(六)クリスマスの夢の世界
その夜、僕は夕食を終えると、早々に寝る支度をととのえた。
しかし、シャーキスにパジャマではダメだといわれた。
「夢を取るにはもっと動きやすい格好でなければいけないのです、ぷうッ!」
そこで僕は、森で野草摘みや木の実拾いをするときに着る服に着替えた。靴も歩きやすい革の短靴にはきかえた。
どうにも眠りにくい格好な気がするけど、だいじょうぶかな。短靴の裏はきれいに掃除したつもりだけど、シーツは汚れないだろうかと心配になる。
「よし、支度できたよ。これでいいかな?」
「るっぷりい! あとはぐっすり眠って夢の世界へ出発するだけなのです! さあ、参りましょう!」
僕はベッドに寝転んで、おかみさんに貸りた銀の虫取り網をしっかり胸に抱きしめ、目を閉じたのだ。
目を開けたら、そこは広い広い野原だった。
僕の顔の前にシャーキスがフワフワ浮いている。
「やあ、シャーキス」
「るっぷりい! ご主人さま、ようこそいらっしゃいました。ここがクリスマスの夢の世界ですよ。ぷうっ!」
「クリスマスらしいものは何も見当たらないようだけど?」
僕はキョロキョロした。草が青々としている野原は、冬ではなく、春か初夏を思わせた。
「ここはクリスマスの夢の世界の入り口なのです! るっぷ、ご主人さま、道を歩くときはくれぐれも気をつけてください。あ、ほら、そこですッ!」
シャーキスが左手でサッと示した方向を見やると、そこには小さな家ほどもある闇色の霧のようなものが漂っていた。
「なんだい、あれは?」
気味が悪い。
まあ、僕からはじゅうぶん離れているし、あの場所から動かないみたいだ。僕が近づかなければいいわけだ。
「あれは暗い夢なのです。間違えて踏み込んだら、暗い方向に引っ張られて、暗くて怖い夢の世界へ落ちてしまうのです。そこは闇の領域に繋がっていて、とても危険なのです、るっぷりいッ!」
「闇の領域って、何があるんだい?」
「怖~いお化けや怪物がいて、眠っている人間の魂を、暗い魔界へ引きずり込もうと狙っているのですよ、ぷいッ!」
広い広い野原の真ん中に、まっすぐな道がある。
道の左右には色とりどりの花が咲き乱れている。
ピンクの小さな薔薇、濃い緑のクローバー、白い花の頭を垂れてるまつゆき草。クリスマスローズは淡い白と桃色に薄い黄色の花を咲かせ、ところどころに真っ赤なポインセチアがのぞいている。
「冬の季節なのに、雪はないんだね」
「るっぷりい! だってご主人さまのクリスマスの夢は寒くありません。あ、ほら、そんなことを言うから、雪が降ってきましたよ!」
空は相変わらず明るいのに、ちらほらと粉雪が降ってきた。
「なんだ、やっぱり雪は降るんじゃないか」
「るっぷりい! とってもきれいな雪ですよ。ご主人さまは雪がお好きなのですね」
シャーキスは僕の頭上をくるくる飛びまわった。
「うん、雪の結晶はすてきな形だからね」
僕が答えたとたん、空から僕の手の平ほどもある巨大な雪の結晶がひらひらと落ちてきた。僕は慌ててそれを捕まえた。
それだってただの雪だ。手でつかんだら、手の熱でたちまち溶ける。
でも、道に落ちた雪の結晶はまったく溶けず、だんだん積もっていくようだ。
「るっぷーい、急がないと雪がつもっちゃいますよ。早くクリスマスの夢を探さなくちゃ!」
シャーキスが道の先を飛んでいく。
僕は駆け出した。シャーキスが「急いで、急いで!」と、せかすので、僕はずんずん野原の道を進んだ。
「シャーキス」
「なんでしょう、ご主人さま?」
「こんな広い野原のどこに、クリスマスの夢があるんだい?」
「るっぷりい! ここはクリスマスの夢の中ではありませんか。ご主人さまが見ないだけ! どうして見ないのか不思議なのです、ぷいッ!」
「そんなこと言ったって、ここは広い野原じゃないか。クリスマスの夢って、どんな形をしているんだい?」
「るっぷりい! もちろん、ボクは知りません! それはここでご主人さまが見つけなくては見つからないのです、ぷいッ!」
シャーキスの言い方はなんだか屁理屈みたいに聞こえるが、僕はなんとなくわかった気がした。
僕はクリスマスの夢を探しに来た。
それはシャーキスが見つけるものではなく、僕が見つけるものなんだ。それを見つけられたら、きっと、その答えもわかる気がする。