本当の始まり
メイさんへのプレゼントを買い終わり、ショッピングモールに残る理由もないため、寄り道をせず家へ帰ることにした。
買うものは買ったし、珍しい店も見ることができて、満足だった。
だけど、メイさんはそうでもなかったようだ。理由は明確だ。どうせ最後の店について行けなかったことに不満を抱いているのだろう。
「そろそろ機嫌を直してよメイさん。」
「じゃあ、何を買ったか教えてくれますか?」
「それは言えない。」
やけにくっついてくる。
あれ?そういえば、店にいたときはメイさんに近づかれてたら心臓が熱かったのに今は何も感じないんだろう。
胸に手を当てて確認してみるがやはり、なにも感じない。いや、何も感じないんじゃない。
落ち着いている?どうやら、ぼくの感情は不安定のようだ。
メイド服は正装と言って学校にその服装のまま来たり、私服は、今着ている服装のみ。
女の子としてどうなのかというところがたくさんある。だけど、それらすべてがメイさんなのだ。
メイさんと会えてよかったと、そう思う。
夕焼けの空を眺めて、大きなあくびを一つ吐くと、メイさんは早歩きで先頭に出る。
「シュウジさん、少しそこの公園で一休みしません?シュウジさんが買い物してるときにおいしそうなドーナツを買っておきました。」
メイさんは、ドーナツの入った袋を片手で掲げる。
もうそろそろ夕飯の時間だから、いつもなら遠慮しておくところだが...
メイさんもまだ作ってないだろうし、いつもより食べる時間は遅くなるだろう。
空腹の腹と相談し僕は、ドーナツを食べることにした。
「わかったよ、じゃあ少しだけ。」
「やった!」
飛び跳ね、公園内にあるベンチへ僕を置いて走っていく。
そして、ベンチに座り何やら膝を自身で軽く叩き、僕を誘ってくる。
「さあ、さあシュウジ様。私の膝に顔を置いてもいいんですよ?」
もちろんその誘いは無視した。公園には子供やその子らのお母さんが複数組いた。もう少しで欲望に負けそうになったが、こんな人目に付くようなところでするわけにもいかないし、付き合ってもいない女子の膝に寝転ぶなんてとんでもない。
僕は何も見なかったことにし、空いたスペースへと座る。
「でも、本当に何を買ったんですか?やましいものじゃなかったら聞きたいです!」
どうしてそこまで気になるのか疑問だが、まぁここで言っても家で言っても同じか。
そう思った僕は、観念してこの場で言うことに決めた。
「わかった、わかった教えるよ...」
「やりました!何を買ったんですか?」
「えっと...」
「シュウジ様?」
「...」
ダメだ恥ずかしい!
プレゼントを手に取り、準備はするもののなかなか言い出すことはできなかった。
プレゼントなんて、生きてきた中で家族や仲のいい友人にしたことがなかったため、すごく恥ずかしかった。ましてや女の子だ。チキンの僕が渡すには少しハードルが高すぎる。
「もう、じれったいですね。拝見させてもらいます!」
我慢できなくなったメイさんは、ついに僕の手元から取ってしまった。
そうして、メイさんはそれを見ると静まり返る。
「女の子の服...とズボン?」
「あーもう!それ、メイさんに買ったプレゼント!」
そう。お礼のプレゼントとして買ったものは、上下の衣類だ。もちろん、店の人に最近の流行りを聞いたが、服を選んだのは僕だ。
羞恥心で大声を出したくなるような気持ちを必死に抑え、メイさんの感想を待つ。
つぶった目蓋の隙間から、どんな反応をしているかを確認するがあげた衣服で顔が見えない。
もどかしい気持ちで反応を待つ。
「シュウジ様...」
「はい...」
「すっごい可愛いです!私、シュウジさんさんもご存じの通り、この服とメイド服しか持ってないんですよね。
だから、とっても嬉しいです。ありがとうございますシュウジ様!ほんと、本当にありがとうございます。」
目に涙を浮かべるメイさんと夕日の組み合わせは、幻想的な光景だった。普段見せることのない涙は、今メイさんが口にした「嬉しい」という言葉が裏のない言葉であるという証明と服のチョイスは間違っていなかった。そう言ってくれているように感じれた。
服を抱え込み手放す様子のない姿を見て、僕はホッとする。
女の子の趣味、思考なんて全然理解できないから喜んでもらえるか心配だった相馬は、緊張から解放された。
長いようで短かった買い物。明日がしんどくなるだろうから日曜日は遊ばないという気持ちから、明日頑張るぞという気持ちになれることを知れた今日。ほんとに楽しい一日だった。
夕焼けをバックにして遊ぶ子供を見る。
日常的な光景。それは突然、嫌な雰囲気にへと変貌した。
そんな時、ボールで遊んでいた2人の子供が高く大きく蹴り上げた。高く、打ち上げたなぁと呑気に見ているとメイさんは急に立ち上がる。どうしたのかと思い。メイさんが向ける視線へ僕も向く。
そこには、ボールを打ち上げた子とは別の男の子が、ボールの着地地点へ行こうと上を向きながら歩いていた。
その子の保護者は、他の保護者との話に夢中になっていてそのことには気づいていない様子だった。
「危ない。こっちに来るんだ。」
そう注意するが、もう言ったころにはもう手遅れだった。車のクラクションは住宅街に響き渡る。その時の僕の時間は止まり、一秒が長く感じた。
もうあの子は助からない。唐突だったな。こんな急にこういう事故がおこってしまうのか...
目の前で事故が起きるそう確信した時、視界に入る光景に違和感を覚えた。
いるはずのない人物。一緒に買い物をしてきょう一日を楽しんだ人物。
なんでそこにいるんだよ。
「メイさん...?」
そうして、車のブレーキ音が鳴りやまると同時に大事なものを失った気がした。