(二)最高の贈り物とは
わざわざ魔法玩具師に依頼をしに来たという点を差し引いても、お客様からの依頼はとても風変わりだった。
「ええと、つまりね、子どもたちに最高にすてきなクリスマスの夢を見せてあげられるような、すごい魔法玩具を作って欲しいんだ」
お客様は去年まで仕事が忙しく、クリスマスも新年もそっちのけで世界中を飛び回っていたそうだ。
とくにクリスマスの時期は家に帰れないことも毎年で、家族には寂しい思いをさせたという。
だが、今年のクリスマスはしっかり休暇が取れた。
だから、何年も一緒に過ごせなかったクリスマスの埋め合わせになるような『最高のプレゼント』を家族へ贈りたい。
この世でいちばんすばらしいクリスマスの夢を顕した贈り物が欲しい。
そんなことを考えていたら、たまたま仕事先で知り合ったニコラオさんから、この魔法玩具工房のことを聞いた。
ここで作られるのは、世界でただ一つの魔法のオモチャだと。
「事情はよくわかったが、クリスマスはほんの三週間先だ。魔法玩具の制作は時間と手間がかかるものでね。ゼロから新しいものを作るには、いくらなんでも制作期間が短かすぎるんだよ」
親方は穏やかに断ろうとした。
「だから、今年はもう、クリスマスプレゼント用の注文は受けられないんだ」
「そこをなんとかお願いしたい! お金はかかってもかまわないから、頼む、この通りだ。魔法のオモチャなんて、他の店では買えないんだから」
お客様は必死で親方に頼んでいる。
見ていた僕は少し気の毒になってきた。
その一方で、僕はそのお客様に対して冷静に、こんなことを考えていた。
魔法のオモチャよりなによりも、今年はちゃんと休暇が取れたのだ。いまは外出するより家に居る方がいいのではありませんか?
そして来年からは、クリスマスは必ず家族で過ごせるように、きちんと仕事の都合をつけられたらいいのではありませんか?
それこそが、お客様が求めている最高のクリスマスの贈り物になるのではないか。寂しくさせた家族へ、あなたから贈れる最高の贈り物になるのではありませんか?……って。
でも、こんなこと、お客様にいうべきではないし、なにより働き盛りの男が僕のような子どもに言われたくはないだろう。
午後過ぎに始まったお客様との話が終わる頃、外は真っ暗になっていた。
お客様の家はこの町から汽車で三時間ほどの別の街にあるそうだ。今夜はこの町の小さな宿屋に泊まるという。
魔法玩具の引き渡しはクリスマスイブの正午の約束になった。お客様がここへ取りに来られる予定だ。
お客様が町角を曲がり、僕らの視界から消えたところで、親方は表玄関のドアを閉めて施錠した。
そのときだ。
上から白い物が、ひらっ、と落ちてきた!
「む、なんじゃ!?」
親方の方が僕より背が高いので、僕より早くその白いものを掴み取った。
白い封筒だった。
普通の封筒よりひとまわり大きく、縁に銀色の雪模様が描かれている。差出人の名前はなくて、宛先の住所もない。宛名だけが、金のインクで書かれていた。
「ほう、ニコラオから、わし宛てだよ」
親方は封筒を開け、便箋をひっぱり出した。
「ふむ。……あの客に、わしとニザで特別な魔法玩具を作ってやって欲しいそうだ。魔法玩具にするための魔法の材料は、どんなに高価で稀少なものを使ってもかまわない。支払いはすべてニコラオが持つそうだよ」