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第1話 絶望の戦士ラクス 前編

 俺は生きていた。

 いや生き延びてしまったと言うべきか。

 ヒュドラの猛毒を浴びて尚、死ななかった奴は殆ど居ない。

 俺を助ける為、仲間達が懸命な措置を取ったお陰という事なんだろう。


 しかし仲間達には悪いが、あのまま死なせて欲しかった。

 強烈な酸を浴びた俺の両手は爛れ、指は全て失くなり、もう剣は握れない。

 両足も、太ももから足先まで肉が削げ落ちてしまった。


 顔も、髪は失くなり、鼻と耳も落ちた。

 僅かに開く口と、左目だけが、俺に残された。


 ハリスは朝から晩まで俺の傍を離れ無かった。

 フードを下ろしたままのハリス。

 ハリスは女性だったのだ。どうして男性の振りをしていたか、その理由は聞かなかった。

 ハリスが言わない以上、俺から聞くのは野暮だ。


 1ヶ月後、懸命の治療で、ようやく容態が落ち着いた。

 命だけは助かったのだ。


「じゃあな」


「元気で」


「ありがとう」


 当然の事だが、俺は勇者パーティーを離れる事となった。

 こんな身体では役にたてない。

 ハリス達が用意してくれた馬車に乗り仲間と別れる。


 その中にミッシェルとエリクソンの姿は無い。

 二人は報告の為に一旦アンゴラ王国へと帰った。

 エリクソンは俺の顔を見て、腹を抱えて笑っていた。

 ミッシェルは涙を流しながら、最後にうつむき、何も言う事は無かった。


 馬車は2ヶ月を掛け、ようやくナラム王国に到着した。

 三年振りに戻った故国。

 まさか帰れるとは思わなかった。

 こんな姿になってまで...


「ラクス...生きていたのか」


「はい、なんとか」


 先ずは国王陛下へ報告をする。

 杖を突きながら平伏する俺に陛下は絶句していた。


「もう治らぬのか」


 心配そうな国王陛下の言葉が身に染みる。

 陛下は慈悲深い人物で国民からも慕われていた。


「残念ですが」


 単なる毒や火傷なら上級のヒールで治るが、ヒュドラの毒には呪いが含まれている。

 どれだけヒールをかけても、また爛れてしまうのだ。

 そして、激痛も振り返すだけだった。


 最上級のヒールなら治る可能性がある。

 だが、それを使えるのは聖女だけ。

 ()聖女であるミッシェルには当然使えない。


「そうか...先ずは身体を休めよ」


「ありがとうございます」


 なんとか身体を起こし退室する。

 俺を見る貴族達の視線が痛い。

 同情ではない、殆どが失望、中には嘲笑を浮かべる者も居た。


「ふう...」


 王宮内に用意された一室でようやく一息着く。

 顔全体を隠す様に巻かれた包帯が痒い。


「サラはとうとう現れなかったな」


 婚約者のサラは来なかった。

 俺の怪我は当然知らされている筈だから、顔ぐらい見せると思ったが。

 当然陛下に聞く事は出来たが、それはしなかった。


「まあ...見たくもないか」


 こんな化け物みたいな顔、俺だって見せたくも無かった。

 腫れ物の様に扱われる日々、する事なんか無い。

 食事は全て部屋に運んでくれる。

 不自由な俺の為に侍女までも。

 時折、王国が手配した医師達が俺を診察する。

 診断結果は当然だが、治療不能だった。


「そろそろ出なくては」


 半年が過ぎた。

 さすがにこれ以上王宮に居座る事は出来ない。

 王宮を離れ、片田舎に暮らす事を決めた。

 幸いにも金は有る。

 討伐隊の給料は全て王国に預けていたし、怪我の見舞金も出ている筈だ。


 身体を引きずりながら、王宮内に有る財務担当者が居る部屋に赴き、俺の金を下ろす様頼んだ。


「無い?」


「ラクス様のお金は全て下ろされております」


「誰がそんな事を!!」


「サラ様です」


 財務担当、カリムの言葉に血の気が失せる。

 サラには特に愛情を抱いてる訳では無かった。

 だから婚約の解消を考えていたのに。


「婚約者とはいえ、勝手に俺の金を...」


「ラクス様の口座はサラ様との共同口座ですから」


「そうだったな」


 確かにそうだった。

 万が一、俺が死んだら弔慰金が支払われる。

 身寄りの無い俺だから、サラにやろうと考えてだったが...


「取り返せるか?」


「...まあ手続きさえすれば」


「頼む」


 例え王族であろと、この国では罪は裁かれる。

 それなのに、なぜサラはこんなバカな真似を。


 部屋を出た俺は自室へと戻る。

 この事を国王陛下は知っているのだろうか?

 一向に現れる事の無いサラ、実の娘なのだから、知らない筈は無いだろう。

 陛下に対する不信感が沸き上がった。


「ん?」


 深夜遅く、部屋の外に感じる気配。

 それは明確な殺意、やはり来たか...


 愛用の杖を手にする。

 剣は握れない、杖を振り、中に仕込んである抜き身の刃を出す。

 せめて一太刀だけでも。


「なんだよ起きてやがったか」


「本当、しぶといわね」


 蹴破られた扉の中から現れたのはカリムと、


「...サラ」


「気安く呼ばないで、化け物が」


 予想通りの二人。

 約4年振りに会うサラ。

 表情は醜く歪み、もう俺の知るサラでは無かった。


「死んで貰うぜ」


 カリムが剣を構えるが、隙だらけ。

 こんな奴に殺されるのは真っ平御免だ。


「死ね!」


「フッ!!」


 カリムの剣を躱し、素早く体を入れ換える。

 自分でも嫌になる位緩慢な動きしか出来ない。

 なんとか仕込み杖でラクスの身体に...


「...ダメか」


 やはり無理だった。

 不具の身体では傷1つ奴に負わす事は出来ない。


「アブねえ、アブねえ」


「本当。死に損ないの癖に」


 ニヤつく二人。

 これは不味い、いや詰んでる。

 俺の体力はたったこれだけの動きで、尽きようとしていた。


「この事を陛下は知っているのか?」


「知らねえよ、上手く帳簿は誤魔化してやったからな」


「最後だから教えてあげる。

 父上は知らないわ、さあ死んで」


「そうか...」


 陛下は知らなかったのか、それなら良い。

 俺は手の平で握っていた仕込み杖を投げ捨てた。


「あばよ化け物!!」


 カリムの剣が俺に迫る。

 もう思い残す事は...


『ハリスはどうしているだろうか?』

『仲間達は?ミッシェルはどうしてるんだろう?』

 脳裏には様々な事が浮かんだ。


「ギャアア!」


「アアア!!」


 突然カリムとサラが吹き飛ばされる。

 これは間違いない、アイツの魔法だ。

 何度も助けられた、間違う物か...


「すまん、遅くなった」


「...ハリス」


 蝋燭の光に照らされたハリスの姿。

 フードを下ろした美しいハリスの表情に魅入られてしまう俺だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作ありがとうございます 相変わらずクズが酷いことをするシーンは 本当にクズを憎たらしく描かれますね 今回もクズに相応しい、いやそれ以上の ざまぁを期待しております 作者様に感謝
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