18. 【異】王都創立記念祭 初日
何故かめっちゃ長くなった。
王都創立記念祭は4日間かけて行われる。
初日と2日目は国民主導で王都各地で様々なイベントが開催され、3日目の創立記念日当日は国王が中心となって王城で厳格な式典を実施する。4日目はまた王都全体で大騒ぎして締めるという内容だ。
「それじゃ初日はみんなで見て周ろう」
キヨカ達は話し合った結果、初日は全員で、2日目は各自ばらけて観光することに決めた。
「それは良いんだが、今日はどこに行くんだ?」
王都と言ってもかなり広い。
何処に行ってもイベントをやっているが、だからといって無策で歩き回るのも勿体ない。
「南地区の大通りや公園を周るので良いんじゃないかな。狭いところのイベントは大人数で行っても邪魔になるかもだし」
「ふむ……了解した」
「分かりました!」
「うん(コクコク)」
『お祭り楽しみ~』
レオナはすっかり定位置となったポトフの頭の上にいる。
「それじゃあ宿屋前の大通りを歩きつつ、近くの公園を目指してみよっか」
ショッピングやエンタメなど遊ぶところが多い南地区の公園なので、おそらくエンタメ寄りのイベントが開催されているだろうとキヨカは考えた。
宿を出ると、王都の雰囲気は前日までとは全く違い、人のざわめきに支配されて活気に満ち溢れていた。休日の渋谷よりも人手が多い。
「うわぁ、人多っ!」
「このお祭りを見に来た沢山の人がこの辺りに泊まってますから多いんですよ」
路肩には数多くの露店が並び、各店舗もお店の前に商品を並べたり小さなイベントを開催している。それらに集まる人と、その間を通る人達で歩道はごった返していた。
また、各地へ移動する魔道バスも臨時便を増発させてなお満席だらけでバス待ちの列が伸びている。
「ポトフちゃん、はぐれないように手を離さないでね」
キヨカはポトフの手をしっかりと握り、迷惑にならない程度にゆっくり歩いて祭りの雰囲気を味わう。セネールやケイがはぐれてもどうでも良い。
「わぁ~綺麗」
「お姉さん、これなんかどう?」
高級アクセサリー店が店先に小さな露店を出していた。女性の嗅覚でそれを見つけたキヨカが色とりどりのアクセを眺めていたら店員がアクセサリーを勧めて来た。
「流石に値段が……安い!?」
「お祭り特別価格だよ」
お店の売れ残りを処分するため、ではない。
かといって高級品を不当に安く販売しているわけでもない。
これはこのお店がお祭りのために用意した廉価版である。
店内には特別豪華なアクセサリーを用意し、店先では一般人が手の届く範囲での商品を展示する。こうすることで多くの人に自分の店の商品を見てもらいたいという作戦だ。
「欲しいけど普段使いはなぁ」
戦闘時に身に着けて壊れたら悲しい。となると買うのは戦闘が無さそうなオフの日用のものだ。
「もしよろしければ妹さんにこちらはいかがでしょうか」
「ヘアピン?」
「はい、様々なデザインのものをセットで販売しております」
勘違いされて困るものでもないため、妹さんという言葉を否定はしない。
お勧めされたヘアピンは小綺麗な箱の中に30個以上は入っている。試しに何個か手に取ってみると、決して安物とは言えないしっかりとしたデザインになっていた。
「これならその日の気分で変えられるし、数が多いから壊れてもあまり気にならないかな」
それにおしゃれにあまり気を使わないポトフにとっても、オシャレ入門としてはヘアピンは手軽である。
「それじゃあこれ頂きます」
「ありがとうございます」
この日からポトフは毎日違った形のヘアピンをつけることになった。
――――――――
アクセサリーといえば女性のための店と思われるかもしれないがもちろんそれは違う。日本のアクセサリー屋が女性向けになっているところが多いだけで、本来は男性も購入するものなのだ。
そのためセネールやケイも放置プレイで暇と言うことは無く、自分が欲しいアクセサリーを物色出来ていた。もっとも、セネールのセンスは壊滅的なのでキヨカに全部ダメ出しされたが。ケイはネックレスを購入してより可愛くなった。どこを目指すんだ。
アクセサリー屋で全員がショッピングを楽しめて満足し、次は公園に向かうことにした。
公園は大通り以上に活気が凄く、広場ではいくつものステージが用意されていて歌やダンスなどのショーが開催されていた。
また、ステージ以外でもミニアスレチックや力自慢による腕相撲大会など、参加型のミニイベントが数多く開催されていた。
『キヨちゃん、全部制覇しちゃおうよ』
「レオナちゃん!?」
『みんなもそう言ってるよ』
これは単なる無茶ぶりでは無い。
コメント欄でも同じような意見が並んでいたのだ。
『ミニゲームは全部やるべき』
『優勝すれば豪華賞品が!』
『強力なアイテムが手に入るかも』
『旅が楽になるかもよ』
『がんばれキヨカちゃん』
「いやいや、全部って無理だよ!?」
キヨカは歌唱大会と書かれたステージから目を逸らした。
歌が苦手と言うわけではないが、貸し出されたアイドル衣装を着て人前で歌うことなど、照れ屋なキヨカが出来るわけ無いのである。
とはいえレオナやコメント欄のアドバイスも尤もである。
お祭りでのミニゲームは強力なアイテムやレアアイテムを手に入れるチャンスである。店売りしていない特別な装備は最終盤まで使えることもあるし、単に金策として高価なアイテムを手に入れられることもある。
「でもせっかくだからいくつか参加してみよっか」
全部は無理にしても、お祭りなのだから参加してみたい。
キヨカが辺りを見回したら目に入ってきたのは、子供が楽しそうに遊ぶミニゲーム。
「大縄跳び?」
長い細縄の端と端を2人で持ち、それを上下に回転させて回す。
その中に立ち、縄が足元を通過するときにジャンプする遊びだ。
『あっ……』
『あっ……』
『あっ……』
『あっ……』
『あっ……』
日本では子供の頃に遊ぶことが多く、キヨカにとっても馴染み深いもの。油断していると縄が足にひっかかってしまうが、難易度としてはそれほど難しいゲームでは無いはずだ。それなのになぜかコメント欄が不思議な反応をしている。
「挑戦できるの子供だけなんだ。ポトフちゃん、やってみる?」
「うん(コクコク)」
ポトフが着ているローブは足元まで丈があるので飛びにくい。
そのためそれを脱いでキヨカに手渡す。
中は薄手の半袖ハーフパンツの健康的な服装だ。
年齢がもう少し高ければ色気が出ていただろう。
「この競技は目標回数があるのかい?」
セネールがスタッフの男性にルールを確認していた。
女性のスタッフの方が近くにいたが敢えて遠くの男性に話しかけたところ、やはりセネールは女性に話しかけるのが苦手なのだろう。イケメンにスルーされてその女性スタッフが少し悲しそうにしている。罪作りな男だ。
「三回飛ぶチャンスがあります。そのうち一度でも百回飛ぶことが出来れば賞品が貰えます。百回が無理でも参加賞がありますので、是非チャレンジしてみてください」
「百回で終わりなのか。ずいぶん簡単なんだな」
「あはは、子供向けの遊びですから。それにあまり沢山飛ばれると回す人の手が疲れてしまいますからね」
確かに人力で回すのに何百回も飛ばれたらしんどいだろう。
「難易度が高い大人向けの大縄跳びもございますので、興味がございましたら是非挑戦してみてください」
「隣のアレか……」
少し離れたところで、機械仕掛けで縄を回しているのが見える。
とてつもない速さで回る縄に翻弄されている男性の姿を見てセネールは少し臆する。
セネールはひとまずポトフを応援してから考えることにする。
「ポトフちゃーん!がんばれー!」
「ポトフくん、君なら出来るぞ!」
「ポトフさん、頑張ってください!」
『ポトフちゃーん!がんばー!』
『ポトフちゃんなら出来る』
『うわ、応援受けてドヤ顔してるかわえー』
『普段は感情表現が薄そうなのに見えて、実は案外表情がめっちゃあるっていうギャップが良いよな』
応援を受けてポトフが跳ぶ。
『いーち、にー、さーん……』
ポトフは一度目は五十四回で足を引っかけしまったが、二度目で百回を達成した。
「やったー!」
「良くやったな」
「凄いです!」
もみくちゃにされて喜ぶポトフだが、一回目で失敗したのが少し不服らしく複雑な表情をしていた。
「それではこちらから賞品をお選びください」
子供向けのイベントなので、賞品の内容はおもちゃやお菓子類が主だった。ポトフは以前も食べた顔ほどの大きさのある大きなペロペロキャンディを選ぶ。
「それじゃあ私達もやろっか」
「やはり挑戦するのか」
「あれ……ですよね?」
そこでは子供用とは比べ物にならない程のスピードの縄を必死に飛んでいる男性が縄を足にひっかけて倒れていた。
「三百四十一回です」
「くっそー!こんなの出来るかよー!」
魔石を埋め込んだ大縄跳びをするためだけに開発された機械が、人が回すのでは不可能なスピードやリズムで縄を回し挑戦者を翻弄する。
「まずは誰からやる?」
「はい!」
勢いよく手を上げたのはケイだ。
「でもケイ、その服装じゃ見えちゃうよ」
マントは外すとして、問題はスカートだ。
そう、スカートなのだ。
ケイは男だけどスカートなのである。
しかも丈がかなり短い際どいもの。
「キヨカさん、僕は男だから見えても大丈夫ですよ」
「ダメに決まってるじゃない!」
男だからとか女だからとかそんなことは関係ない。
スカートの中身が見えてしまうということが問題なのだ。
キヨカにとって、そこは聖域でなければならないのだ。
「ほら、これを履いて」
スパッツのような履物を手渡されたケイは、その場を離れ履いて来た。
これで見えても大丈夫……なのか?
そもそもスカートの中がどうなっていたのか、それは永遠の謎である。
「がんばります!」
大人向け大縄跳びの最大目標回数は千回。
百回、二百回など区切り単位で賞品が貰える。
何回もチャレンジ可能であるが、区切りの賞品が貰えるのは一度だけ。
「ケイがんばれ!」
「ケイくん、君の男らしさを見せて貰うよ」
「ふぁいとぉーぺろぺろ」
『ケイちゃん頑張ってー』
セネールの応援を聞いたギャラリーから、あいつあんなに可愛い女の子に何言ってるんだ、というヒソヒソ声が聞こえて来るがそれも仕方ないこと。胸が絶壁過ぎて分かりそうなものだが、フリルたっぷりの可愛いスカート姿に女の子だと勘違いする人が多数なのだ。
『どう見ても女の子にしか見えない……』
男だと知っているレオナですらそう思ってしまうのだ。
だがギャラリーやレオナを責めてはならない。
顔立ちや服装はともかく、両腕を胸の前で合わせ、内股でピョンピョンと跳ぶ仕草すら女の子にしか見えないのだから。
それでいてケイは精神的にはれっきとした男性なのだから恐ろしい。
「きゃっ、わぁっ、やっ」
「あれが素なんだ……」
「ケイくんを見ていると自分が常識だと思っていた物が崩れ落ちる気がするよ」
「口説いたりしないの?」
「流石にそれは冗談にならないから止めてくれたまえ」
案外コロっと成功してしまいそうなのがセネールとしては怖いのである。同時に、女性だと勘違いした他の男性の誘いを受け入れて、その人を特殊な性癖に目覚めさせる可能性があるため注意しなければとも思った。
「きゃっ!あ~あ、ひっかかっちゃった。これ難しいですよぉ~」
「ああ、うん、頑張ったね」
「どうしました?」
「ケイって本当に……ううん、なんでもない」
「?変なキヨカさん」
本当に男なのかとは聞けなかった。
証明します、などと言って脱がれても困るからだ。
結局ケイは三百八十二回でギブアップ。
三百回からスピードが非常に速くなり、なんとか粘ったもののこれ以上は無理そうだと判断した。賞品として王都内の有名レストランの割引券などをゲットした。冒険に関する物はなし。
それもそのはず、一般人には使い道のない冒険グッズなど賞品にはならないのである。
腕相撲などの力自慢が集まるミニゲームであれば、そのような賞品が存在する可能性はあったかもしれないが。
「それじゃあ次は僕の番だな」
セネールはケイを上回る五百十二回でギブアップ。
「ふっざけるなああああ!」
セネールは珍しく激昂していた。それはこの大縄跳びの嫌らしさに腹が立ったからだ。
五百回を越えるとスピードが速くなるのではなくて緩急つけるようになるのである。これまで必死に飛んできたところで予想外の変化に態勢が崩れてしまったのだ。何度か再チャレンジしたが、どうしても急激な変化に体がついていけずに諦めた。
「セネールの死は無駄にしないよ」
「僕は死んで無いぞ!」
ベタベタのボケに綺麗なツッコミを貰えたキヨカは満足げに大縄跳びへチャレンジに向かう。妙なところでポイントを稼いだセネールである。
「こういうの得意なんだよね。千回賞品は貰うから覚悟してね!」
「ふふふ、我々が作ったこの大縄跳びマシンは、そう簡単には攻略できませんよ。実際、未だ誰一人として千回達成したものは居ないのですから」
「それなら私が初の攻略者になるね」
「ほう、言いますね。それではお手並み拝見といきましょうか」
スタッフの人へ挑戦状を叩きつけ、不敵な笑みを浮かべたキヨカは意気揚々と大縄跳びを開始した。これで数回で終わってしまったら恥ずかしいのであるが、そんなありきたりのオチは無く順調に縄跳びを継続する。
キヨカはリズム感があり、体を動かすのが得意で、突然の事態への対応も出来る。
しかもセネールのプレイを見て予期せぬ動きが来ることは分かっている。
心の構えが出来ていればこの程度、どうとでもなるのである。
「責任者でてこーーーーーーい!」
ならなかった。
五百回を超えてからスピードが変化するが、それはあくまでも速いのと遅いのが交互に来るなど一定のリズムがあった。だが、八百回を超えた頃からそのリズムがランダムになり体のバランスを崩しにかかる。
ここまでは数回のミスで乗り切ったのだ。
本当の敵は九百回を超えてからだった。
そこからは絶対にクリアさせまいという製作者の悪意の塊のような設定になっていた。
飛ぼうと思った瞬間に突然縄が停止してフェイントをかけてきたり、飛んだはずの縄が何故かすぐに戻ってきたりと、キヨカの知っている大縄跳びでは無い何かへと変貌していたのだ。
「ああああああああ!」
今度は縄が真上から落ちて来て体に触れてアウトになった。あまりの非常識さに思わず発狂してしまう。
「キヨカくん、もう諦めたらどうだい。これは人間がクリア出来るようになっていないよ」
「そうですよ。九百回も飛んだだけでも凄いじゃないですか。格好良かったなぁ」
『キヨちゃん割と負けず嫌いだから……』
「ここまで来て諦められる訳が無いじゃない!絶対にクリアして見せるんだから!」
『だよねー』
キヨカが挑戦開始してからすでに二時間が経過している。セネール達は最初こそキヨカと一緒に一喜一憂したものの、すでに飽きているのだ。
『えぐい……』
『ただでさえ縄跳びは鬼畜ゲーなのにこれはねーわ』
『こんなんやられたら炎上間違い無しじゃん』
実際、単にスピードに変化がある縄跳びと言うだけで、難易度は高いのだ。
コメント欄の皆が経験したことのあるゲーム中での大縄跳びは、縄が降りてくるタイミングに合わせてジャンプボタンを押すだけのもの。それだけなのだが、タイミングがかなりシビアなのもあり、あまりにも難しいことで有名なのである。
それなのに、加えてクリアさせる気の無い非常識な縄の動きとくれば、大炎上待ったなしな案件である。
結局キヨカはほぼ一日費やして縄跳び千回を達成した。
「やったああああああああ!」
「バカな!これが初日にクリアされるだと!?」
「はぁっはぁっこんなの縄跳びじゃない!」
後で大会運営にクレームを入れようと心に誓ったキヨカだが、今はこの理不尽さを打ち破った快感に身を委ねる。
ちなみに、セネール達はとっくに他の所に遊びに行っている。
「そうだ、それで千回の賞品は?」
「くそぅ……こんな馬鹿な……あ、賞品はこれです」
「なにこれ?」
「記念トロフィーです」
「は?」
「ですから記念トロフィーです。だってこんなのクリア出来ると思わないじゃないですか、こんなものしか用意出来てませんよ」
「…………」
唖然とするキヨカ。
しばらく呆然と立ち尽くしていたが、時間が経つにつれて湧き上がる怒り。
その怒りの対象は、まともな賞品を用意していなかった大縄跳びスタッフではなく……
「れおなああああああああ!レアアイテム貰えるんじゃあかったのおおおおおおおお!?」
レオナと、その後ろにいるであろう地球の人達であった。
こういう使えないアイテムが、最高級の装備と引き換えになることもあるから諦めてはならないぞ。
マ〇オ オ〇ッセイ と F〇9 は絶許




