第2話 出会ったらしい
船に戻って来て、しばらく仮眠を取り、船長の待つ部屋に向かう。
ノックをして入室の許可を得る。
『入れ』
中に入ると、船長の他に数名の船員がいた。
どう見ても堅気に見えない連中だが、これでもしっかりとした国家公務員だ。
見た目と中身は違うんだろうなと思うけど、あんまり信じたくない現実だ。
「戻ったか。首尾は?」
「上々ですよ。サンプルは回収に成功しました。我ながら見事な手際でしたね」
「よし、よくやった。早速マシーンにサンプルを製作させるぞ」
「了解」
「それと、このサンプルだが……、やはり人間だったのか」
「はい。恐らくは。あ、第一号は俺に選ばせて貰えるんですよね」
「そういう約束だからな。この仕事は現状お前しか出来ない。希望は可能な限り聞いてやる」
「ありがとうございます。では早速試験を開始させて頂きます」
「ああ、行くぞ」
俺は船長と共に、マシーンのある部屋へと向かった。
薄暗い部屋の中央に、大きなカプセルがある。
この機械こそ、人類の英知を集めたマシンである。
まずはこのサンプルをこの装置に入れる必要がある。
そして、DNA情報を元に人間のクローンを作るのだ。
登録されたサンプルは培養され、遺伝子を組み込まれていく。
後は時間が経つのを待つだけだ。
その時、マシンの管理・担当の研究員が疑問を口にしてきた。
「ん?」
「どうしたんで?」
「いや、確かぁ……、女性のDNAを使用したのですよね?」
「ええ、とびきりのをね」
研究員が答える。
どうしたんだろう?俺は首を傾げた。
「おい出来上がるぞ」
カプセルを見守っていた船長が、そう言って来たので俺は中に視線を戻す。
すると、カプセルの中で人間の形が徐々に仕上がってくる。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
いよいよだ。
俺はカプセルのガラスに、つい手を伸ばす。
やがて、その人物は目を開けた。
美しい顔立ちの女性だ。長い髪に切れ長の目。
肌も白く透けるようだ。
だが、俺たちはそこである違和感を覚えた。
「……おかしいな、なんか見慣れたものが見えるような」
俺の言葉に、他の連中も同意する。
「本当に女性だと確認して、採取してきたのですよね?」
「その、はず。いや間違いなく! ……そうであって欲しい」
「じゃあ、アレは俺の見間違いか?」
そう言う船長の視線の先には、我々男性には非常に関係の近いブツがあった。
い、いや。そんなはずは無い。
ガラスの屈折とかが見せる幻だろう。そうなんだろう!?
やがて、カプセルが開くと彼女?はゆっくりと立ち上がった。
俺はどうしても我慢ができず、一つの質問をぶつける。
「あ、あのつかぬことをお伺いいたしますが。あなた様は女性様でございましょうか?」
「? いえ、ぼくは男ですが……」
「…………」
俺は無言で天を見上げた。
「ふぁあっ!?」
そこで俺のキャパシティが限界を迎えたようで、意識がブラックアウトした。
「うっ……!」
目が覚めると、自室のベッドの上だった。
窓から差し込む朝日が眩しい。
「夢? そうだ夢だ。なんだ夢か! はぁあ良かった!」
安堵のため息をつく。
そうだよ美少女にあんな物が付いていてたまるか。
きっと長い眠りから覚めたてで疲れているんだろうな。
今日は休みだし、ゆっくり寝よう……。
「あのぅ……」
「ん?」
もう一眠りしようとした時、振り返るとその女はいた。
そう昨日誕生した愛しのクローンだ。
「あ、ああ君か。いやね、ちょっと不思議な夢を見てしまってさ。君が実は男だっていうんだ。一体いつ頃から寝てしまっていたか分からないが、いやあ、夢でよか……」
「ですから、ぼくは男ですよ」
「……へ?」
「いや、だからぼくは男ですよ」
「……おぅ」
こうしてこの惑星で初のクローン人間が誕生した。
しかし、まだまだ人口問題の解決には遠い。
数多くの世界を巡り、遺伝子を回収する旅は始まったばかりなのだ。
そう、モナーガの受難はまだ終わらない。




