#47決着
…ここに来て、色々な出会いがあったな。
大体は出会いだけど、人によっては別れも。
出会って短いけれど、共に過ごした仲間だと僕は思っていた。
櫻さんが落ちるなんて想像つかなかった。
1番身近なチームメイトだったから。
「聞こえてる~?」
僕の肩に冷たい感触が。
「はい、ヘッドホンね~」
意識はあるが、体が動かない。
記憶が戻る時とはまた違う、これは脱力感がある。
初めての感情だ、キイックとかが落ちたあの時も凄かったけど、今回は櫻さんだったからか、より衝撃が凄い。
思考が止まらない、声が出ない代わりに頭の中で心の声がずっと流れている。
櫻さん、良い人だったな、いつも妹思いで……
というか、最後に僕に昔話をしたのはなんでだろう、僕なんて昔のことほとんど思い出してない……
…違う、また増えたんだ。
僕は、えっと…親友のことを思い出した、そう、ずっと仲が良かった。
名前までハッキリ分からない、でも僕には親友がいた、それだけはなんとなく分かる。
親父から酷い仕打ちを受けてた僕はしょっちゅう親友の家に遊びに行っていた、その記憶は鮮明にある。
「え~、そこのぼーっとしてる狼少年、誰に投票するか指差してください」
ヘッドホンから音声が流れた、でも、頭は動いてるのに体が本当に動かない。
「う~ん、ショックで動けないか、じゃあちょっと待っててね」
すると、ヘッドホンの音声が途切れた。
…えっと、そうだ、それで僕のお母さんはたしか、そう、僕を連れて家を出た、たしかあれは小学生の頃か?
そこからの記憶が無いな…
櫻さんと前に話したけど、僕は親父をずっと憎んでいる。
…でも、優しい時は優しかったんだ……
憎んでいるけど、それが本気か自分でも分からない。
どこか切なさを感じる、たしか当時もそうだった。
「そろそろ指差せる~?」
またヘッドホンから音声が流れた。
「ん…」
少し声が出せた、どうにか体も動かせた。
「じゃあその人ね~」
僕は誰に投票したか分からないけど、とりあえず誰かしらに指を差した。
「はい、朝です~」
次はヘッドホンから朝のお知らせが。
「なんか初めてだからよく分かんないんだけど、こっちの方が1人ずつに言わないで楽だよね~」
というか、今回目をつむらなかったな、僕はぼーっとしてたから見えてなかったけど……
アカムラが言わなかったのも、もう勝ちが確定してたからかな。
「じゃあ、話し合いスタート~」
誰が食べられたかの発表すらしない、それは初めてだからなのか、あえてなのか。
「まあ、あの人が言ってた通りならこれで勝ちだな」
「そこの3人の人達、大丈夫?とりあえずこれ、終わらせましょう」
「そう…ですね…」
だんだん体も動くようになってきた。
横を見ると、砕はさっきまでの僕みたいに放心状態、日向ちゃんは放心状態に加えてずっと涙が流れている、どちらも痛々しくて見てられない。
「これで、「みんなの勝利」って言えばいいんだよね」
「本当に大丈夫なんだよな、もし嘘だったらみんな落ちるんだぜ」
「お姉ちゃんは…嘘なんかつかない!!」
急に大声が聞こえてビックリしたが、その声は日向ちゃんだった。
「ご、ごめんな、自分のことを差し出してまで嘘つかねえよな」
「……」
日向ちゃんはまた黙り込んだ。
「いくぞ」
「「みんなの勝利」」
………
「パンパカパーン、今回の豆知識人狼は~嘘つき陣営の勝利~~~~」
勝った…でも櫻さんが落ちたんだ、素直に喜べない。
「じゃあ、他のグループが終わるまで待機ね~」
アカムラはそう言うと部屋を出た。
「砕、聞こえてる?」
砕は声をかけても何も反応しない、まだ付き合いが浅いとはいえ、こんな砕は今まで見たことがない。
「砕…」
「うっせぇ!!」
砕は僕の肩に乗せようとした手を思いっきり振り払った、凄く痛かった。
「わ、わりぃ、今色々考えててよぉ……」
「全然大丈夫だよ」
ビックリしたけど、今はそっとしておいた方が良さそうだ。
日向ちゃんは……日向ちゃんもそっとしておこうかな…
とりあえず、アカムラが言ったように待つしかないか…