19.5.ネリアパパモノローグ
ジャン視点では地獄のようだった夕食場面のネリア父視点答え合わせ
夜。ネリアの実家、食堂。
「……………………………………………………」
ひぇ〜〜、ネリアちゃんの彼氏すっごいイケメン……やっぱ女の子はこういう男の子が好きなのかぁ。
最初に半獣人って聞いたときは、ついオークみたいな子を想像しちゃってたよ。それはそれで強そうで頼もしいんだけどね。
……うーん、でも表情硬いなぁ。やっぱ緊張? それとも不機嫌? 急にデートの邪魔しちゃって悪かったよなぁ……ごめんね?
でもせっかく地の国からわざわざこっちに来てるのに、家に呼ばないってわけにもいかないよねぇ⁇
嫌ってると思われるのも嫌だし、何も知らないと思われるのも嫌だし、一応ちゃんと知ってるし気にかけてますよーってのは示しとこうって思ったんだよ、駆け落ちなんてされたら困るし。
今後のこと、どうするのかはちゃんと相談してくれれば協力したいんだから。
とはいえ下手に干渉して変な感じになったら困るし、でもどんな子なのか確認したいし、助っ人として急遽セスくんにも来てもらったけど…………
こんなキラキラした若い子達に囲まれて、儂みたいなしわしわジジイ何話していいかわかんないッ! 肩身狭いッ! 自分の家なのにッ!
はぁ……ネリアちゃんの選んだ男なら信用したいところだけど、資料や伝聞だけじゃ腹の底は見えない訳だし……
自分にとって善か悪か、敵か味方か、はっきりラベリングされてれば対応を迷わないんだけどねぇ。
見極めてないのに甘やかして舐められる訳にもいかないからなぁ。本当はもっと愛想良くしたいけど、ここは威厳のある態度でどっしり構えておくべきだよね⁇
そもそも今更、人に見せられるような笑顔なんてジジイわかんないもん……
ずっと昔、部下たちから『笑った顔が不気味でキモイ』とか『余計な話が長くてウザイ』って陰口叩かれてるの聞こえちゃって……
以来、人前で笑ったり話しすぎたりしないようにしてて、そしたら今度は『いつも怒ってる』とか『何考えてるかわからない』って怖がられるようになっちゃって……
上に立つ者としてはその方が箔が付いて都合良いか……なんて諦めてたら、目が合っただけで睨んでると誤解されるし、陰で『魔王』なんて渾名付けられてるしッ‼︎
『不機嫌ハラスメント』なんて言葉に怯える日々だよ、もうッ‼︎
顔が怖いのを罪にしないでッ……だって儂、本当はただのメンタル弱い強面コミュ障ジジイだもの。
「……………………………………………………」
……でもさァ、ジャンくんだってもうちょっと打ち解けて話してくれてもいいのに! さっきからネリアちゃんばっか気を遣って話してるのどうかと思うよ⁉︎
………………まあ、でも、このくらい大人しい方がいいのかも。
今まで向こうから縁を求めてくる相手って必ず別の下心あったし、口の上手い相手ほど信用できないからなぁ。
……以前ネリアちゃんの婿養子にいいな〜って考えてた若者は、礼儀正しくて良い子だったけど腹の底は見えないタイプだったなぁ。
周りから逆玉狙いだって虐められてたみたいで可哀想だったし、儂も不安になっちゃって、人員不足してた僻地に回したら失踪しちゃって……
ネリアちゃんもよく懐いてたから、それについては誤魔化したけど。まあすぐに歳の近いセスくんを気に入って、消えた彼のことは聞いてこなくなったんだけど。
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儂も話すの苦手だし、こうやって目を見ているだけで心の奥まで解り合えたらいいなぁ。『目は口ほどに物を言う』とも言うしさ。
……ジャンくん、ジャンくん、聞こえますか? 今、君の心に直接語りかけています……な〜んちゃって⭐︎
「でねっ、パパ! 彼ったらダンスだけじゃなくてヴァイオリンもすっっごく上手なの! 弾いてる姿も素敵で惚れ直しちゃった〜〜♡ 指も長くて綺麗で……」
えーっ! すっごーい‼︎
楽器のできるイケメンとか、もうそれ最強じゃん! ジジイもときめいちゃうよ⁉︎
それにしてもネリアちゃん、本当にジャンくんのこと大好きなんだなぁ。
2人はもうキスとかしたのかな? でもそんなこと聞いたらセクハラになっちゃうよね。
ホテルは一緒に泊まったって聞いたけど、まさかその先は早すぎるからまだだよねー。
「あの素晴らしい演奏、パパたちにも聴かせたいな〜。食後にどうかなっ? 勿論演奏してくれますよね♪」
「⁉︎ お聞かせできるようなものでは……」
「館長夫人の前でもそう言って謙遜した後、プロ級の腕前を披露したそうじゃないか? さっきネリアから聞いたぞ〜。俺も是非聴いてみたいな!」
「セスが聴くならパパも聴くよね。ねっ、パパ?」
聴きたーい!……でも儂、音楽のことなんかさっぱりわからないし……気の利いた褒め言葉なんて出てこないしなぁ。
ジャンくん明らかに緊張してるのに、無茶振りしたら可哀想だよなぁ。明日は帰国だし、きっと早く寝たいはず。
うん! ここは空気を読んでちゃんと断ろう!
「遠慮しておこう」
「え〜〜」
「明日も仕事で朝早い」
「そっかぁ、残念……パパ、お仕事頑張ってね♡」
「うむ」
残念だけど、その方がジャンくんの為だもの! 儂ってば気遣いのできるジジイ!
「ネリアたちが参加したパーティの規模には到底及びませんが、俺がいる村でもこの季節には広場で色々と催しがあるんですよ。月見祭や収穫祭、少し前には旅の劇団が芝居をやったり。今月末には精霊祭もあって、毎年教会の神父さんが作るお菓子が好評で……」
セスくんの住んでる村、儂も行ってみたいなぁ。忙しいから無理だよなぁ。
あの美しくて優しい神父様にまたお会いしたいよ。流石にもうお爺ちゃんになってるだろうけど……
ガチャン!
「っ……申し訳ございません……」
あわわ⁉︎ ジャンくん、グラス倒しちゃった!……ワー、この世の終わりみたいな顔してる! 可哀想ッ‼︎
心中お察ししちゃうよ〜っ。ああ〜、儂まで辛くなってきた……‼︎
そんなに気を落とさなくてもいいんだよっ! さっきまでネリアちゃんたちよりテーブルマナーちゃんとしてたの、ジジイはしっかり見てたからねッ!
「今のはセスのせいだよね?」
ええ⁉︎ なんで⁇
「え……倒したのは自分で……」
「いや、すまんっ。ネリアの言う通りだから、君は気にしないでくれ……」
なんで⁉︎
「ねっ! 気にしないでいいですからっ」
「でも……」
ネリアちゃんっ、ジャンくんを庇うためとはいえ急にセスくんのせいにするの無理矢理過ぎない⁉︎
それで受け入れてくれるセスくん良い子だなー!……でもやっぱりジャンくん納得してない表情‼︎
ネリアちゃんとセスくん、意味深なアイコンタクト交わし合うのやめたげて! ジャンくん不安がってるッ!
そもそも儂も2年前までは2人がくっ付くと思ってたからね⁉︎ そのつもりでお節介焼いてたからね⁉︎
ああ、もう……ジャンくん! ジャンくんはジジイとアイコンタクトしよっ⁉︎ ね! 君を孤独にはさせないッ……‼︎
「本当に申し訳……」
「2度も謝る必要は無い」
何度も謝らなくても本気で反省してるのちゃんと伝わってるよ! そんなに気に病まないで〜! 元気出して!
「……」
「パパも全然っ怒ってないから大丈夫ですよ〜」
「そうそう、先生が怒るときはもっと鬼神のような気迫があるもんな!」
「ねー! 私たちが子供の頃、教会でふざけてたときなんかさー……」
えーーっ⁉︎ 公共かつ神聖な場所でふざけちゃいけませんよ〜って、大事なことだからちょっぴり厳しめに注意しただけなのに、そんな怖がらせるようなこと言わないでーーっ‼︎
本当はこんなに繊細なジジイなのにーーーーっ‼︎……ぴえん。
…………
…………
儂はね、ジャンくんが異種族でも、ネリアちゃんが本当に望んだ相手ならいいんだよ。
ネリアちゃんのお母さんなんか、派閥のバランスを取るために仕方なくジジイと結婚させられて可哀想だったし。
儂も、ジェネレーションギャップでひたすら話の合わない相手は辛かったよ、明らかに愛想笑いなの見てて辛かった。
もし好かれても、それってきっと誘拐犯に人質が懐く現象と似てて、怖いから好かれようとして自己暗示してるだけだろうし。
寝室に他人が居るって休まらないし、それは相手の方がもっとそうだろうし。トロフィーワイフだなんて羨ましがる奴は、妻のことモノ扱いしてるなと軽蔑したよ。
彼女を先妻との間にできた娘と思うことで、やっと家族の愛情を持てるようになったけど……父性愛に目覚めると同時に、娘みたいな子が自分に嫁がされてる状況への嫌悪感も増した。
彼女には彼女の罪があるとしても、それを犯させた元凶は歪んだ状況で彼女は被害者だ。
だから儂は政略結婚が嫌い。それで幸せになれる人も勿論いることは知ってる。でも嫌だ。
ネリアちゃんには自身の意志で選択してほしい。エゴだけど、儂はそれを応援したい。
だからジャンくん、君が半獣人だなんてことは世間が思うほど儂は問題視してないし、寧ろ世間に流されることこそ問題視してる。
君がネリアちゃんを幸福にできれば資格は充分だし、それこそが必要なんだ。……逆に不幸にするなら赦さないよ?
……口に出しては言えないけど、儂の想い、ジャンくんに伝わってたらいいなぁ……