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中間考査テストが落ち着くとまた平和な学校生活が始まる。
休止していた部活動も再開され、静まった学校生活に活気が戻り始める。
だが、俺は特に変わりない日常を過ごしている。
次の定期考査に向けて勉強が必要だからだ。
そのほかにも行事があるとすれば体育祭だな。
6月の中旬に準備が始まる。体育祭の種目決めなどなど。
俺にはあまり関係ないことであり、そこまで出しゃばる気はない。
まぁ、優等生ではあるので真面目に行事をこなすだけ。
あまり面倒くさい役回りにはなりたくない。
特にボランティアになるが、体育祭準備要員になるのはごめんだ。そんなの部活動をしている連中に任せればいいだけだ。何がよくて遅くまで学校に残り、肉体労働をしなきゃいけないのやら。
その認識はみんな同じらしく毎年募集を募るものの一般生徒から名乗りを上げるものはいない。
メリットがないからだ。生徒会や委員会のように内定が良くなるわけでもない。単なる何の対価もないボランティアだ。
だから、誰もやりたがらない。
何より、体育会系の部活だけで事足りてしまうので、教師たちは何も特に言わない。
なぜ毎年募集をかけるのやら。
俺は勉強時間がとられるので絶対にやらない。
そんなことを思いつつ、俺は今日も平和な優等生生活をする。
今日は授業も終わり放課後。
水瀬からの誘いでカラオケに来ていた。
まぁ、テストの打ち上げ兼俺への感謝の気持ちらしい。
「いやぁ、マジでさんきゅな司!お前のお陰でいい点取れたわ!」
「俺のおかげだけじゃないだろ?お前の努力が身を結んだんだ。……全教科八割前後だったな……何が赤点ギリギリかもだよ」
「それは司の教え方がよかっただけだっつの!さ、今日は俺の奢りだ!飲みまくれ歌いまくれ!」
まるでお祭り騒ぎだな。
ま、俺とたまには嵌めを外すのもいいかもしれない。
どうせここにいるのは俺と水瀬の二人だけ、人の目もないしな。
「いやぁ、まさか司がここまで乗りいいなんて思わんかったわ!」
「そうか?……一度話しただろ?俺はあくまで将来のために優等生を目指してるって」
「お前固すぎだろ!もっと楽にすりゃいいのに。俺には無理だな」
「お前は逆にはっちゃけすぎだけどな」
「あははは!」
水瀬にはテスト勉強をしている時、優等生を目指していると話してしまったことがある。
テスト勉強に集中しすぎてつい口を滑らせてしまった。
話した後、後悔し、少し馬鹿にされはしたが、人に言いふらすことはなかった。
結果的によかったのだが、こいつとはあまり隠し事をするような中ではなく、むしろ親友といえる存在なのだろう。まぁ、本人に言わないが。
「あ……すまんちょっと電話。出てくるわ」
「おう」
だが、急に水瀬のスマホが鳴ったので、その会話を切り上げ、外に出ていった。
それから水瀬は数分で戻ってきた。
だが、何があったのか、申し訳なさそうな顔で入ってきた。
「すまん司!」
「どうした急に?」
「今妹から緊急招集かかっちゃって!」
「……どうしたんだよ。何があった?」
「ああ、妹がコンタクト無くしちゃったみたいでな見えないから迎えに来てほしいって」
「……メガネとかないのか?」
「忘れちゃったみたいで」
水瀬には一つ年下の妹がいる。
視力が悪いのは初めて聞いたが……今日はおしまいか。
「そうか……なら、今日は解散だな」
「ごめんなぁ」
「いや、別に水瀬が謝る必要ないだろ。それより早く妹さんのとこ行ってやれ」
「ああ」
俺と水瀬は片付けて部屋を出た。
それから会計を済ませて水瀬は急いで妹の元へ向かった。
俺はドリンクの飲み過ぎ、お腹が痛かったのでお手洗いを行ってから帰ろうとした。
だが、店を出ようとして、慌てて定員さんが声をかけてきた。
「お客様!」
「……うん?」
誰のことを呼んだかはわからないが、後ろを振り向くと紙袋を両手に持ち走ってくる茶髪のボブカットの女定員が近づいてくる。
「どうかしましたか?」
「これ……忘れ物です」
何故か顔を赤くして紙袋を渡してくる定員さん。
だが、覚えがない。
「間違いでは?」
「いえ、201号室にあった物なのでお間違いないかと」
「……少なくとも俺のでは……あれ?」
懐からブーンとスマホの着信音が聞こえた。
そこには水瀬と表示されていた。