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7.決死

曇天の霧深い海。

娼館へ女たちを売った翌週、早くもツナの目標を達成する絶好の機会が巡ってきた。

それは同時に、オルカ船長にとっても悲願を叶える絶好の機会であった。


「ひゃーははははは‼︎‼︎ 会いたかったぞ、元同胞たちー‼︎ 今日という今日は、私がお前らよりいかに有能な魔導士であるか、存分にわからせてやるーー‼︎」


猛り狂うオルカ船長。その杖で指す先には、火の国の軍艦。

内陸の工業大国である火の国が、海に面した貿易大国である水の国と技術提携して造ったものだ。

先程まで商船に擬態して待ち伏せていたが、既にオルカ船長の魔法によって擬態を解かれてしまった。


海賊船オルカ号の蛮行は既に軍から指名手配される程になっており、直前の寄港地から軍に情報提供があったのだ。

情報提供元は、取引した商品状態に不満のあった娼館である。


キイイイイーーーーン……


耳鳴りのような不気味な音と共に軍艦上空に魔方陣が現れたと思うと、音を置き去りするような速さで、無数の光線が雨のようにオルカ号へ浴びせられる。


「ははははっ! この日のために大金注ぎ込んで用意した最高魔防装備の船だ。効かぬ‼︎ さあ、こちらからもゆくぞ……まずは例の物だ。撃て撃てーー‼︎」


オルカ船長は対軍艦用戦闘指令室で杖を振り回しながら、魔動機操作に長けた精鋭の古参船員たちに反撃指示を出していく。

普段の商船や海賊船相手にはオルカ船長自身の魔法で充分なのに、わざわざ対軍艦用に整えておいたのだ。


ギューーーーーーン……バリバリバリバリバリ……


軍艦もオルカ号がただの海賊船ではないことに気付いたが、遅かった。

オルカ号が真っ先に撃ち込んだのは、範囲内の魔動機を狂わせる特殊な魔術式を込めた弾だったのだ。

魔術式の効果時間は短いとはいえ、戦況を決めるには充分。

まさか海賊船如きがそんな攻撃をしてくると思わなかった軍艦は、その後も続くオルカ号からの集中砲火に一時撤退するより他なかった。


「ざまあみろーー‼︎ 愚かにもこの天才オルカ様の実力を認めなかった軍のバカどもめー! お前らなんか皆殺しだー! 逃がさないぞーーぅ‼︎」


歓喜のあまり幼児退行気味のオルカ船長は、ぴょんぴょん飛び跳ねながら追撃指示を出す。

あの軍艦に乗っているのがかつての上司である可能性は極めて低いのだが、とにかく軍人を殺せさえすればいいらしい。

それなら海賊になるより国内で活動すればよさそうなものだが、軍の本拠地がある大陸上で喧嘩を売って勝ち目なんてあるわけがない。

海でだって、勝てるのは初見殺しの効く今回だけのはずだ。続くわけがない。


それでもツナはこの次なんて待つ気は無かった。

皆が外の戦闘に気を取られている船内を、ツナは動力室へ駆けていく。

普段はオルカ船長が直通通路のある船長室にほぼ引きこもっている上、夜間は厳重に見張りが置かれる。

騒がしくて一気に動ける上、オルカ船長もすぐには来られない今を逃す手はない。

ところが……


ビュッ‼︎


動力室まであと一歩というところで、投げナイフがツナの横顔を掠めた。


「信じてたぜ、ツナぁ……お前は絶対に裏切るってなァ‼︎」


「マーリン……」


「お前が何を企んでやがるか、俺はとっくにお見通しなんだよ。この俺を差し置いてあの人に皆を託されておきながら、お前は本当に薄情な男だなァ⁉︎ み〜んな殺しちまうんだろ? あの人のことも顔色ひとつ変えずに殺したもんなァ‼︎」


「ガレオス船長が処刑役にあえてオレを指名したのは、お前じゃ殺せないと思ったからで、あの人が本当はお前を1番大事にしてたからだ」


「そんなこたぁわかりきってんだよ、バァァカ!」


マーリンが元ガレオス号船員の誰よりも早く殺人に慣れたのは、実のところ、ガレオス船長の処刑役に選ばれなかった悔しさからであった。

マーリンは二刀流で勢いよく挑みかかってきたが、ツナはヒラリと上を跳び超え、背後からあっさりとトドメを刺した。


「悪いな、マーリン。お前じゃオレは倒せない」


「……そんな、こたぁ……わかり、きってんだ、よ……バァァ、カ……」


事切れるマーリンには目もくれず、ツナは扉を蹴破って動力室に飛び込んだ。

中にいた数名の技術船員を速やかに始末すると、手当たり次第に魔動機のレバーを押し上げ、ボタンを押しまくる。

そのどれかは使用中の魔導砲に繋がるものだったのだろう。

出力が上がり過ぎて暴発した振動が船全体を襲い、傾いた船内が煙と叫び声に満たされていく。


「ははっ! 魔動機のことはよくわかんねぇけど、壊れたらやべぇってのは間違いねぇよな」


最後にツナは船の動力炉にありったけの魔石をぶち込み、大爆発させた。

瞬間、ツナの視界は真っ白になり、真っ暗になり、音は何も聞こえなくなったが、全身は冷たさを感じた。

生きているのか死んでいるのかわからない夢の狭間で、ツナはオルカ号を船ごと皆殺しにする目標を達成したのだと満足していた。


これで終わりだ。罪の重さで船は沈む。

みんな死ぬ。オレも死ぬ。死ねば全部消えて無くなる。

罪も後悔も海に洗い流されて、やっと解放される。存在は無になれる。


死のもたらす終わり、消滅という救い、赦し。

少女殺し以来不眠気味だったツナは、ようやく安堵して眠りについた。

それでもう目を覚まさなくていいはずだった……



海賊編終了。ひとまず今月はここまで。

来月は上旬と下旬の2回に分けて後編を更新予定。

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