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「そういうことだったか。……それはすまんかったな」
「どうしてくれるんだ」
水瀬は俺に殴られた右の頬を撫でながら昨日あったことを話したら納得した。
だが、聞かされた話であのエロ本はドッキリだと言われもう片方の頬をパンチした。
両頬が腫れてしまったが、自業自得だ。
もう一発殴ってやろうと思ったが、反省の色が見えたので許してやった。
それにこいつは西野さんに変な性癖持ちだと思われている。そのことを教えてないのでいつか痛い目を見てほしいと一縷の望みをかけている。
「それで、今日西園寺さんのところに行くのか……頑張れ……あ、そんなことより例のエロ本今度取りに行くから、あれ父さんのでさ」
「お前……もう一回殴られたいのか?あん?」
こいつ、一度ボコした方がいいかもしれない。俺は右手を振りかぶりもう一発殴ろうとするも、水瀬は焦って俺の手を押さえて弁解を始める。
「ちょ、冗談だって!だから、その右手を下ろせって!考えてみろ!西園寺さんに弱みを握られてるのはお前だ!もうやっちまったもんは仕方ないだろ!」
「開き直ろうとするな!一度お前の舐め腐った態度を物理的に矯正しなきゃいけないらしいな。もともとお前が原因だ!西園寺に弁明するしようと思わないのか!」
「少し考えてみろ。俺が弁明したら被害受けるのはお前だ」
「………続けろ」
「ふぅ……もしも今日の放課後俺が言ったとする。もしも西園寺さんが普段猫をかぶっていたとして……ただでさえ弱みを握り企んでいるような奴が自分の本性を他人に話したお前に……何するかな?」
「一理ある」
たしかにそうだ。
水瀬の言うことを考えると何をされるかわからない。
「だろ!だから今は様子を見るべきだ」
「そうだな。……とりあえず放課後行ってみる。水瀬も今話したこと口滑るなよ」
「わかってるよ。話したら腕の骨折られそうだし」
「わかってるならいい」
とりあえずひと段落したところで話を切り上げ教室にもどる。
話し込んでしまい、朝のホームルームまで時間が迫っていたので急いだ。
優等生が遅刻なんてもってのほかなのだから。
「君たち遅かった……水瀬くん大丈夫か?顔が腫れてるけど」
「あ……えーと」
教室に戻ると担任の先生が既についており、生徒と会話をしていて、俺たちが入ってくるのに気がつくなり話しかけてきた。
だが、この時水瀬の頬は腫れていた。
やべ……どうしよう。
俺は水瀬を見てどうするのか窺う。すると水瀬の俺に微笑みかけてきた。
任せろってことか?
「えーと……ですね……ちょっと片桐くんとジュースをどちらが奢るかブルドックで勝負していたら腫れてしまいました」
………こいつアホなのか?
そんな言い訳で通じるわけないじゃん。
「はぁ……それにしては腫れがひどいような」
「いやぁ、片桐くん力強すぎで手加減してくれなかったんすよぉ。じゃんけんも連敗、10回先取の勝負なのに……な!」
いや……な!じゃねぇよ。なんつう言い訳だよ。どうすんだよ、微妙な雰囲気なっちゃったじゃん!
クラスのみんな水瀬のメチャクチャな言い訳で笑い始めたやついるし。
こんな言い訳通るわけ……。
「まぁいい。ふざけるのも大概にしろよ水瀬くん。あまり片桐くんに巻き込まないように。いいね?」
「はーい気をつけまーす!」
これで通じるのかよ。
理由はわからないが水瀬の普段の態度か、俺の優等生としての評価が思った以上に高いのか。
理由はわからないがとりあえず一難去ったというところか。
「………」
だが、残念ながら今のやりとりはクラス全員が見ており、西園寺もその視線の一人。俺は恐る恐る西園寺をみると……笑顔で俺を見つめていた。ただ、目は笑っていなかった。