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カリンナとダビデの事情

 カリンナは通信魔法を使えた。

 そこでフィーは自分が与えられた小部屋にカリンナを呼び出すと、侯爵家と交信してもらえるように頼んだのである。

 リーブスが戻らないフィーに対して勝手に捜索隊を差し向ける事が確かだからこそ、事前に無事とローズブチアに必要な援助物資の手配も伝えるべきだからだ。


「何でもします。いくらでも呼んでください」


「いえ、そんな風に言うのは危険では無いですか?」


「あなたは危険では無いです。私の一つ下なのに、私よりもずっと大人です。でも、私が子供でいられたのは兄のお陰だって母がずっと言ってましたから、お一人のあなたはさぞつらい思いもなさったのでしょうね」


 フィーは小部屋には自分とカリンナだけでなく、影として常に控えているアバンがいる事をカリンナに思い出して貰った方が良いのかと思った。アバンがフィーに対してかなりの庇護心を抱いているのを身に染みて知っているからこそ、アバンの前でフィーが辛い人生であるとカリンナに言って欲しく無いのだ。


「あの」

「兄は、常に私と母の為に人生をすりつぶしてきました」


「家族はそういうものでしょう?」


「いいえ。兄はカランガル子爵家の血など引いておりません。カランガル子爵の尻拭いなどする必要のない人間です」


 フィーは理解した。

 カリンナはダビデとアバンの諍いを見ていたからこそ、兄の不幸をフィーとアバンに知ってもらおうとしているのだ、と。


 私はダビデがフィーの盾にも剣にもなりそうな男なので使えるだけ使う所存であり、奴の過去などどうでもよいどころかフィーが同情して使い捨てられなくなったら困る。よって先など聞きたくはない。


 だが、フィーは私に純粋であれと育てられたため、純粋だった。

 理解したからこそカリンナに先を促す言葉を返したのである。


「そう言えば君は、責任を負うべきはもう一人いる兄だ、と言ったね」


「はい。現カランガル子爵であるベネディクトです。私は彼の腹違いの妹になります。私の母はダビデの父が亡くなって未亡人になると、当時十歳の兄を寄宿舎に押し込んで、カランガル子爵の後妻に入って私を生みました。」


「ダビデは君と一緒に育っていない?」


「はい。だから、私と母の面倒を見るべきはベネディクトであるべきです。でも、でも兄は、ダビデは、父亡きあとの私達が子爵家から追い出されたと知ると、ギルドの騎士になって私達にお金を送ってくれました。騎士見習いではそんなお金は作れないから、王立騎士団に入る夢も上級貴族の騎士になる道も捨てたのです。主席だったのに」


 騎士育成校は十四歳で入学して十六歳に卒業するが、そこは基本だけを学ぶところであるので、本当の騎士になるためには見習いとして騎士団に入団する必要がある。ダビデはケトゥールの背の上でフィーに騎士になるまでを教えてくれていたのだ。


 だからあそこは貴族の子弟の行儀見習い程度の場所なんだよ、と。


「あそこを卒業しても本物の騎士には軽く見られるだけだ、そうだろう、アバン」


 アバンはその時ダビデに反発していたはずが、そのとおり、と迎合したとフィーは思い出す。


「そっか。ダビデが僕に騎士育成校に行くなと言うのは彼の経験があってのことなんだね。彼はね、王立騎士団に入団したいならば止めないが、エレメンタルが少ない事をカバーするための選択ならば無意味としかならないぞ、と言ってたの。きっと育成校を卒業したばかりの十六歳の彼は、とっても苦労したんだね」


「ええ。苦労したの。俺は勇者になりたいからいいんだって笑ってたけど、それも、私達という柵で思い切った事が出来なかったから、だから」


「だからインゲルス王立エレメンタル修士学園に行けって僕に言うのか。あそこの方が実践的?君は知っている?」


「ええと、私は来年進学予定なの。貴族の学校に通うお金が無くても、あそこならば試験結果で免除も受けられるし、それに、学生である間は私に変な婚約があっても嫁がなくても良いでしょう?」


「ついでに、僕という侯爵と親交があれば、ヘタな婚約話など持って来れないか。ダビデは本気で君のことしか考えていないんだね」


「――ごめんなさい」


「謝る必要無いよ。僕を君と同じ学校に通わせたい、それって、ダビデは本気で僕を守り切るつもりだったってことでしょう。僕が死んでいたら、君はええと、生き残った場合はクズィーネン男爵?につつがなく嫁がせられる、のか。それはダビデが一番避けたい事かな?」


「そ、そうね。そうだわ。あなたが死んでしまったら私は不幸になるばっかり。そうよ、兄はあなたを死なせる気は絶対になかった」


「そうだと思う。騎士学校の話を聞きたいだけの僕なのに、もの凄い勢いで薦めて来たからね、エレメンタル修士学園を。あそこで決闘すれば箔が付くぞって。侯爵に本気で挑む貴族の子弟はいないのにね」


「兄さん、たら。でも、あなたが同じ学校に通ってくれるのは嬉しいわ。ええ、そうよ、兄さんはあなたを絶対に守り切るつもりだった」


 カリンナはぱああと晴れ渡った顔つきになると、両目に溜まった涙を袖で乱暴な仕草で拭い取った。それから彼女は、薄汚れているが何もない壁に手を翳す。


「ごめんなさい。無駄話ばっかり!!私にはやることがあったわね!!」


 壁にぼんやりとした丸い光が輝いた。フィーは輪の中を何だろうと覗き込んでいると、数十秒後にぼんやりとした輪の中にハッキリとした映像が浮かんだ。


「あ、僕の執務室!!執務室の机の上にあるガラスが嵌った丸いあれって、交信用の魔具だったのか。そうか」


 丸い輪の中に顔を映しているリーブスの背景が、フィーが良く知っている自分の執務室の風景なのである。

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