(四)クリスマスの夢
「るっーぷ! なーんだ、そんなことですか。クリスマスの夢なら、夢の世界にたくさん存在していますよ?」
シャーキスは僕の目の前でクルっと回転して、「ぷーいっ!」と、バンザイした。
「そうなのかい? たとえばどんな夢があるの?」
シャーキスのいうクリスマスの夢はオモチャ作りのヒントになるだろうか。
「もちろん、クリスマスの夢の世界です! クリスマスクッキーの子どもたちと遊んだり、空飛ぶトナカイの牧場では子どものトナカイとも遊べます! クリスマスツリーは永遠に枯れることがない樫の木ですし、その星飾りには本物の星が輝いているのです。森の中には一年中クリスマスのお祝いをしているお菓子の家があるのです! 管理人の魔女さんに頼んで、クリスマスのお菓子をたくさんもらってきましょう!」
シャーキスはボクの右手を両手でつかんで、ぐいぐい引っ張った。
「わあ、やめろって。だめなんだよ、そんな見るだけの夢じゃ!」
「どうしてですか? 夢の世界はみーんな、本物ですよ。ご主人さまの夢はただ目で見ているだけの、ニセモノの夢があるのですか?」
僕とシャーキスがドタバタやりとりしているのを、親方とおかみさんは微笑んでみまもっている。
親方はおかみさんにココアのおかわりをたのんでいる。
「そんなぼやけた夢のお話じゃだめなんだよ。新しいオモチャを作るにはもっと具体的なアイデアでないと」
でないと魔法玩具どころか、ふつうのオモチャにさえ形作れない。
僕は飲み終えたココアのカップを台所の流しへ置いてきた。それから自分の部屋から取ってきたえんぴつとスケッチブックを持って、また暖炉前の椅子に座った。
シャーキスは僕の頭の上に、ポスンとお尻をのっけた。
「るっぷりいッ! ご主人さま、こんどは何を作るんですか?」
「最高のクリスマスの夢を魔法のオモチャに作りたいんだけど、難しくてね」
「るっぷ! それはすばらしいことですッ!」
シャーキスは飛び上がり、僕の頭上で上下にグルングルグル、大回転した。
「そんなの簡単です! 夢の世界から本物のクリスマスの夢を取ってくれば良いのですよ、るっぷりいッ!」
シャーキスは天井近くをブーン、ブーンと飛び回った。
「シャーキス、夢は見るだけの幻だから夢なんだよ」
クリスマスの夢を形にすると、いったいどんな形になるのだろう。
僕はさっきからえんぴつの先をスケッチブックに当て、何を描こうか迷っている。
アイデアは何も浮かばない。
「るっぷりい! なにをおっしゃいますか、ご主人さま? ボクは夢の世界からやってきたぬいぐるみ妖精なのです!」
そういえば、そんなことも聞いたかな。
「でもシャーキスは僕が作ったから、夢の世界には住んでいないだろ?」
僕はただ現実を告げたつもりだった。
「るっぷ! そんなの関係ありません。夢の世界はぬいぐるみ妖精のふるさとなのですからね。ぷいッ!」
「そう言われても、普通の人間は夢の世界に行けないんだよ。そもそも夢って手で触ったり、捕まえたりできるものじゃないだろう。クリスマスの夢なんて、どうやって捕まえるんだい?」
僕なんてアイデア一つ捕まえられず、こんなに苦労しているのに!
「るっぷ! もちろん専用の虫取り網で、えいやっ! と、捕まえるのです!」
「ええ? 夢って、蝶々やトンボみたいな虫なのかい?」
シャーキスの話を聞いているうちに、僕の想像は『夢』のイメージからどんどん遠のいてしまい、いまや頭の中では蝶々やトンボが飛び回る野原の景色を眺めていた。
ダメだ、魔法玩具の形をぜんぜん思いつかない。
シャーキスはいちど僕の頭ではずんでから天井近くへ飛び上がり、またもやブンブン飛び回った。
「るっぷりい! すてきな夢とは、光の蝶々の姿をしているのです。とくにクリスマスの夢は虹色にかがやく蝶々なのです。そうしてみんなでクリスマスの夢の世界を飛び回っているのです、ぷいっ!」
それだけ言うと、シャーキスは台所のおかみさんを手伝うために飛んでいった。
シャーキスのやつ、やけに具体的に言ってたな……。
僕は親方の方へ顔を向けた。
「ほんとうですか、親方?」
「なんでわしに聞くんだ?」
親方はろこつに顔をしかめて見せた。
「だって、親方は魔法使いでしょ?」
「いやはや、ニザくん。尊敬してくれるのはありがたいんだがね」
親方はコホンと咳払いした。
「魔法玩具師はたしかに魔法使いの端っこにいる職業だ。しかし、厳密には魔法使いとは違う。魔法の力とは、じつにいろんなものがあってな。ひとくくりにはできないんだよ。たとえば人間以外の何かに化けたり、ふつうの人間じゃできないことを魔法でホイホイやってしまうような、おとぎ話の中のとんでもないやつらといっしょにされちゃ困る。魔法玩具師は堅実な手仕事の職人だからね」
それはニザだって知っている。
もしも、魔法でカボチャを馬車にしたり、ガラスの靴を作れたら。またたくまに宝物倉に宝物があふれる巨大なお城を建て、自分を王様にする国まで創造できるなら。
魔法を帯びた材料でいちいち手作業する技術など、この世には必要がなくなってしまうだろう。