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7.何処にも無い場所の「ああああ」


クリソベリル……クリソベリル……どうか死なないでおくれ。


本当は楽にしてあげた方がいいのかとも思ったけど、たとえ転生できても見つけられないのかと思うと怖くてできなかった。

こんなに誰かを失いたくないと思ったのはいつぶりか、もう思い出せないほどだ。


でもこの確かな恐怖こそが、僕にも心があると思い出させてくれている。


僕は以前、今の世界よりも前の世界から来たと言っただろう?

僕はね、理想郷と呼ばれるその世界で、主人公として何度も人生をやり直させられてきたんだ。

あるときは男として。あるときは女として。


クリソベリルは性別が無いけど、僕は両性を切り替えながら生きてきたんだ。

女の一人旅は男のそれと比べて物騒だから、今は男でいることの方が多いけれど。


前の世界で僕には『主人公補正の加護』と、『プレイアブルの呪い』がかけられていた。


主人公補正というのは、簡単に人に好かれてモテモテになったり、普通の人には起こせない奇跡を起こしたりできる加護だ。

一見良さそうな加護だが、この加護は僕自身のためには使われない。

この加護のある者は同時にプレイアブルという呪いにもかかっていて、『異世界の祈り手』に存在を乗っ取られてしまう。

加護はこの祈り手たちのためのものだったんだ。


乗っ取られている間、僕は『僕』が僕の望まない行いをするのを許し続けるしかなかった。

どうにか抵抗して自身を固まらせてみても、気絶と繰り返しが待っているだけだった。

諦めるより他の選択肢を持たなかった。


僕は心を殺した。そんなもの、操り人形には不要だったから。


主人公様というのは他者の運命に割り込む権限を持っていてね、誰かが就くはずのポジションを奪ったり、誰かが結ばれるはずの相手を奪ったりできた。

努力してきた人でも重責を負った人でも容易く蹴落とし、他者の幼馴染でも婚約者でも軽率に寝取った。


自分のものは自分のもの、他人のものも自分のもの、世界の全てが自分のもので当たり前。侵略も掠取も呼吸に等しい。

逆に自分が同じようなことをされれば、それが普段の自身の行いだと気付くことすらなく、被害者面して正義の名の下に過剰な報復を望む。


どれだけ端役や敵役を不幸にしようとも、主人公様は自身に都合の良い者たちだけを救って正義とたたえられた。

幸せにする天才であり、不幸にする天才。自分の周りだけ栄えさせて、対岸を焼け野原にしていた。


己の視点しか持たず、他の視点で考える能力が欠如している。

それを糺してくれる他者のいない世界で、無自覚の暴君は心を麻痺させ増長していくばかりだ。

叱ってくれる者のいないことが、いかに孤独か知らないままに。


むしろ真実や正しさなんてものは邪魔なのだろう。

自分を肯定するためには、どんな詭弁でも塗り固めるのだから。


主人公様に見えている世界が全てで、主人公様の正義が全て。

主人公様の価値観は単なる主観ではなく、理想郷の世界観そのものになり得た。

異世界の祈り手たちは独我論の申し子とでも言うべき振る舞いで、そんな理想郷を引っ掻き回して消費した。


そんな祈り手たちの異世界は、もうとっくに滅びてしまったようだけど。


もしかすると……祈り手たちが僕たちの世界でしてきた身勝手な振る舞いは、そんな滅びてしまうような異世界側で受けた歪みの反動だったのかもしれない……

報われない努力や一方通行の想いの辛さを知った上で、己の心を守るために自己愛を拗らせるしかなかったのかもしれない……

哀れな愚か者たちは、投影先である僕に助けを求めていたのかもしれない……

世界を救うよりも、自身が救われたくて……ずっと、苦しみながら祈っていたのかもしれない……最初から最後まで。


……僕の側から祈り手たちの実情を正しく認識することはできなかったから、憶測に過ぎないけどね。


僕自身にとっては理想郷ではなかったけれど、前の世界自体はなかなか面白いものだったよ。

天空時計からのログボを日々の楽しみにしてみたり、各エリアの端から端までマッピングしたり……戦いは好きじゃなかったけど、観光や作業は好きだったな。

思うに僕自身は主人公に向かないモブ気質だったんだろう……他人の運命に干渉するのは、怖かったもの。


そうそう……クリソベリルを初めて見たとき、本当は凄く警戒していたんだ。

何せ理想郷で僕が戦ったラスボスの黒幕キャラというのが、猫の姿をしていたからね。

神は何故そいつに猫の姿を設定したのだろうと疑問に思っていたけど、クリソベリルと過ごして謎が解けたよ。

単純なことだ…………猫は、可愛い。きっと神のお気に入りだったんだ。


……古くなった前の世界が取り壊されるとき、主人公だった僕は一旦廃棄エリアに入った後、特別にこの世界に転生させられた。

『旅人』という、呪いをかけられて。



プレイヤーのLとRのスペルはリアルで間違えたことあります(´・ω・`)

旅人さんも間違えて祈り手と訳してる感じです。


うろ覚えですが昔とある育成ゲーム(親が隠し持ってたやつ)で、悪魔と契約したり別の冒険者殺したりして所持金稼いで、その金で習い事たくさんしてステータス上げて大会で優勝しまくって、大金持ちになって最後に教会に寄付してカルマ値0にする……っていう鬼畜プレイしてたの思い出しながら今回の話書きました(´・ω・`)


旅人さんの話す理想郷は↑の育成ものとは全く別ジャンルのRPG設定です。

理想郷についての具体的な話は今のところ書く予定は無いので「王道RPGを鬼畜プレイしてた人がいた」くらいの認識で読んでもらえたらと思います。

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