#65あいつ
なんだ、誰だ?
…そういえばおしゃぶりを渡す時の警官と同じだ。
…まさかあいつ?いや、あの切れ目は…
「なぁ!なに立ち止まってんだぁ?寝ぼけてんのかぁ?」
砕が呼びかけてきた。
「待って、今行くから」
「なあ、何にしたんだぁ?」
「…あぁ、牛丼にしたよ」
「おぉ、俺はラーメンにしたぜぇ…どうしたんだぁ?」
「まあちょっとね」
「無理には聞かねえけどよぉ、何かあったら言えよな」
「…じゃあ」
「本当かぁ?そんなことあるわけないだろぉ」
「本当なんだって、絶対そう、ちょっともう1回確認してくる」
「おうぅ」
僕は牛丼の屋台へ戻った。
そこにあいつはいなかった。
「あの、さっきまでいた警官は」
「…」
中には別の警官がいたが、何も喋らない。
「あの、さっきの人は喋ってくれたんですけど」
僕がそう言うと中の警官は驚いた顔をした。
「なあ!出せよここから!お前は人間だろ?!」
急に別の屋台の方から声が聞こえた。
「…」
怒鳴られた警官は怯えているが何も喋らない。
「何とか言えよ!#警官__お前ら__#と喋れんの今だけなんだよ!」
たしかにそうだけど、騒ぎを起こすのは…
あれ、日向ちゃんが近づいていく。
「何してるんですか?何かあったらポイント減らされるの忘れてます?」
日向ちゃんが怒鳴った男に向かってそう言うと、男はムスッとしたまま去っていった。
「大丈夫ですか?きっと喋らないのには理由があるんですよね」
そして日向ちゃんは優しく警官に話しかけた。
日向ちゃんは昨日までとは違って明るくなっていた。
1回お芝居をした時明るくなっていたけど、その時に近いかもしれない。
櫻さんがいなくなった悲しみから立ち直れたのかな。
「あ、稗田君!」
日向ちゃんは手を振ってこっちに向かって走ってきた。
「稗田君が私の家から出て行った後に砕さんに言われたことがあるの」
日向ちゃんは僕の手を掴んで喋りだした。
「「もし日向ちゃんがお姉ちゃんのことを本当に大好きだったんならよぉ、日向ちゃんも1回お姉ちゃんみたいに明るくなってみたらどうだぁ?まあ急には無理かもしれないけど、その方がお姉ちゃんは安心するんじゃねえかぁ?」って」
「それでずっとお姉ちゃんに頼りっぱなしだったから、次はお姉ちゃんみたいになるぞ!って思ったの、私お姉ちゃんがいないとダメなんじゃなくて、お姉ちゃんがいると安心して頼っちゃうのかもしれない」
日向ちゃんは笑顔でそう言うと砕の元へ向かった。
僕も日向ちゃんと砕の元へ行くと、砕はもう食べ始めていた。
「あ、先食べちゃってごめんなぁ、冷めちゃうと思ってよぉ」
「いや、全然大丈夫、日向ちゃんはご飯は?」
「あ、私も買わないと、行ってくるね」
日向ちゃんはさっき怒鳴られた警官の元へ、そこはたこ焼きの屋台だ。
「なあ、ところでよぉ、さっき言ってたやつとは会えたのか?」
「いや、もういなかった、別の警官になってたよ」
「そうかぁ、でも不思議だなぁ」
「ほんと不思議だよ、僕達みたいに閉じ込められてるなら分かるけど、なんであいつウコイック側なんだろう」
「絶対にその人なのかぁ?」
「絶対にそう、あの目はあいつだと思う」
「まあ、また喋れるといいなぁ」
「そうだ、あいつじゃない警官に前の警官はが喋ったって言ったら驚いてたんだ」
「たしかに俺がラーメン頼んだ時も何も言わなかったけど、その人だけは喋ってたんだなぁ」
「なんで警官なんだよ、涼…」
「でも親友だったんだろぉ?稗田っちに悪いことするやつじゃないんだろぉ?」
「小学校からの仲だからね…たしか僕が引っ越してからも遊んでた」
そう、あいつは僕の親友だ。