おんがく!
夏休みによく千夏は祖父母の家に徒歩で行っていた。
祖父母の家には、父親の兄弟たちが大学時代によく演奏していたであろう楽器がたくさん置いてあった。
ギター、ベース、キーボード、ドラムなど人数さえそろえばバンドが結成できるようなラインナップがあった。
なんと祖父母の家には完全防音の楽器を演奏するための部屋があった。
その部屋の中には楽器に関する本や楽譜が多く本棚に保管されていた。
よく千夏は祖父母の家に行った際によくその部屋の中に入らせてもらい、楽器を演奏していた。
千夏が明久だったころは全く楽器を演奏したこともなく、触ったこともなかった為、千夏はとても興奮していた。
千夏は楽器の中でも特にベースとドラムが好きで、その楽器に関してはすぐ演奏できるまでに上達した。
夏休みのある日、従妹の綾女が祖父母宅に滞在しているときに防音室で千夏がベースで好きなJ-POPの曲を演奏していると綾女が防音室に入ってきた。
綾女は、入室すると、
「すごいね!ベースがこんなに上手な小学校一年生は見たことがない!」
と、千夏の頭をなでながら言った。
千夏はそれがとてもうれしかった。
綾女も実は楽器を演奏するのが得意であった。
綾女が特に得意だったのはギターだったため、その日以降はよく二人でJ-POPの曲を演奏していた。
綾女は、高校・大学と軽音楽部に所属しておりよくリードギターを担当していた。
リードギターをしつつ、よくボーカルをしていたという話を以前綾女から千夏は聞いたことがあった。
千夏は、綾女の歌声が聴きたくなったので、
「綾ねえの歌声聴かせて!」
と、頼んでみることにした。
綾女は少し考えた様子で、首を縦に振った。
綾女は防音室内にあるCDを取ってきてラジカセに入れた。
ラジカセから聴こえてきたのは、すごく綺麗で透き通るような綾女の歌声であった。
綾女の歌声に感動した千夏は、
「綾ねえは歌手になれるんじゃない?」
と、言った。
すると、一瞬綾女は表情が曇った。
綾女は少し間を取り、
「実は歌手のオーディションに参加したことがあるんだけど・・・」
と言った。
千夏は驚いた。
こんなにきれいで透き通るような歌声でも歌手になることが出来ないのかと…
少し両者の間に沈黙が流れた後、綾女は
「じゃあ演奏の続きしようか。」
と言った。
千夏はその時の綾女の顔を見た。
すると、少し悲しげな表情だった。




