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「間に合うかしら」


 美玲はその日痛恨のミスをしてしまった。

 目覚ましをかけ忘れ、時計の指す針を見て焦る。


 遅刻寸前。美玲は急ぎ準備をして学校へ向かった。普段ならば余裕があり、身支度もしっかり整えるのだが、今日はその余裕すらない。


 そのため、ニュースを確認することなく登校した。


 運が良く、遅刻はすることは免れた。だが、美玲は学校に着いた後、友人からの話で情報を得た。今日は午後から大雨予報が出ていたことを。


 友達に傘に入れて貰えばいいかも始め思ったものの、美玲の友人は部活動に所属している、帰りの方向が真逆などの理由で傘に入れてもらう選択肢はなかった。

 そのまま何もできることはなく放課後に。

 

「雨……弱まるかしら?」


 美玲は昇降口で空を見上げていた。

 大雨でこのまま帰ったら風邪をひいてしまうことを恐れ、少しでも弱まるのに期待していた。

 

 だが、残念ながら雨は増す一方。


 ……部活動をしている友達が終わるのを待とう。そう思った。


 だが、部活はいつ終わるか分からない。

 そんな中、昇降口から一人出てきた。


「……片桐くん?」


 それは意中の人物……司であった。


「今帰りなの?」

「ああ。図書委員の登板があったんでな」


 美玲は司と会うことができ、胸が高鳴るが、それを察しられないように取り繕う。


 美玲は知っていた。司が当番であることも。だから迷惑をかけないために今日は連絡をしなかった。

 傘に関しても頼めば入れてくれると思っていたものの、諦めていた。


 図書委員の登板は終わるのは遅いと思っていたのだ。


「それにしては早いわね。当番だともう少し遅い時間になると認識していたけれど」

「今日は利用者がいなかったんだ。その場合は早く帰れるんだ」

「へぇ……そうなの」


 美玲は司と会話できることに喜びを感じるも、一つの考えがよぎる。

 ……ちょうど司の手には黒色の傘を持っていた。

 司と相合傘ができるかもしれないと。

 

「あ……」

「……どうした?」


 美玲はどうやって話を切り出せば良いのか分からない。普段通り話しかければ良いのだが何故か緊張してしまい話を切り出せない。


 だが、その時何かを察したのか司が話を振ってきてくれる。


「どうしたんだ?こんな時間に…こんな場所で」

「その……うっかり傘を忘れてしまって」

「なるほどな。友達に入れて貰えばよかったろうに」

「みんな部活か……帰り道が真逆で……少し待ってから部活終わりよ友達に途中まで入れて貰おうと思っていたところよ」

「へぇ」


 司は現状の経緯を会話で知った。だが、その話を聞いた司は少し考えある考えに達する。


 本来なら途中まで……近くにあるコンビニまで連れて行き、そこで傘を購入してもらう流れが一番良いのだろう。


 だが、司はここ数日命令を続けられ、少しやり返したいと思ってしまう。

 いつも余裕ある振る舞いを少し崩してしまいたいと思ったのだ。


「そうか、なら早く友達が来ることを祈るよ。また明日な」

「……え?」


 美玲は司の発言に少し動揺した。……確かに入れてもらうのは烏滸がましいかと思うも、司と相合傘ができるかもしれないと願望が叶うかもしれないという望みがあったので、それが崩れてしまったことに。

 だが、普段のお互いの関係上、司の自分への対応に納得する美玲であった。


「ちょっとまって」

 

 だが、このチャンスを逃してしまったらもう二度と相合傘ができないかもしれないという考えにいたり、美玲は司を呼び止める。


 ……途中まで傘に入れて欲しい。だが、この一言が言えない。


「……なんだ?」


 美玲が呼び止めた後、数秒の沈黙がおきる。それに我慢できなかったのか、司が話しかけてくる。


(早く……一言…たった一言)


 だが、美玲は何故か話すことができない。それは緊張ゆえに。


「用がないならもう行くぞ」


 だが、司はそのまま帰ろうとする。

 まぁ、これは司が意図的に美玲を困らせようとしている行動であるので、本気で帰ろうとしてはいない。


 だが、美玲はその結論に至ることができず、慌ててスマホを取り出す。


「私を置いていってもいいの?」


 それはいつも通りの司を脅す時の手法。

 スマホ片手に美玲は司に話しかける。

(ああ……またやってしまったわ)


 内心後悔しつつも、もう後には引けず……美玲はそのままいつも通りの展開に後悔してしまうのだった。


 だが、結果はどうあれ、美玲は相合傘ができることに嬉しくなり、満面な笑みを浮かべてしまうのだった。

 



 












「私を置いていってもいいの?」

「傘……途中まで入っていくか?」


 ……少し弱気になっているから余裕のある表情を少しでも崩してやろうと思ったのに、西園寺は平常運転であった。

 結果はいつもの放課後と同じような展開に。


「いいの?……ありがとう」

「途中のコンビニまででいいだろ?そこで傘買えばいい……まさか傘奢れとか」

「それは自分で買うわよ。私だってそこまでしないわよ」

「……そうか」


 西園寺はこんな状況でも、そういうことをやりかねない。

 少し考えすぎか。


「行くか」

「わかったわ」


 俺の持ってきた傘のかさは大きい。二人が入っても片方がはみ出ることはない。

 濡れる心配はないものの、何されるか分からない不安感は残る。


 だが、今更考えで仕方がない。なるようになれ。

 そう結論づけ西園寺を傘に入れて二人で下校する。



 あ、もう一つ心配ごとあったわ。

 誰かに見られませんように。


 そう願うのであった。







最後まで読んでくださりありがとうございます。


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