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0.セスと村長

クリソベリル編は0話が地の国本編後、1〜10話が地の国本編よりずっと前の回想になってます。


ぱしゃり……ぱしゃぱしゃ……


初夏の村長邸中庭に、楽しげな水音が響いている。


「村長さん、水遊びですか?」


「にゃ! これはセスさん、今日はにゃんの御用ですかにゃ?」


セスの声に村長は三角耳をぴょこんと揺らし、噴水に浸けていた後足をいそいそと引き抜く。

そのまま立ちあがろうとしたのだが、その前に客人も噴水の縁に腰掛けたので、今度は噴水の外側に体を向けて座り直す。


「周辺魔脈の定期調査報告書が出来たんで届けにきたんです」


「それはご苦労様ですにゃ! にゃにゃ……」


受け取る前に爪に引っかかっていた草を払おうと、前足をまごつかせる村長。

その可愛らしい仕草に、思わず笑ってしまうセス。


「書類はもうメイドさんに渡して書斎へ運んでもらいましたよ。ここへは挨拶に寄ったんです」


「そうだったのですかにゃ。では、後でしっかり確認させていただきますにゃー」


「はい、お願いします。ところで……今日は随分と珍しい恰好ですね」


「にゃあ……実は、正体を知られてからというもの、勝手に色々作って着せたがる人たちがいるんですにゃ……」


ちょっと困ったように髭を引き攣らせた村長の姿を、セスは改めてまじまじと見た。

セスが魔脈管理士として初めて村へ来た頃には、魔獣であることを隠すために夏でもローブに仮面装備だった村長。

だがその正体がバレて以降、村の外部の人間には漏れないよう注意しつつ、時々は真の姿で寛ぐようになったのだ。


そんな村長が、今日はピコレースの縁取りがされたピンクのサマーワンピースを着て、頭には服とお揃いのリボンまで載せている。


「村長さんって、メスだったんですか?」


魔獣相手とはいえ、セスは無神経かつ無遠慮に訊ねた。

幼馴染のネリアが居れば即座にデリカシー云々というツッコミを喰らっていただろうが、生憎かつての相棒は帰国して久しい。

しかしながら、幸いにして村長はこの手の質問を失礼とは思わない側である。


「違いますにゃ」


「ではオスなんですか?」


「それも違いますにゃ」


ぱっちり開いた大きな目は逸らさず、村長はふるふると頭を横に振る。


「ワタシに性別は無いのですにゃ」


村長は体の前で前足をちょこちょこ動かしながら付け足した。

口と一緒に手も無意識に動かしがちなのだ。

着衣時の村長はよく長い袖をゆらゆらさせながら話していたな、とセスは思い出した。


「村長さんはケットシーの亜種とかではないんですか?」


「違いますにゃー。ワタシは神様が特別にお創りになられた卵から生まれた、世界にたった1匹しかいない珍しい魔獣なのだそうですにゃ」


「そんな話、誰から聞いたんです?」


「旅人さんですにゃっ!」


「旅人さん⁇」


「にゃ‼︎ 旅人さんはワタシが生後最初に出会った人間さんで、一緒にあちこち旅しながらワタシに色々な知識を授けてくれたのですにゃ! 今日のワタシがこうして居られるのも、旅人さんのおかげあってのことなのですにゃ! 謂わばワタシの人生の恩人ですにゃー!」


目をキラキラと輝かせ、声を弾ませ、心底嬉しそうに語った村長。

その様子は、行方不明になった師匠の話をするときのピアに似ている……とセスは感じた。


「……似ているかもしれにゃいですにゃ……」


「えっ⁉︎」


「旅人さんとセスさん、なんとなく似たものを感じるのですにゃ……にゃっ‼︎ そうですにゃ! セスさんは魔脈管理士としてこの村の危機を救ってくれたのですにゃ! その活躍たるや、正に物語のヒーローと言っていいはずですにゃ……」


「いやあ、それほどでも〜。ははは」

得意そうに照れたセスに反し、村長は深刻そうに顔を曇らせる。


「にゃにゃにゃ……ひょっとしたらセスさんにも、旅人さんと同じ『主人公補正の加護』と『プレイアブルの呪い』がかかっているのかもしれませんにゃ……」


「なんですそれは?」


「主人公補正がある人は、簡単に人に好かれてモテモテになったり、普通の人には起こせない奇跡を起こしたりできるらしいのですにゃ」


「そりゃいいものですね」


セスは信じるわけでもなく、気楽に返事をした。

そんな補正があるならステラ以外にもモテてよかっただろうに、結局ネリアとの関係は発展することも無く、ましてや他の女性たちから特別な好意を寄せられた例が無い。


「とんでもないですにゃ! その補正のある人は、同時にプレイアブルにもかかっているのですにゃ! プレイアブルの呪いは、『異世界の祈り手』に存在を乗っ取られてしまう恐ろしい呪いなのですにゃ! 旅人さんは、祈り手たちのいる異世界はもう滅びてしまったと言ってましたにゃ……でも、やっぱりワタシはまだ心配なのですにゃ……」


「そりゃ困りものですね」


やはりセスは信じるわけでもなく、気楽に返事をした。

おそらくその旅人という人物は、天使を自称するアリスと同じような性質で、純粋な村長はそうした事実無根の作り話を真に受けてしまっただけだろう……と、セスはそう考えたのだ。


偶にアリスから体術の稽古をつけられているセスは、前回自分が投げ込まれた植え込みはどれだったかな、と探し始めた。

そうしながらも、表面上は村長の憂い事に付き合うフリをする。


「大丈夫ですよ。旅人さんの言う通り、そんな世界は滅びたに決まってます。心配しないで……」


セスは適当な言葉をかけつつ、村長のふわふわの体毛やプニプニのピンクの肉球を撫で回した。

すると村長はすっかり蕩けて、「ごろごろにゃ〜ん♡」と甘ったるく鳴きながら戯れついてくる。

実に可愛らしい生き物だ。


「セスさん、セスさん、ワタシの体毛は何色になったら良いと思いますかにゃー?」


「今のままでもいいと思いますけど。染色の予定でも?」


「いえいえ、そうではにゃく……ワタシは換毛期に体毛の色を変えられるのですにゃ。換毛期1回では色だけですが、2回経れば模様も変えられますにゃ! 最近は特に何色になりたいとも思ってなかったから真っ白くなってたのですが、この次はセスさんに選んで欲しいのですにゃー」


「責任重大ですね。すぐには決めかねるので、次に会うまでに考えておきますよ」


「待ってますにゃん♡」


「これも浮気にカウントされてしまうのだろうか?」などと苦笑を浮かべたセスは、最愛のステラに新しい蜂蜜を買って帰る約束をしていたのを思い出し、村長モフモフタイムを早々に切り上げることにした。

そんなセスを、村長は名残惜しそうに中庭出口まで引っ付いて見送った。



セスは地の国本編の主人公で、クリソベリル編での出番はこれだけです。

名前だけ出たステラは地の国本編のメインヒロインです。

同じく名前だけ出たネリアとピアについては、それぞれ別キャラの番外編で後日談を書きます。

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