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第3話 行くらしい

 世の中とはままならないもので、せっかく作った美少女クローンが男だった。いやまあ、確かにDNA鑑定でも人間と判定されてるけど、見た目は完全に女の子じゃん。あれ違うかな?……いや、やっぱどこからどう見ても可愛い女の子だよ。

 なのになんで男が産まれちゃったんだ?

 

 俺は思わず頭を抱えてしまった。

 このショックを誰かに聞いて貰おうと思ったのだが、生憎と他の連中は、クローンの複製と教育だかで忙しい。

 クローンにオリジナルの記憶は無い。だからこちら側の知識を刷り込んでいく必要があるのだ。

 まあ、それはそれとして、まずはこの目の前のやたら可愛い美少女風美少年クローンについて考えなくてはならない。

 

 船長曰く、希望は叶えてやったんだから面倒を見ろ、との事。

 

 あんな約束するんじゃなかった、と思っても後の祭りだ。

 仕方ないので取り敢えず名前を付ける事にした。

 いつまでも美少女クローンと呼ぶわけにもいかない。

 

「というワケで、君に名前をつけたいが、何がいいかな?」


「ぼくの名前ですか? うーん、何でもいいんですかね?」


「ああ、構わないぞ」

 

 そう答えると、彼はしばらく考えて答えを出した。

 

「じゃあ、あなたに決めて欲しいです」


「えぇ……? 俺?」


「はい」

 

 キラキラとした目で俺を見る。

 そんな目をされても困るんだけど。

 

「えっと、あぁ……。じゃそうだな君の名前は、す、『スーラ』……っていうのは?」


「分かりましたぁ! ぼくの名前はスーラですねっ!!」


 嬉しそうに微笑む。うん、やっぱり可愛い。

 適当にパっと考えただけなのにあんなに喜んじゃって。

 ホントに、これで男の子だというのだから、頭がイカれちまいそうになる。

 

「それでぼくは何をしたら?」


「とりあえず、身の回りのお世話でもしてもらおうかなぁ。仕事でちょくちょく出かけるから、その間の部屋の管理とか、それとかあれとか」


「了解しました!」

 

 ビシッと敬礼して返事をする。

 うーん、やはり女の子に見える。

 いかん、こんな事ではいけない。

 俺は頭を振って気持ちを切り替えた。

 

 ああ、今日も楽しい遺伝子集めだ。

 でもその前に……。

 

「朝飯にしようか。なんにするにしたってまずは食べなきゃ」


「だったら、もう用意してあります。それで呼びに来たんです」

 

 おおぅ、流石はラーメン屋の息子のクローン。準備バッチリだぜ!

 ……息子かあ、なんで娘じゃないんや。





 腹も満たしたし、いざレッツゴーすることにした。

 本日の遺伝子探しだが、目星はつけてあるのだ。

 

 前回地球に行った際、ゴミ箱の中から拾ってきた本を参考にする。

 俺のテレポート、実はあらゆる並行世界を行き来することができる程に強力なのだ。

 全く我ながら恐ろしいぜ。惚れ惚れしちゃう。ぶへへへ。

 

 とにかく、コイツを使えばこの本によく似た世界へ行けるって事。

 それはつまり、創作物の中に入るのと同じだ。必要なのはイメージ。自分がどんな場所に行くのかを明確に想像する必要があるのだ。

 

 という事で、さっそく実行することにする。

 まずはスーラ君に部屋で待機してもらう。一人になるのが不安そうな顔していたが、大丈夫だからと言って残ってもらった。ちょっと寂しそうだったので申し訳ないが、これも安全のためだ。ただの一般人を連れて行くわけにはいかないからな。

 

 俺は本の内容を出来るだけ読み込み、そのイメージが新鮮なままテレポートを開始する。

 よし行くぜ!!



 ◆ ◆ ◆


 

 気がつくと目の前には広大な草原が広がっていた。ここはどこだろうか?見たことのない光景である。

 しかしここがどこかなんて大した問題じゃねぇだろう。重要視すべき点は他にある。

 目的地に辿りついたかどうかだ。本の内容は思い出せる限り覚えてきたから間違ってはいない筈だ。

 そう、俺の予想が正しければ。

 

 草原の遠くを眺めて見る、そうして目を凝らしてみると、森の向こうに西洋式の白い巨城があった。

 

「お、あれかぁ!」

 

 間違い無い。アレこそ俺の目的とする建物のはずだ。俺は早速その場所へと向かうことにした。

 もちろん! ……数十分ほど肩をぜぇはぁさせた後に。

 この疲労は、どうにかならんもんかねぇ。




 ステルスを起動しながらスーツを飛行モードにして空を飛ぶ。そのまま城の敷地内へと降り立った俺は、正面入口の前に立ち、辺りの様子を窺った。

 すると門番らしい兵士が二人現れた。当然相手は気づいていない。わざわざ目の前に立っているのに。

 しかし、このいかにもな中世のヨーロッパ的兵士。

 俺の中で確信が持ててきたが、あとひと押し欲しい。

 門番を素通りして城の中へと入って行く。

 


 中もやはり、良く言えば趣のある建築様式といったところだ。まあ特定のオタクならば馴染み深いだろうけどな。


 廊下を通り抜けて行くとやがて開けた場所にでた。そこには巨大な螺旋階段がある。その先を見てみると吹き抜けになった天井が見え、さらに上まで伸びているようだ。そしてそこを見上げると、豪華なシャンデリアが見える。


 (ビンゴ!)

 

 俺は心の中で声をあげて歓喜した。

 そうして駆け足で上へと昇っていく。途中で何人かの使用人とはすれ違い様に採取針を打ち込み遺伝子を回収する。

 

 だが、今回の目的の場所は六階の一番奥の部屋。

 城の最上階に近いこの階の奥には、ここのお姫様の部屋があるはずだ。そこに行けば目的の人物がいるはずである。

 はやる気持ちを抑えつつ部屋の扉の前に立ち、サーモグラフィーモードと集音機能で中の様子を確かめた。

 

「……やっぱりか」

 

 一人で呟いた。予想通りの状況だったからだ。

 中には人物が二人、両方共に女だ。

 中の会話に聞き耳を立てる。

 

「姫殿下。いよいよ明日、魔族の残党共との開戦です」


「分かっております。勇者殿達の準備は既に万端とのこと。後はわたくしが上手くいくかですか……」


「しかしながら大丈夫だと確信しております、姫殿下なら。魔王を倒したお歴々なのです。その力を存分に発揮できるならば、さした問題などあろうはずもありません」


「そうですね。でも心配です……。もしも失敗してしまったらと」


「その点についてはご安心ください。我らの使命はあなたをお守りすること。必ずやお力添えさせていただきます。さあ、御身をお休めになられて下さい」


「はい……。ありがとうございます」


 どうやら明日、戦争が始まるようだ。それも人類対魔族の戦い。

 という事は、その主役となるのはやはりあのパーティだろう。

 だが、これはチャンスだ。ここであの連中に接触して一気にDNAを採集することが出来る。


 俺は、部屋から出てきた女騎士に対してすれ違い様に、針を打ち込んでDNAを手に入れる。そしてそのまま部屋の中へと入れ替わりで入った。


 中にいたのはやはりこの国の王女様だ。当然だろう、何よりの目的なのだから。違ったら俺恥ずかしいし。

 しかし、綺麗なお顔立ちだことで、さっきちらっと見た女騎士もべっぴんだったが、お姫様も負けず劣らずらしい。やったね!

 所詮は小説の挿絵で見ただけだし、半ば期待できしてた程度だったが大当たりだったわけだ。


 まるで、彫刻のようにスゥとした鼻筋に、大きな瞳は長いまつげに縁取られている。艶やかな唇は潤っており、見ているだけでドキドキしてくる。髪は銀色の美しいロングヘアで、それをアップにまとめ上げていた。

 年齢は確か十六歳くらいだったろうか? 肌は白く透き通るようで、胸元が開いたドレスからは豊満なバストがよく分かる。ただ、ちと顔立ちが幼いが。マッチしたドレス姿は露出も少ないってのに何故か煽情的にも見えるから不思議だ。


 とはいえ手を出すわけにはいかんのよ。俺が部屋に居るのがバレてしまう。何があったってステルス機能だけは解けないしな。

 だから俺は、部屋に置いてあった椅子に座って、お姫様の様子を観察することにした。

 ……しかし、こうして見るとホントに可愛いよな。こんな娘が居たら俺、絶対嫁にする。しちゃう。ま、そもそも相手にされないだろうが。


 そんなふうに考えていたらお姫様の方に動きがあった。どこか決心した顔で身支度を始めて、これからどこかへ行こうって言うんだろうが、生憎とここから先の細い展開は覚えていない。

 まあ別にいいだろう人生にはアドリブが必要だ、自分が合わせればそれでいい話なんだ。重要なのは目的を達成できるかどうかなんだから。

 

 お姫様が部屋から出ていくのに合わせて、針を打ち込んで行く。これで今日の目的は達成した 。

 部屋に誰もいなくなったのを確認したら俺もまた、退散することにした。姿が見えないからと言って女の子の部屋に長いするのはどうか? いろいろと俺の中の悪い虫が喉の奥からこんにちはする前に、ほんの暫くぶりの我が自室へとテレポートする。 

 

 あばよ、また明日。



 ◆ ◆ ◆



「お帰りなさい! 御飯になさいますか? それともお先にシャワーでも?」

「……とりあえずは、ソファーの上で一時間ゴロンとしたいかな」


 テレポートに疲れて帰って早々、床にバタンにキューした俺を出迎えてくれたのは、我が専属クローン家政婦のスーラ君だった。


 ま、彼以外部屋に入るわけがないんだけども。

 可憐な笑顔でにっこりと出迎えてくれた。ああこれで男でなかったら、気力を振り絞って思わず抱きしめちゃうんだけれど、悲しいかな仕方がない。

 しかしあれだ、テレポートするたびにこんなに疲れちまうんだったら何か対策を考えなければ。こんなことでいちいち倒れていたら体が持たねぇ。どんな対策があるか、研究室の連中にでも相談するか?

 

 そんなふうに考えていたら、スーラ君に背負われ、俺の体がソファーへと運ばれていく。

 いくら装備を外しているからといって、自分よりも背丈が三〇センチは離れた男の体を持ち上げるとは、意外と力持ちだったのねスーラ君。そこはやっぱり男の子なわけね。


 こういう可愛らしさと逞しさのギャップが、一部の人間にはたまらないんだろうか? 俺には関係ないが。


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