従えているインゲルス国の第二王子であった。

 フィーと同じく金髪碧眼で顔立ちも整ってはいるが、第二という余計な文字が彼に付いているせいか、一級品のフィーに対して二級品の存在にしか見えない。


 これはだからこそのフィーへの嫌がらせと、自分こそ上の人間だというマウンティングなのだろう。


 人間は本当に虚栄心ばかりが大きく育つものだな。

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