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帰り道、俺は両親と新幹線に乗ってた。
これからお叱りを受けるのだろう。……そう思っていた。……だが。
「司……よくやった」
「………は?何言ってんだよ親父」
開口一番に言われた言葉に戸惑う。何がよくやっただよ。普通は叱る場面だろ今。
「いやいや、あの警官も言ってたじゃないか!女の子を助けたって!いやぁ!さすがは正義の不良だな!」
「そうねぇ、私たちの血は争えないわね。それにまじめに野球をやって鍛えていたからね。そこら辺の奴らには負けないわよね。あ、肩は大丈夫?投手の命だから」
怒られると思っていた。……なのに拍子抜けしてしまう。何故俺の行動を誉めるのかわからなかった。
「……だから、何言ってんだよ」
「別に僕たちは司の行動に何もいわないさ。だって、司自身に何かあったわけじゃないだろう?……まぁ、心配はさせないで欲しかったけどね。せめてどこに行くかくらいは教えて欲しかったな」
「そうね。学校から欠席してる連絡が来た時驚いたもの。あと警察からの連絡が少し遅かったら捜索願いを出していたところよ」
そうじゃなくて。
「なんで怒らないんだ!俺は迷惑をかけた!問題も起こした……なのに、なんであんたらは俺を叱るどころか称賛する?……もっと言わなきゃいけないことはあるんじゃないのか!」
やってしまった後悔が大きかった。両親に迷惑をかけたのに、何も言わない両親にも何故か怒りが湧いたのだ。
すると、母が。
「いい、司……別に私たちはね、今回の件で責めたりする気はないわ」
「そうだよ。……たかが、反抗期みたいなものだからね」
「そうそう、まだまだ可愛いものよ。私なんて司と同じくらいの時、学校をサボったり学校の窓ガラス割ったりは日常茶飯事だったし」
「そうそう。僕なんか高校時代毎日喧嘩してたなぁ……。高校卒業した後はバイクを乗り回して鳴らし屋やってたり。いっぱい迷惑かけたなぁ」
「懐かしいわねぇ」
「いや待て……なんか思い出に浸っているけど、内容物騒すぎだろ!何やってたんだよ」
両親の昔話ぶっ飛びすぎじゃね?
俺のツッコミに両親ははっと笑っていたが、気を取り直して話を続ける。
「話が逸れてしまったね。……それで、僕たちが何を言いたいかというと、司が今日みたいな問題を起こしても僕たちはあまり咎める気はないってことさ」
「そうそう。ただ、あまりに度がすぎた行動なら流石に指摘するけどね」
「……僕たちは出来るだけ司の自由にさせるってきめてたんだ。僕たちは学生時代両親に迷惑をかけすぎたし、警察にも厄介になったしね」
「子育てってすごく難しくてね。どうすればいいかわからないことが多いのよね」
「本当だよ」
二人が何を言っているのかわからない。てか、両親の意外な過去を聞かされてそっちの方が気になりすぎてしまう。
両親の次の言葉を聞き、なんとなく意図はわかった。
俺が困惑していると二人は真剣な表情で話始める。
「いいかい司……別に僕たちは人様に誇れる人間になりなさい……とは言わない」
「いっぱい迷惑をかけて……警察や学校の先生に迷惑をかけて呼び出しを食らっても私たちはどこへでも行く。……だけど、これだけは約束して……自分のした行動に後悔はしないでね」
「………は?」
「失敗から学べること多いからね。……これから司は大人になる。問題を起こしたとしてもそれから得られることは人生において財産になる。……まぁ、万引きとか麻薬とか……そういう犯罪はやめてね。……人生壊れるしーー」
「やらねぇよ!」
いや、そこまでやる気はないわ。俺の両親はおかしい。
だが、何故か嫌だとは思わなかった。むしろ少し両親について知れたことに歓喜した。
「あ、親に反抗したかったらいつでもいいからね!殴りかかってきても大丈夫」
「そうね!……私たち喧嘩強いから返り討ちにしてあげるけどね」
二人は最後に父は笑顔で、母はシャドーボクシングをしながら言ってきた。
……やっぱり俺の両親はおかしい。
そう認識させられたのだった。
そして、俺……片桐司はその日を境に不良をやめた。
両親と話して気が変わったというか……これ以上不良を続けることがバカらしくなったのだ。
いや、不良の真似事……か。
色々と理由はあるが、一番の理由はこの変わり者の両親に誇れる人間になりたいと思った。
それで、どうすれば誇れる人間になれるのか……そう考えて一つ結論をだす。
「誰もが認める優等生になろう」
この日を境に俺は制服をきちんときた。勉強を人一倍頑張った。
誇れる人間になるにはどうしたら良いか。世間一般から見た優良児ではないかと結論づけたのだ。
こうして俺は残りの中学生活を過ごした。だが、元不良の印象が根付いてしまっていたのか、なかなか優等生と思ってもらえず、不良のことをネタにされるいわゆるムードメーカー……いじられキャラとなってしまった。
……このままじゃまずい。
そう悩んでいると両親から現状打破にもってこいの吉報がきた。
「司、すまん!来年父さんの転勤で東京に行くことになってしまった」
「あ……うん」
来年には高校に進学時期だ。
誰も知り合いのいない場所にいける。
新たな自分として過ごせると歓喜した。
だが、その喜びはすぐに終わりを告げることになるとは高校入学前の俺は知らなかった。
読んでいただきありがとうございます。
次回は明日投稿したいと思います。
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