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14.愛し子

麗らかな春の休日、カオルコは今年生まれたばかりの甥っ子に会いに兄夫婦の部屋を訪ねた。

今や家中のアイドルとして崇められている赤ん坊はお昼寝の真っ最中で、夫婦は寄り添ってその寝顔を眺めながら、どちらに似るだろうかと互いの顔を見比べている。


すぐ傍にはいつもの侍女たちが控えていて、ネネの方は「イブシ様はご予定より早くお生まれになった分、仕事運は少々下降気味デスが恋愛運が大幅に上昇するのデス!」などといまだに占い師ぶっている。

最近は見当違いの発言も増え、それを取り繕おうとして却って誤りもするので、兄も騙されていたことには気付いたようだ。

それでも愛しい我が子の誕生を思えば「この子は間違いなく愛されて幸福になるために生まれてきた命。そのために必要な結婚だった」と納得するので、ネネを責めたりはせず、寧ろハネ共々特別に情を掛けている。


妊娠中はあれほど苦しんで夫を恨んだり実家を恋しがったりしていたヒナコだが、一度体の外に出してしまえば後は乳母たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので、今ではすっかり安心して委ねている。

苦労して産んだ我が子を家中の誰もが褒めそやし、またそれを自分の功績と称えてくれるので、今ではすっかり得意げな様子だ。

周囲の勧める習い事にも凡庸なりに伸び代を見出し、誰のためでもない自身のための自分磨きに向上心を持って励むので、最初に思っていた人物とは別人のようだ。

そのように扱っていれば、最初に兄が信じていた偶像に自然と近づくこともあるのだろう。兄も休日には家庭教師を務めている。


努力したことを認められたり、努力の成果を褒められたり、適切な承認欲求を満たすことで自己肯定感を得て、健全な主体性は育つのだろう。

自我を得てやっと自身の幸不幸について客観ばかりでなく主観で考えることができ、個人の真の幸いを探究できるようにもなるはずだ。

ヒナコがどこまでそうした理想に近づけるのかはわからないが、カオルコは自身がそうした人物に憧れるものだから、つい自己投影的な期待もしてしまう。


偽りが発端の結婚だったとしても、何はともあれ、赤ん坊の存在がこの家族を良い方向へ変えてくれたようだ。

自身もアトリとの間に子供が産まれれば、心が救われることもあるだろうか?

そんなことも考えつつ、カオルコは小さな手の平に自分の指をのせて、握ってくる感触に頬を緩ませていた。

今はまだ小さなその手も、いつかは大きな幸せを掴むようになるのだろう。



イブキの息子のイブシ

紛らわしい

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