0.海開き祭の午後
0話だけ本編「7ー4.白か黒か」直後の話で、あとはカオルコたちの若い頃の回想になります。
回想はドロドロしてたり胸くそ悪かったりするものも多いです……
たぶん1番長い話なので2023/09/04時点では途中までしか書けてません。続きは年内予定。
ダイヤの月、海開き祭の午後。
温泉宿の居住棟、夫婦の寝室。
「ニナ……ニナっ……!」
「ダーリンっ♡♡」
むちゅうううう…………
賑わう浜を抜けて今は無人の宿へ帰った夫婦は、家族の居間へ続く襖も中庭へ続く障子も開け放ったまま、熱い肌の上で互いの汗を混ぜ合わせるように身を擦り合わせていた。
吹き抜ける風と蝉の声、今日1番高い位置にある太陽。開放感が内と外の境界を曖昧にするひととき。
その中で繰り返される長く深い口付けに溺れながらも、各々は明瞭に思考することがあった。
「ダメじゃないか、ニナ……約束を破って僕以外の男の前でこんな姿になるなんて」
「あらあ? でもこれ、ちゃんとした水着ですよお?……ほら、念のため二重に着てるんですから。この中はダーリン以外の男の人には絶対見せないわよ〜」
「それでもだ。水着姿だって見せたくないんだよ」
「あらあら、うふふ♡」
白いモノキニをズラし、内側に着込んだ金色のビキニの紐を悪戯っぽく引いて見せるニナ。
そんな妻の扇情的な振る舞いに、カヅキは複雑な感情の入り混じった溜め息を吐く。
……先刻は都会から来た魔脈管理士の若者さえも妻の水着姿に釘付けになっていた。
きっと彼も妻の体を思い浮かべて耽ることがあるだろう。若い頃の自分なら必ずそうしたに違いない。
魅力的な美人妻が自分以外の男の情欲を掻き立て、勝手な妄想の中で犯されることは実に口惜しいことだ。
しかし村中の男たちがどんなに妻を夢に想ったところで、実際に触れることができるのは夫である自分だけの特権なのだ。
その権利を存分に行使して得られる優越感を慰みとすれば、妻の行いを赦すこともできよう……
そんなことを思いながら、カヅキはより一層きつくニナの体を抱き寄せた。
平時より余裕の無い夫の様子に、ニナは自分の企みが上手くいったことを喜ぶ。
実のところ、ニナはわざと露出度の高い姿を衆目に晒すことによって、独占欲の強い夫の嫉妬心を煽りたかったのだ。
他の男たちにとっての自身の価値を高めれば、自ずと夫にとっての自身の価値も上がること。それをニナはよく心得ていた。
元々ニナは貞操観念の厳格な水の国の出身で、本来の性格は色っぽく振る舞うのが苦手な清楚で初心な乙女であった。
それでも、出会った頃のような若さが失われていく中、夫の気を引き続けるために演じることを身に付けたのである。
だが、情熱的な抱擁と口付けの割に、夫はなかなか妻の水着を脱がそうとはしない……正しくは、水着の上に羽織った借り物の白衣を。
「ダーリンは脱がせるのが惜しいですか? カオルちゃんの白衣」
「……脱がすのは惜しいよ、ニナの水着がね」
「フフッ……今度『3人で』ってカオルちゃんも誘ってみましょうか?」
「よしてくれよ。君から言っても僕が殺されてしまう」
「フフフ……」
正妻のカオルコと内縁の自分、そしてそれぞれに産ませた娘たちをひとつ屋根の下に置きながら、表向きは自分を唯一の妻と扱い、モモを一人娘、カオルコを兄の未亡人、サクラを姪と偽装……
そんな歪な家庭で夫が真に望んでいるものが何か、ニナはとっくに見抜いている。
勿論カオルコもだ。
一応地の国番外編なのにこの後の回想ほとんど島国編という矛盾