(一)冬の休暇とクリスマスの準備
「これで最後です、親方」
僕はていねいに研いで、錆ないように油をひいた道具を、道具箱へかたづけた。
「よし、今年の仕事もこれで終わりだ。工房の片付けもすんだし、休暇にするか!」
親方の魔法玩具工房では、毎年の冬の休暇は一二月に入った一週間目からはじまる。けれど今年は去年より一日早い、明日からの休暇になった。
職人は頑固な人が多いと聞くけど、うちの親方は、こういうところは考え方がとても柔軟だと思う。
「よーし、ニザくん。さっそくクリスマスの準備にかかるぞ」
「はい、ツリーの切り出しですね!」
僕は木を切るための斧を取りに、裏庭にある薪小屋へ走った。
クリスマスの準備は、まず初めにクリスマスツリー用の手頃な大きさの木を用意しなければならない。
町の森を管理する木こりに頼んで買うこともできるけれど、親方は家の裏庭からつづく地所に小さな森を持っている。そこへ自分たちでツリー用の木を切りに行くのだ。
森は豊かな恵みに満ちている。
春は木イチゴが実り、夏にはさまざまな美しい花が咲き乱れる。
秋にはたくさんの野生リンゴや木の実が収穫でき、湿り気の多い水場の近くには食べられるキノコが生えている朽ちた倒木もある。
僕は森へ行くたび、ついでにツリーに向きそうな木を探した。
ツリーになりそうな木は、秋に栗の実を拾っている時に見つけておいた。僕の身長より少し高くて、幹の太さは、僕の両手でちょうど掴みやすい太さの樅の木だ。
親方と僕は、暖かなコートと手袋を身に付けた。
今日は雪が降っていない。急いで行けば日が落ちるまでに帰ってこられるだろう。
僕と親方は裏庭の納戸から、切った木を載せて運ぶためのソリを引っ張り出した。僕はソリの上に重い斧を置いて、落ちないようにロープでしっかりくくりつけた。
そのまま引っ張って森へ向かおうとしたら、おかみさんの呼ぶ声が聞こえた。
「親方、ニザさん! 表玄関からお客様がいらしたわ。クリスマスプレゼントにとびっきりの魔法玩具が欲しいとおっしゃるの」
この家には玄関がふたつある。
ひとつは魔法玩具工房の表玄関で、作ったオモチャを並べて売る店にやって来るお客様用。もうひとつは表玄関から少し離れた小道を入った家の横側にある、家族専用の玄関だ。
「魔法玩具はすべて特別注文で時間がかかると説明したのだけど、どうしてもとおっしゃって、お帰りにならないのよ」
魔法玩具は、職人が腕試しに作る作品以外は、ほとんどが特別注文の一点物。
普通のオモチャや雑貨を売る表の店はクリスマス直前まで開けているが、それはたまに町のお店が全部閉まったクリスマスイブの前日などに、プレゼントを探して駆け込んでくるうっかり屋さんのためである。
ただし、うちの店の陳列棚に並べてあるのは普通のオモチャだけ。魔法玩具は置いていない。
そのお客さまは、うちの顧客からの紹介でいらしたそうだ。親方の古い親友で毎年大量の魔法玩具を買ってくれる、いちばんの上得意でもある。
「しかたない、森へ行くのは明日にしよう」
親方がそう言ったので、僕はソリを元通りに納戸へかたづけた。