プロローグ
最後まで読んでくださると幸いです。
キーンコーンカーンコーン。
放課後を知らせるカネの音が校内に鳴り響く。
高校に入学して早2ヶ月弱、俺は充実した高校生活を送れていた。
放課後の時間は人によって取る行動は変わるだろう。
部活に向かう人、友人と話し込む人、図書館で本の貸し借りや勉強をする人、委員会の人などなど。
放課後は学生が勉学という名の本分から解放された自由の時間。
そんな俺、片桐司もその自由の時間を謳歌する一生徒である。
俺は部活動には所属しておらず、図書委員会には所属しているものの、今日は当番ではないので休み。
「おーい司、一緒にかえろーぜ!」
身支度をしているとパーマがかかった茶髪、制服を着崩している男子生徒から話しかけられる。
「水瀬か」
水瀬雄二、クラスで親友と呼べる存在。特徴を一言で言うならば陽キャのチャラ男だろう。
「すまない、実は用事があってな」
「えーまたかよぉ。最近付き合い悪いなあ」
水瀬はわかりやすくショックを受けていた。
申し訳ないと思う。ここ数日、水瀬の誘いは断っている。
いや、断らないといけない理由があるのだ。
そうしなければ俺が積み上げてきたものが崩壊してしまう。
「もしかして……これか?これなんだな!」
何かを思いついたのか、水瀬は小指を立てて迫ってくる。
その声の音量は大きく、周りの視線が俺と水瀬に向いており、一部の女子生徒から黄色い歓声があがる……いや、聞かなかったことにしよう。
「もぉ、そうなら早く言ってくれよ」
「勘違いするな、俺に彼女はいない」
「嘘つけぇ……司って結構女子から人気あるしなぁ」
「本当にいないんだって、それに彼女できたら真っ先に水瀬に報告するさ」
「そうなのか?……怪しいなぁ」
まぁ、俺自身少し容姿が整っていて、高身長なのは自覚している。
まぁ、それは置いておこう。
俺がこの後何をするかはいくら水瀬でも言えない。
口止めを……いや、そう脅されているのだ。
「ま、いいや。……今日も一人寂しく帰りますよ。絶対約束忘れるなよ」
「わかってる、また明日な」
「おう!」
水瀬のいいところ気遣いが上手いこと。踏み込んでほしくない内容には追求はしない。
俺は水瀬が教室を出ていくところを見送ったあと、身支度を整え移動を開始する。
向かう先は昇降口……ではなく屋上。
いつも人気がないところを指定され、呼び出しを喰らう。
「こんにちは片桐くん」
「……ああ」
ふと、屋上に出るとそこには癖のない綺麗な長髪の誰もが息を呑むような綺麗な容姿を持つ女子生徒がいた。
そいつが俺を呼び出したやつだ。
「それで……今日は何をやらせる気だ?」
「開口一番にそれ?……それだと今から私が企んでいるみたいじゃない?」
「みたいも何も、来なきゃ秘密を暴露すると脅して呼び出している時点で企んでいるかだろ?」
「誰かしら……そんな酷いことをする人」
「西園寺さん、君だよ」
西園寺美玲、高校のマドンナ的存在の彼女に俺は弱みを握られている。
きっかけは不幸という不幸が重なり合ってしまった。
そして、弱みを握られてからは放課後毎日のように呼び出しをされ、命令される。
誤解を招くようなので先に言っておくが、内容は俺にできる範囲だ。
苛めとか、そんなことは一切ない。
ざっくり言ってしまえば西園寺の我儘の相手をしている感じだ。
流石に酷すぎる内容だった場合断るが、命令は簡単で俺にとってそこまで負担がかかる内容だけなので仕方なく従っている。
命令さえ従えば実害はない。ただ、放課後の時間が少し潰れるくらい。
「ふーん……私のことそんなふうに思っていたの。酷いわ」
心にもないことを。
西園寺はメソメソとその場で泣き真似をしながら制服のブレザーのポケットからスマホを取り出す。
「悲しすぎてうっかり動画を友達に」
「申し訳ありませんでした。冗談です」
俺は言葉を遮るように謝罪する。
前言撤回、こいつは悪魔だ。
俺は西園寺に逆らうことができない。
西園寺に絡まれてやり返そうとしたことがあるが、最終的には脅し文句で逆らえない。
「わかればいいのよ」
「……チッ」
「ん?」
「なんでもないです」
ついついイラつきで舌打ちをしてしまった。西園寺、お願いだから自分が気に入らないことがあるたびにスマホ片手に脅そうとするのをやめてほしい。
「話はこのくらいでいいだろう……それで、今日は俺に何やらせるんだ?」
「やらせるだなんて……少しお願いをしてあるだけじゃない?」
「は?命令だろ」
「……なにか?」
「なんでもありません」
「うふふふ」
こいついつかやり返す。
今は堪えろ司、我慢しなきゃせっかく積み上げた優等生としての地位が。
西園寺はくすくすと笑いながら俺に近づいてくる。
そして、俺に手を伸ばしてくる。
「……なにをお求めで?」
「見てわからない?握手よ」
「……なんでそうなる?」
「え?……そうねぇ、ちょっとした思いつきよ」
命令の内容と言ってもこの程度。
マッサージをして。ジュースを買ってきて(西園寺の奢り)など。
面倒くさいがこの程度の願いしかない。
何がしたいのかわからないのだが、それを聞いてもはぐらかせる。
しつこく聞くわけにもいかず……この脅し脅されの奇妙な関係は続く。
俺は差し出された手を握り返す。
「……こ…これでいいか?」
「うふふ。顔真っ赤よ……恥ずかしいの?」
西園寺美玲は美少女だ。そんな人と至近距離で握手とかしたら、そりゃ緊張するわ。
こいつ俺の反応見て喜んでやがるな。
「うふふふ。ありがとう。……へぇ。片桐くんの手の皮厚いのね。……何かスポーツやっていたの?」
「………まぁ、中学の時運動部に」
「どんな種目?」
「別にどうでもいいだろ」
命令以外には背く。小さいかもしれないが、こういう反応は積み重ねなのだ。
だが、その小さな抵抗は長くは続かない。
「……気になるんだけど……教えて?」
「野球部だ」
「へぇ、そうなの」
スマホを片手にまた質問されたので答える。
すると、西園寺は何故なスマホを操作し出した。何しているのだろう?
「今日も時間とってくれてありがとう」
「そうかい」
放課後呼び出しをされてもすぐに用件は終わる。
本当に何がしたいのかわからない。
俺はその場で振り返ると屋上の入り口へ移動しようとする。
「片桐くん」
「……なんだ?」
まだ何かあるのか……西園寺に声をかけられる。
「その……また……明日ね」
西園寺は何故か照れながら挨拶してくる。なんだよその反応。
「ああ、また明日」
「ええ」
返事をするとすぐに咲き誇る笑みで返事をしてくる。その笑顔に一瞬見惚れそうになるも、気のせいだと頭を切り替え屋上を出た。
ではなぜ、このような奇妙な関係ができてしまったのか。
その道筋を語っていこうと思う。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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続きは明日投稿します。