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12.恋人に触れる

ダイヤの月。

カイルもシドも夏の間は漁を休み、海の家を営業することになった。

開店するのはイサナたちの父親が死んで以来のことである。

カイルが接客担当。シドは厨房担当。疲れやすいイサナも、シドを補佐する。

営業期間中は3人の生活拠点も海の家になり、姉弟も朝食前から来て、夕食まで済ませて帰ることになった。


結果、海の家は連日の大盛況。

イサナの両親の古い知人たちが懐かしんで来てくれるのもあるが、その他に新規客層の取り込みに成功したからだ。

と、いうのも……


「おいシド、少しでいいからお前も接客に出ろ」


「はァ? オレは読み書きできねぇから、注文なんか取れねぇぞ」


「偉そうに言うな。……お前目当ての客がうるさいんだよ」


「キャーー‼︎ シドーー‼︎」

「こっち向いてー!」

「ファンサして〜〜!」

「筋肉見せてーー‼︎」


「ま〜たあいつらかよ……」


海開き祭の競泳大会では強化魔法無しでもぶっちぎりの優勝! 沖で溺れた少女を颯爽と救助! 経歴不明のミステリアスな余所者!……という話題になる要素満載のシドに、村の若い娘たちによる小さなファンクラブが出来てしまったのだ。

せっかくの休憩時間もほとんど彼女たちにシドを奪われ、当然イサナとしては面白くない。


「さっきの、まだ10代の子たちばかりだったわ……」


「モテる男が恋人なのは自慢できるだろ? 胸張れよ、隠れ巨乳」


「お尻を触りながら言わないで」


「⁇……恋人ってのは触れたいと思うもんじゃないのか?」


「ムードってものがあるんです!」


「そんなもんわかんねぇよ、オレは誰かと付き合ったことなんかねぇから……」


「えっ……シドもそうなの⁉︎」


「ああ。相手っていうと、ずっと娼婦ばっかだったからな」


「………………」


溌剌とした水着の美少女たち、肉体的に繋がった夜の女たち……現在進行形の恋敵、過去完了形の先人……

嫉妬の炎を燃やしたイサナは、シドに冷たい態度をとったまま、その日の営業を終えた。その夜……


***


コン……コン……


…………ガチャリ


「…………シド、もう寝てるの……?」


イサナはカイルに黙ってこっそりと海の家へやって来た。

今日は機嫌の悪いイサナがカイルと共に夕食前に自宅へ帰ったため、シドは久々のぼっち飯を摂った後、食器も片付けずに食卓にうつ伏せていた。

点けっ放しの明かりが横顔に降り注ぎ、眩しそうである。


「………………」


早く仲直りしたくて食後のデザートを持ってきたイサナだったが、厨房の明かりを点けて冷蔵庫にデザートを入れると、シドの真上の明かりは消し、起こさないようにそっと食器を回収した。


カチャカチャ……ザザーーーー……キュッ


かきかきかき……


食器も洗い終えたイサナは、シドを起こさずに書き置きを残していくことにした。

眠りやすいように、けれども夜中に目を覚まして真っ暗でないように、程よい薄明かりを調整すると、イサナはシドの顔の横にメモを置いて帰ろうとした。

そのとき、不意にイサナの手をシドが掴む。


「…………起きてたの?」


「書き置きなんかしてもオレは読めねぇよ」


「そうだったわ……ごめんなさい。私ったら、つい……」


「教えてくれよ……ここに書いてあるだけじゃなくて、読み書きってやつを一通りさ。明日から店の休み時間全部使って、イサナがオレに」


「⁉︎……ええ、勿論! 約束よ! 絶対サボらせないわっ」


「ああ、望むところだ。……今日はもう帰るだろ。送ってく」


「うん……ありがとう」


「……なぁ? 今は触れていいムードか?」


「うん……そうね、たぶん」


「…………」


シドは自分の唇でイサナの唇に触れた。



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