呪いのひな人形
ほっこりホラーに入れようと思ったけど、、、
S県S市の山間にある古刹。その中には「悪夢の呪い」と呼ばれるひな人形が安置されている。
伝承によれば、この人形の持ち主には恐ろしい悪夢が見せられるという。
このことは、多くの住民や観光客に知れ渡っており、多くの者がその力を恐れて近づかなかった。
ところが、ある日痩せこけた中年の男が古刹を訪れた。彼の名は修司。一目で何かを求めていることが分かる彼は、住職の前に立ち「私に、その人形を半年間貸してほしい」と頼んだ。
住職は驚きの中で「その人形には恐ろしい力があると言われていますが、それでも欲しいのですか?」と問いかけた。
修司は深く息を吸い込み「はい。それを求めてここに来ました。理由は言えませんが、どうかお願いします」と静かに答えた。
住職は修司の真剣な目を見つめた。彼の目には切実な思いが宿っていた。
住職は一息ついて「分かりました。しかし半年後、必ず返してくれ。その間、何があっても、責任は持てない」と警告し、人形を修司に託した。
・・・
半年後、古刹に一人の女性が訪れた。彼女は修司の妻であった。手にはひな人形と、折りたたまれた手紙が握られていた。
「私は修司の妻です。夫は約束通り、この人形を返しに来るはずでしたが…」彼女の目には涙が浮かんでいた。
住職は心中で修司の安否を案じながらも、妻に言葉をかけた。「何かあったのですか?」
修司の妻は、手紙を住職に手渡し「夫が残していった手紙です。彼の気持ち、そしてあの人形を借りた理由が書かれています」と語った。
住職は手紙を開いて読み始めた。
「住職様へ、
私があの人形を借りた理由、今、この手紙でお伝えします。私は末期がんを患っており、日々の病の苦しみが耐え難いものでした。
しかし、ある日、『悪夢の呪い』という人形の存在を耳にし、考えました。
病の痛みより、悪夢の中での短い時の方がまだ楽なのではないかと。
そして、自分の意志で夢の中に逃げること、それが私の望んだ最後の希望でした。
あの人形のおかげで、私は多くの悪夢を見ました。
しかしそれらの夢の中には、日常の苦痛や恐怖から解放される瞬間もありました。夢の中で感じた時間は、私の現実よりもずっと長く感じられました。
今、私はもうこの世にはいません。しかし、あの人形とともに過ごした時間は私にとって、かけがえのないものでした。
深く感謝しております。
どうか、この人形を大切にしてください。
敬具、修司」
住職は手紙を読み終え、修司の妻の目を見た。彼女の目には、言葉にできない悲しみと感謝が宿っていた。