(三)魔法玩具はむずかしい
その夜、僕と親方は、夕食の後片付けがすんでから、魔法玩具工房にある魔法玩具に使う特別な材料の在庫を改めて調べた。
「おや、ちょっと在庫が少ないかな」
魔法の色水晶やフェニックスの尾羽。ペガサスの尻尾の毛に、海ドゥドゥ鳥の卵の殻。流れ星の光の玉や月光石、碧い樫材など、魔法を帯びた特別な材料が、あと一つ二つずつしか残っていない。
「今年はいろんな作品を作りましたしね」
「はは、そうだな、たくさんのいい仕事ができたなあ」
親方は笑ったが、僕はちょっぴり不安があった。作る魔法玩具の性質によっては、同じ素材がいくつも必要だ。もしも足りなかったら、どうしょう……?
「まあ、だいじょうぶだろう。ここにある物はぜんぶ使い切ってかまわんからな」
これらの魔法を帯びた素材を、親方はとても遠い国にいる知人に頼んで調達してもらっている。これから発注すると、品物が納品されるのは、早くても新年が明けて、一、二ヶ月過ぎてからになるということだ。
そうだ、まだ形に作るどころか、考えがまとまってさえいないのに、悩むなんて僕はバカだ。この材料を頭に置いて、作れる物を考えれば良いだけのことなんだ。
僕らは居間に移動した。
暖炉の近くに椅子を並べ、おかみさんがいれてくれた熱いココアを飲みながら、今日受けた魔法玩具の注文について相談した。
「どうだい、ニザ。あのお客様が喜んでくれそうな、新しいアイデアはあるかね?」
親方はこの仕事のメインを、僕に任せてくれた。ちかごろの僕は新しい魔法玩具のアイデアを次々と出しているからだ。自分でも調子に乗っていると思うほど、順調にやっている。
だけど……。今は、考えようとすればするほど、考えが止まってしまったみたいだ。
「これから考えて設計図に起こして、材料をそろえて始めるには……考えられる時間は今日だけですね」
親方は最近よく「ニザはもう一人前だな」と言ってくれる。
一人前になった職人は独立して自分の工房を持つけれど、僕はまだ自分だけの工房の親方になるなんて、とても考えられなかった。
こんなふうに仕事の依頼を受けて困ったとき、一人ぼっちで考え続けるなんて、不安でたまらなくなるからだ。
ブーンと風を切って、ピンク色のクマのぬいぐるみが台所から飛んできた。
「るっぷーい、何を悩んでいるのですかご主人さま! さっそく魔法のオモチャを作りましょうッ!」
ぬいぐるみ妖精のシャーキスだ。僕が初めて自分で型紙から起こして作ったオリジナルのテディベア。それに魔法の生命が宿り、ぬいぐるみ妖精になっちゃったのである。
シャーキスは僕の頭の上に浮かび、クルクル回転しながら「ぷーい、るっぷりーいッ!」と、陽気にはしゃいでいる。
「落ち着けよシャーキス。難しい注文だから一所懸命に考えているんだよ」
「るっぷ! ご主人さまはすごい魔法玩具師なのに、なにが難しいのですか?」
「『最高のクリスマスの夢のような魔法玩具』というのが、お客様のご注文だからね」
与えられた題材は、抽象的すぎる。
クリスマスの贈り物は、ことにオモチャには定番とされる物がいろいろとあるけれど、そのどれにも当てはめようがない。
『最高のクリスマスの夢』とは、いったいどんな物だろう?