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 カラオケからの帰り道、俺は特に寄り道せずにまっすぐ帰路につく。

 学校からは特には交通機関は使わず徒歩で通える位置住んでいる。

 

「……なんだ?」


 自動販売機を横切ると目の端に何か小さな影が目に入る。

 少しバックして戻るとそこには。


「……犬?」


 小さな犬がいた。

 茶色いトイプードルで首輪をしていることから飼い犬だろう。

 でも、なんでこんなところにいるのだろう?

 

「どうした?」

「キューン」


 犬は俺をみると震えていた。

 主人と離れて不安なのだろうか?痩せ細ってないし、毛も手入れされている跡があるから数日間でなく、はぐれてしまいそこまで時間は経っていないように見える。


 どうしたものか?

 ……でも、このまま放っておくこともできないし。

 俺はその場にしゃがみ持っていた紙袋を右脇に挟んで声をかける。


「大丈夫だ。こっちに来い」


 ……だめだ。反応がない。

 言い方の問題かもしれないが。

 こういう時……どういえばいいんだろう?……もっとこう…柔らかくか?

 

「こっちにおいで〜。怖くないよー」


 ……反応なしか。

 どうすべきか……これ以上というと……赤ちゃんみたいな口調か?


「怖くないで…ちゅよぉ」

「……くーん」


 子犬は恐る恐るだが、近づいてきた。

 なるほど。これがいいのか。


「ほーら怖くないでちゅよぉ、おいでぇ」

「くーん」

「ほーらおいでぇ!いい子でちゅから!」


 未だに警戒しているものの、トタトタと近づいてくる子犬。何故か嬉しさが込み上げテンションが上がってしまってか、声のトーンが高くなっていく。

 そして、ゆっくりと近づいていた子犬はついに俺の元へと近づいてきた。

 

「くーん」

「だいじょうぶ」


 子犬は恐る恐る俺の手の匂いを嗅ぐ。そして、ゆっくりと顔をすり寄せる。

 よし!うまくいった。


「よしよし」

「くーん……わふ!」


 子犬の機嫌は良くなり、警戒心解いてくれたようで、頭を撫でても怖がる素振りを見せず、逃げる気配もない。

 

「わん!」

「うわ!」


 だか、突如子犬は俺の手から離れ右方向に走っていってしまう。

 突然の出来事につい紙袋を落としてしまう。

 

「……あ」


 だが、犬が走っていった方向を見て体が固まる。

 そこには何故かスマホを俺に向けている学校のマドンナ……西園寺玲奈がそこにはいた。

 子犬は西園寺の足元で舌を出して尻尾を左右に振っていた。


 ピコ。


 西園寺はどうやら動画を撮っていたらしい。その後スマホを確認して……笑顔になった。

 ……みられた?

 いや、こういう時は堂々としてれば大丈夫だ。

 別に悪いことをしていたわけじゃない。

 

「こんにちは西園寺さん、こんなところで何をしているんだ?」


 まずは挨拶が無難だ。

 西園寺と話すのはこれが初めてだ。

 挨拶を交わしたことあるくらいかな。


「ペットの散歩中にはぐれてしまって探していたのよ。ありがとう、片桐くんが保護してくれていたのね」

「まぁ、偶々だ、お礼を言われるようなことはしていないさ」


 どうやら西園寺は少し戸惑っているようだ。

 多分見られたかもしれない。だが、あまり触れて欲しくない部分なので早めに退散しよう。

 そんなことを思っていると、西園寺から話しかけられる。


「それにしても意外だったわ……まさかあの片桐くんにそんな趣味があったなんて」


 へんなごかいされてる?

 いや、大丈夫だ。

 

「そんな趣味って……別に犬の相手をしていただけだ。警戒されていたからね」

「……そのことにも驚いたわ……でも、私が言っているのは」


 西園寺は視線を俺の足元に向けていた。俺は恐る恐る足元をみると……見られてはいけない書物が紙袋から見えていた。

 あ、やべ。


「……なにかなこれは。こんなところに落とし物が」

「初めから片桐くんが持っていたものよね?」

「……いや……これは……そのだな。そこらへんに捨てられていたからゴミ箱に捨てようと」

「大切に紙袋に入っていたのはなぜ?見たところ新品に見えるのだけれど?」

「……何を出まかせを始めから足元にあっーー」

「ちなみに」


 どんどん逃げ道を塞ぐように西園寺は発言する。

 冷や汗が止まらない。西園寺、お前は次何をいうつもりなんだ?


「実は片桐くんが私のペットと戯れている少し前から動画撮っていたの」

「……ふぇ?」


 あれ、へんな声出た。

 ……やばくね……これ。


「………ということは」

「片桐くんがその紙袋を落として本が見えるまで全て写っているわよ……ばっちりとね」


 西園寺は俺に動画を見せながら何かを思惑しているような腹黒い笑みをする。

 

「これは俺のじゃない。水瀬のものだ」

「へぇ、嘘つくんだ。……それで、友達に責任転嫁するなんて……最低ね」

「ちがうわい!」


 だめだ。これ以上醜態を晒すわけにはいかない。


「……何が目的だ?」

「……うーん。どうしようかしら」


 西園寺は右手の人差し指を唇につけて考え始める。

 何も知らない奴が見たら魅惑的な女と映るだろうが、俺からしたら恐怖でしかない。


 これはあれだ……弱みを握られ命令されるあれだ。


「そうねぇ……明日の放課後、体育館裏に来てもらえる?」

「……拒否権は?」

「あーあ、うっかり動画を友達にーー」

「終わり次第急ぎ向かおう」

「うふふふ。わかればいいのよ」


 この腹黒女……まさかこんな一面を隠し持っていたとは。

 

 俺はどうなってしまうのだろう?

 だが、一つわかることは俺の平穏な学校生活に危機が迫っているということだ。


「また明日ね、片桐くん」

「あ……はい」


 今日は最後に言葉を交わし帰宅した。

 とりあえず、今日の一件でやることができた。

 水瀬のやろうを一発ぶん殴る。




 

 



 そして次の日、俺はいつもより早めに登校して水瀬を待った。


「お!司、今日はやけに早……お、おいどうした?何怒ってるんだ?」

「いいからこっちに来い」

「え?嫌なんだけど、ちょ、力強くね?」


 俺は戸惑う水瀬を無理やり教室から連れ出し誰もいない男子トイレへ。


「水瀬……歯、食いしばれ」

「へ?……なんで司くんは右手を思いっきり振り上げてんの?なんでそんなに怒ってるんだよ。あ!もしかして昨日のエロ本ふべ!」


 俺は水瀬に渾身の顔面パンチを繰り出した。



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